私が時おり訪れる東京・中野の洋風居酒屋があります。
このお店、スタッフの皆さんの感じが非常にいい。
いつも私は一人でカウンターに座るのですが、
「つかず離れず」の接客なのです。
私が黙って飲んでいるときは放っておいてくれ、
退屈そうにしていると、さりげなく話しかけてくれます。
先日も、そんな流れの中で店長との会話が始まりました。
店長はサッカー・ファンでもあり、
W杯の際にはお店のモニターでお客さんと観戦するとのこと。
私は「W杯に向けて、日本での盛り上がりが今一つじゃないですか?」
と店長に訊いてみました。
「そうですねえ・・・確かに世界のレベルと比べると、
日本代表はなかなか厳しいですから・・・。
まあ、互角に戦えればいいと思って、応援するだけです」
というのが店長の反応。
私は、「健全なファンだなあ」だと感じました。
W杯まで、あと3週間ほど。
始まれば確実に「盛り上がる」と思います。
しかし、その「盛り上がり」には、
本当に日本代表を応援するものと、
「祭りに乗っちゃおう」という「軽いノリ」の
二つがある気がします。
別に「軽いノリ」が悪いというわけではありません。
ただ、W杯への盛り上がりが今一つな背景には、
「軽いノリ」で応援する人が「ノリにくい」ことがあると思うのです。
現在の日本代表メンバーは、「小粒」な印象ですし、
かつての中田選手のようなカリスマがいるわけでもありません。
予選の相手チームも強敵ばかり。
一つでも引き分けに持ち込めれば御の字、という予測もあります。
「軽いノリ」で応援する人たちは、
お祭りで「勝ち馬に乗れそう」であれば大いに盛り上がります。
しかし、そうでなければ、途端に熱が冷めてしまう
傾向があるように見受けられます。
せっかくの4年に一度の機会。
「弱小チームの負け戦」であっても、
温かく見守る姿勢があってもいいように思います。
居酒屋の店長のような「ぶれないファン」が
日本のサッカー文化を支えていくのではないでしょうか。
ジャズの世界でも「小粒」なプレイヤーながら、
熱心なファンに支持される人がいます。
トランペッターのジョー・ゴードンです。
ゴードンは1928年、ボストン生まれ。
ディジー・ガレスピー(tp)やシェリー・マン(ds)の
サイドマンとして活躍した人です。
センスが良く、力強さもあるのですが、
突出した個性がないために埋もれてしまったようです。
それでも、根強いファンがおり、
何年かに一度、必ず作品が再発されます。
今回は、そんな彼が全編、作曲を手掛けた
「ルッキン・グッド!」をご紹介しましょう。
作曲の才能も「小粒だがキラリと光って」います。
1961年7月11日、12日、18日、
ロサンゼルスでの録音。
Joe Gordon(tp)
Jimmy Woods
Dick Whittington(p)
Jimmy Bond(b)
Milt Turner(ds)
①Terra Firma Irma
「テラ・ファーマ・アーマ」と読むらしいのですが、
何とも不思議なタイトルです。
ゴードンの奥さんにちなんだ名前だとのこと。
60年代のモード風の香りがあるメロディで、
ゴードンが新しいものを取り入れる感覚の
持ち主だったことが分かります。
最初のソロはゴードン。
切れのいいトランペットで、
リズムの変化に合わせて展開を変えていく
アイディアも豊富です。
続くジミー・ウッズのアルト・サックスは
熱がこもったもの。
やや泥臭さも見せつつ、思い切り吹いています。
収穫はピアノのディック・ホイッティントン。
無名の人ですが、スピード感のあるプレイが印象的で、
ハード・バップに収まりきらない可能性を感じます。
②A Song For Richard
ゴードンを励ましてくれた
トランペッターに捧げた曲。
マイナー調の愛らしい曲で、
こうした曲が書けるゴードンのセンスを
評価するファンがいるのも頷けます。
ゴードンはミュートを使ってのプレイ。
派手さはありませんが、バランスが取れた
品のいいソロを取ります。
ジミー・ウッズは少し粘りのある独特の音色で、
熱さを持ちつつ、曲の抑えた感じを取り入れた
ソロを吹いています。
⑥Mariana
マイナー調のワルツ。
どこかハーブ・アルパート(tp)的なポップな響きと
哀感が混じり合う、面白い曲です。
オリジナルのライナー・ノートで、レオナルド・フェザーが
パーカッションに「カスタネット的な響きがある」ことを指摘。
確かに、民族音楽的な雰囲気もあり、
そこが魅力でもあります。
ゴードンのソロは、アルバムの中でも印象的で、
マイナー・ムードの表現にも
彼が能力を持っていたことを窺わせます。
ジミー・ウッズのやや「くどい」節回しも
曲の中で中和され、落ち着いて聴けます。
このアルバム、サイドマンも知名度が低い人ばかり。
まさに「小粒なミュージシャンの世界」が展開されていますが、
レコード会社にもファンがいて、
こういう作品を世に送り出し続けているのでしょう。
そんな温かい視線がジャズの世界に豊かさをもたらしているのは
間違いありません。
