ライブ・アット・ザ・ヴィレッジ・バンガード/ ミシェル・ペトルチアーニ | スロウ・ボートのジャズ日誌

スロウ・ボートのジャズ日誌

ジャズを聴き始めて早30年以上。これまで集めてきた作品に改めて耳を傾け、レビューを書いていきたいと考えています。1人のファンとして、作品の歴史的な価値や話題性よりも、どれだけ「聴き応えがあるか」にこだわっていきます。


非常に遅ればせながらなのですが・・・・

いま、村上春樹さんの「1Q84」を読み進んでいます。

「BOOK1」が終わり、「2」に入ったところです。


「1」と「2」が出たのが去年の5月。

すぐにベストセラーになりました。

「3」が発売されたのが今年の4月で、

発売から2週間も経たないうちに100万部を突破。

大きな話題になりました。

どうして今更?と思われる方もいるでしょう。


それは雑誌「考える人」の2010年夏号で、

村上春樹さんのロング・インタビューを読んだからです。

3日間に及ぶインタビューで、

「1Q84」創作の過程が語られていました。

それまで、流行に乗るような形で読むのが

ためらわれたのですが、

何だかこの小説が気になって仕方がなくなり、

本屋に向かったのです。


読んでみると、止まらなくなりました。

こういう表現は褒めることにならないかもしれませんが、

「適度に通俗、適度に文学」なのです。

非常にスピード感がある、読みやすい文体であること。

出てくる人物が適度に「俗っぽく」、

リアルに感じられること。

これは、かつての村上小説で、

存在感が希薄な「透明なキャラクター」が多かったことを考えると、

大きな変化です。

それでいながら、小説の構造は複雑で、謎めいています。

これは凡百の小説家にはできない仕掛けだと思います。


あらすじはいろいろなところに出ているので

ここでは触れません。

私が特に興味を持ったのは、小説に描かれている

「1984年~1Q84年」という世界です。

まだ携帯電話もインターネットも普及していない時代。

政治では中曽根首相、レーガン大統領、サッチャー首相という

「鉄壁の新保守」陣営が政権を握っていました。

しかし、その弊害はまだあまり見えておらず、

バブルも起きていませんでした。

どこか「宙ぶらりん」な年だったのかもしれません。


小説では、そうした時代は「背景」程度にしか扱われていません。

しかし、そんな「宙ぶらりん」な時代にカルト宗教が

活発に活動していたり、家庭内暴力が繰り返し起こっている。

変化が、一見「穏やかな」時代に進んでいることが、

この小説に不思議な説得力を与えています

(小説のモデルとなっているオウム真理教が実際に事件を

 起こすのはもっと後のことですが・・・)。

時代はいつだって次に向けての「何か」を

含み持っているのですね。


今回はそんな時代に生まれたジャズ作品を聴いてみましょう。

ミシェル・ペトルチアーニ(p)が1984年に録音した

「ライブ・アット・ザ・ヴィレッジ・バンガード」です。


ペトルチアーニはフランス出身のピアニスト。

↓ずいぶん前にこのブログでも触れたことがあります

http://ameblo.jp/slowboat/entry-10136023427.html


骨の障害をものともせず、力強いピアノを弾いたペトルチアーニ。

その彼が21歳の時に吹き込んだ作品です。


1984年と言えば、ジャズ界ではウィントン・マルサリス(tp)らが

「若手ホープ」として活躍。

時代の趨勢もあって、「保守的」な演奏に

脚光があたっていました。

ペトルチアーニも「伝統に根ざしながらオリジナリティがある」

プレイヤーとして歓迎されていたように思います。

改めて聴くと、彼自身は懸命に「新しいもの」を

探していたようです。

「ナルディス」や「オレオ」といった

おなじみの曲でも好演していますが、

オリジナル曲に光るプレイがあります。


1984年3月16日、NY「ヴィレッジ・バンガード」での録音。


Michel Petrucciani(p)

Palle Danielsson(b)

Eliot Zigmund(ds)


①Nardis

ビル・エヴァンスの演奏でよく知られる曲です。

エヴァンスの影響を指摘されていたペトルチアーニとしては

チャレンジの一曲だったと思います。

ここで彼は、スピード感のある演奏と、

やや抽象的なフレーズを混ぜることで

オリジナリティを出しています。

イントロでのピアノ・ソロは、彼らしい抽象性と

叙情性が見事にマッチしたもの。

続いてリズム陣が加わると、躍動感が一気に出てきます。

ダニエルソンの図太いながらよく歌うベース・ソロの後、

ペトルチアーニが登場。

中低音を使った、意外性と攻撃性があるソロを聴かせます。

この辺りが、普通の解釈に流れない、

ペトルチアーニの面目躍如たるところでしょう。

ドラムのジグムンドはビル・エヴァンスとも

共演した経験がある人ですが、

ソロを聴いてもかなり力強く煽るプレイに徹しています。


⑤Say It Again And Again

ペトルチアーニのオリジナル曲。

力強さがありながら美しい、現代的な名曲です。

ロック・ビートか?と思えるようなリズムに乗って、

ペトルチアーニのソロが快調に進みます。

少しキース・ジャレットの「スタンダーズ」にも似た、

突き抜けた新しさがあります。

空間をどんどん広げていくような感覚と、

ピアノを「無理なく思い切り鳴らす」

スケールの大きなプレイ。

3分50秒を過ぎたあたりからの

雄大さに感心してしまいます。

やはりペトルチアーニは若くして「自分」を

持っていたのでしょうね。


その後、ペトルチアーニは1999年に36歳で亡くなるまで、

この作品に萌芽が見られた「力強さ」を追求していった気がします。


「1984年」という「宙ぶらりん」な時代を彼自身は

どうとらえていたのでしょうか。

障害のため、余命が長くないと言われていた彼は、

時代に合わせるよりも、自分のスタイルを確立することに

懸命だったかもしれませんが。