ヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン | スロウ・ボートのジャズ日誌

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ジャズを聴き始めて早30年以上。これまで集めてきた作品に改めて耳を傾け、レビューを書いていきたいと考えています。1人のファンとして、作品の歴史的な価値や話題性よりも、どれだけ「聴き応えがあるか」にこだわっていきます。


ジャズ関連で連日、ニュースが飛び込んできています。

ジャズの専門誌「スイングジャーナル」が

来月発売の7月号で休刊することが分かったのです。


この雑誌の創刊は1947年。

国内で発売される作品のレビューを一挙に掲載したり、

毎年、「ジャズ・ディスク大賞」を選定するなどしてきました。

この雑誌が日本におけるジャズ文化を

牽引してきたことは間違いありません。


休刊の理由として、部数と広告収入の減少が

挙げられています。

その背景は何なのでしょうか?

私は休刊のニュースを受けて、

ことしの5月号を購入し、

久しぶりにゆっくりと目を通してみました。


そこで分かったのは、この雑誌の「変わらなさ」でした。

4ビートを基本とするモダン・ジャズを重視した記事、

著名なミュージシャンのディスコ・グラフィー、

巻末にあるライブ情報・・・・。

確かに、魅力がある記事もあるのですが、

こうした情報の多くが、ここまで整理されていなくても、

インターネットで手に入る時代になりました。

ありがちな情報では満足してもらえないほど、

雑誌にとっては厳しい時代になっているのです。


しかし、「スイングジャーナル」には

何とか復刊してもらいたい、というのが私の希望です。

理由は大きく分けて二つあります。


一つは、日本の「ジャズ・シーン」が

無くなってしまうことを恐れるからです。

「あの雑誌を見れば、どんな作品やミュージシャンが

話題になっているか分かる」

というのは、非常に大切なことです。

ジャズに関心のあるプロからアマチュアまでが目を通し、

共感や異論を交わせる「場」、つまり「シーン」がなくては、

ジャズ界全体がやせ細っていきます。

こうした「シーン」が解体していくのが

インターネット時代なのかもしれません。

それでも、「見識を示す場」が無くなることは、

「ジャズの漂流」を意味するでしょうし、

寂しいことだと思うのです。


もう一つは、「初心者がとっつきやすい資料」が

なくなってしまうからです。

「スイングジャーナル」の批評や

「ゴールド・ディスク」と呼ばれる推薦盤は

初心者がジャズを聴くときの指針になります。

残念ながら、批評の中には、

レコード会社に肩入れしていたり、

好みばかりが強調されているものもあります。

しかし、どんな世界でも、

「最低限、これは知っていると良い」という基本があります。

それを押さえた上で、自分の好みを追求すればいいのです。

「スイングジャーナル」の休刊で

「ジャズの基本情報」が手に入りにくくなることを

懸念します。


こんなことを考えてしまうのも、

私がこの雑誌に「恩義」を感じているからかもしれません。

ジャズを聴き始めたばかりの10代のころ、

「スイングジャーナル」の「ゴールド・ディスク」を知るたびに、

「どんなサウンドなんだろう」とドキドキしたものでした。

そして、「雑誌の評価」と「自分の実感」が合致した時、

非常にうれしかったのを覚えています。

そんな経験を繰り返すうちに、いつしかジャズに

どっぷりと漬かってしまいました。


今回はそんな「ゴールド・ディスク」の一つを

取り上げましょう。

ジャズ史に残る傑作

「ヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン」です。


「ニューヨークのため息」と称される

ハスキー・ヴォイスのヘレン・メリル(vo)が、

クリフォード・ブラウン(tp)ら若手の名手と組んだ作品。

アレンジはクインシー・ジョーンズ。

紹介するのも恥ずかしいほど「超基本情報」ですが、

こうしたことを私は「スイングジャーナル」から

学んだのです。


1954年12月22日と24日、NYでの録音。


Helen Merrill(vo)

Clifford Brown(tp)

Danny Bank(bs,b-cl,fl)

Jimmy Jones(p)

Barry Galbraith(g)

Milt Hinton(b)

Osie Johnson(ds)

Oscar Pettiford(b,cello)

Bobby Donaldson(ds)

Quincy Jones(arr,cond)


①Don't Explain

ビリー・ホリディが実体験も踏まえて作った曲。

男性の浮気を題材にしており、

言い訳しようとする男性に

「説明しないで」(Don't Explain)

と語りかける内容です。

非常に悲しい曲を、若干25歳のヘレンが

切々と歌います。

ハスキーな声で、かつ静かに語りかけてくる

ヘレンの声に説得力があります。

これが感情的な表現だったら

完全に引いてしまうでしょうが・・・。

クリフォード・ブラウン(tp)のソロもお見事。

彼のビッグ・トーンを抑えつつも、

あふれてくる温かな情感が伝わってきます。

彼が入ると、音楽が「血の通った」ものになることを示す

好例です。


②You'd Be So Nice To Come Home To

コール・ポーターが作曲した有名スタンダード。

このトラックについては、あらゆるところで

その魅力が書きつくされているので、

私にはほとんど語るべきことがありません。

ただ、あえて一つだけ指摘しておくと、

曲が始まってから2分過ぎのところで始まる

クリフォード・ブラウンのソロが本当にすごい!

特に最初の数音が確信に満ちており、

これだけでも名演と言われるだけの価値があります。

ヘレンのほのかな色気がある歌唱が素晴らしいのは

言うまでもありません。


④Falling In Love With Love

ロジャース~ハート作曲のスタンダード。

ユーモラスな曲に、クインシーのアレンジが光っています。

ホーン陣がつける低音を重視した伴奏と、

ギターの隠し味のようなサウンドをバックに、

ヘレンが伸び伸びと歌っています。

やはり勢いがあるのはクリフォード・ブラウンのソロ。

音の強弱が明確で、非常にダイナミックに聴こえるのです。

人間的な魅力と天才的な技量、天は二物を与えたのですね。


もしも、「スイングジャーナル」が復刊するとしたら、

新作の情報を発信するとともに、

こうした傑作の素晴らしさに「新しい切り口」を

加えなくてはいけないのではないでしょうか。


私のような素人が語れるレベルではない、

歴史的な背景や、新たな発見。

編集部はそれらを記事にできるような人材を

抱えているはずです。

それぐらいの「深み」がないと、

いまの時代に雑誌という媒体が生き残ることは

難しいと思います。