非常に遅ればせながらなのですが・・・・
いま、村上春樹さんの「1Q84」を読み進んでいます。
「BOOK1」が終わり、「2」に入ったところです。
「1」と「2」が出たのが去年の5月。
すぐにベストセラーになりました。
「3」が発売されたのが今年の4月で、
発売から2週間も経たないうちに100万部を突破。
大きな話題になりました。
どうして今更?と思われる方もいるでしょう。
それは雑誌「考える人」の2010年夏号で、
村上春樹さんのロング・インタビューを読んだからです。
3日間に及ぶインタビューで、
「1Q84」創作の過程が語られていました。
それまで、流行に乗るような形で読むのが
ためらわれたのですが、
何だかこの小説が気になって仕方がなくなり、
本屋に向かったのです。
読んでみると、止まらなくなりました。
こういう表現は褒めることにならないかもしれませんが、
「適度に通俗、適度に文学」なのです。
非常にスピード感がある、読みやすい文体であること。
出てくる人物が適度に「俗っぽく」、
リアルに感じられること。
これは、かつての村上小説で、
存在感が希薄な「透明なキャラクター」が多かったことを考えると、
大きな変化です。
それでいながら、小説の構造は複雑で、謎めいています。
これは凡百の小説家にはできない仕掛けだと思います。
あらすじはいろいろなところに出ているので
ここでは触れません。
私が特に興味を持ったのは、小説に描かれている
「1984年~1Q84年」という世界です。
まだ携帯電話もインターネットも普及していない時代。
政治では中曽根首相、レーガン大統領、サッチャー首相という
「鉄壁の新保守」陣営が政権を握っていました。
しかし、その弊害はまだあまり見えておらず、
バブルも起きていませんでした。
どこか「宙ぶらりん」な年だったのかもしれません。
小説では、そうした時代は「背景」程度にしか扱われていません。
しかし、そんな「宙ぶらりん」な時代にカルト宗教が
活発に活動していたり、家庭内暴力が繰り返し起こっている。
変化が、一見「穏やかな」時代に進んでいることが、
この小説に不思議な説得力を与えています
(小説のモデルとなっているオウム真理教が実際に事件を
起こすのはもっと後のことですが・・・)。
時代はいつだって次に向けての「何か」を
含み持っているのですね。
今回はそんな時代に生まれたジャズ作品を聴いてみましょう。
ミシェル・ペトルチアーニ(p)が1984年に録音した
「ライブ・アット・ザ・ヴィレッジ・バンガード」です。
ペトルチアーニはフランス出身のピアニスト。
↓ずいぶん前にこのブログでも触れたことがあります
http://ameblo.jp/slowboat/entry-10136023427.html
骨の障害をものともせず、力強いピアノを弾いたペトルチアーニ。
その彼が21歳の時に吹き込んだ作品です。
1984年と言えば、ジャズ界ではウィントン・マルサリス(tp)らが
「若手ホープ」として活躍。
時代の趨勢もあって、「保守的」な演奏に
脚光があたっていました。
ペトルチアーニも「伝統に根ざしながらオリジナリティがある」
プレイヤーとして歓迎されていたように思います。
改めて聴くと、彼自身は懸命に「新しいもの」を
探していたようです。
「ナルディス」や「オレオ」といった
おなじみの曲でも好演していますが、
オリジナル曲に光るプレイがあります。
1984年3月16日、NY「ヴィレッジ・バンガード」での録音。
Michel Petrucciani(p)
Palle Danielsson(b)
Eliot Zigmund(ds)
①Nardis
ビル・エヴァンスの演奏でよく知られる曲です。
エヴァンスの影響を指摘されていたペトルチアーニとしては
チャレンジの一曲だったと思います。
ここで彼は、スピード感のある演奏と、
やや抽象的なフレーズを混ぜることで
オリジナリティを出しています。
イントロでのピアノ・ソロは、彼らしい抽象性と
叙情性が見事にマッチしたもの。
続いてリズム陣が加わると、躍動感が一気に出てきます。
ダニエルソンの図太いながらよく歌うベース・ソロの後、
ペトルチアーニが登場。
中低音を使った、意外性と攻撃性があるソロを聴かせます。
この辺りが、普通の解釈に流れない、
ペトルチアーニの面目躍如たるところでしょう。
ドラムのジグムンドはビル・エヴァンスとも
共演した経験がある人ですが、
ソロを聴いてもかなり力強く煽るプレイに徹しています。
⑤Say It Again And Again
ペトルチアーニのオリジナル曲。
力強さがありながら美しい、現代的な名曲です。
ロック・ビートか?と思えるようなリズムに乗って、
ペトルチアーニのソロが快調に進みます。
少しキース・ジャレットの「スタンダーズ」にも似た、
突き抜けた新しさがあります。
空間をどんどん広げていくような感覚と、
ピアノを「無理なく思い切り鳴らす」
スケールの大きなプレイ。
3分50秒を過ぎたあたりからの
雄大さに感心してしまいます。
やはりペトルチアーニは若くして「自分」を
持っていたのでしょうね。
その後、ペトルチアーニは1999年に36歳で亡くなるまで、
この作品に萌芽が見られた「力強さ」を追求していった気がします。
「1984年」という「宙ぶらりん」な時代を彼自身は
どうとらえていたのでしょうか。
障害のため、余命が長くないと言われていた彼は、
時代に合わせるよりも、自分のスタイルを確立することに
懸命だったかもしれませんが。
