アイドル・モーメンツ/グラント・グリーン | スロウ・ボートのジャズ日誌

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ジャズを聴き始めて早30年以上。これまで集めてきた作品に改めて耳を傾け、レビューを書いていきたいと考えています。1人のファンとして、作品の歴史的な価値や話題性よりも、どれだけ「聴き応えがあるか」にこだわっていきます。

Idle Moments


この1週間、仕事などでストレスが溜まるようなことが多く、

ちょっと疲れ気味です。

そんな時も私はジャズを聴くわけですが、

こういう場合は選曲に迷います。


明るいものを聴いて、気分を一新するか?

それとも暗い気分に沈み込んでいって、

「底」まで達してから、再び立ち直っていくか?

ストレスがシンプルな理由によるものである時は

前者がいいように思います。

しかし、いろいろと複合的な要因があって、

ちょっとやそっとでは気分が晴れそうもない時は、

後者がいいような気がします。


グラント・グリーン(g)の「アイドル・モーメンツ」。

落ち込んだ時に聴くと、実にいい作品です。

それは、ひとえに冒頭のタイトル曲の力によります。

実に「怠惰な」感じのするメロディと、

全体を覆うブルージーな雰囲気。

この流れに身を任せると、

「落ちるところまで落ちた」気分になり、

聴き終えると不思議と落ち着きます。


グラント・グリーンは1935年生まれのギタリスト。

この作品が録音された1960年代前半は、

ブルー・ノートからリーダー作を次々と出しており、

勢いがあった時です。

「アイドル・モーメンツ」全体を聴くと、

ジョー・ヘンダーソン(ts)やボビー・ハッチャーソン(vib)が

参加しており、新しい感覚の曲もあるのですが、

今回はその辺りを省略します。


1963年、ニューヨークでの録音。


Grant Green(g)

Joe Henderson(ts)

Bobby Hutcherson(vib)

Duke Pearson(p)

Bob Cranshaw(b)

Al Harewood(ds)


①Idle Moments

デューク・パールソンの作曲。

ですが、グリーン自身が作曲したのではないかと

思われるほどの「はまり曲」です。

非常にレイジーなギターでメロディが提示されますが、

デューク・ピアソンの美しいピアノがまぶされることで

救いが感じられます。

ギターソロは、グリーンが得意とする短音を生かしたもの。

一貫してスロー・テンポのリズムに乗って、

じっくりと弾いていきます。

R&Bの香りもする、「真っ青」な演奏です。

不思議と、こういうブルーで、「隠し事のない」

シンプルな演奏を聴くと、心が休まります。

そこに、同じくブルージーながら、

やや洗練の味わいを加えてくれるのがピアソンのピアノです。

きらめきのある音で、しかし音数は少なく、

しっとりと語りかけてきます。

そして、意外に恐る恐る入ってくるのがジョー・ヘンダーソンのテナー。

斬新な演奏で知られる彼ですが、ここでは「ズッズッ」と

絞り出すような音で「Idle」な世界を描き出しています。

このソロの途中から少しだけテンポが上がります。

ヘンダーソンの落ち着いたトーンは変わらないのですが、

何となくこの辺りから落ち込んだ気分が「底」を抜けたような

気がしてきます。

続いて、ハッチャーソンによるバイブラフォン。

テンポはスローに戻っていますが、

彼の持っている新しい響きが、

なぜかこのレイジーな曲の終わりを暗示します。


15分近くに及ぶ長尺の演奏が終わると、

ブルーな気分をいっぱいに吸った気がして、

逆に「こうもばかりしていられないな」と思えてきます。

「ブルース」というと物憂げな感じがしますが、

根底にある温かさが勇気をくれるのではないでしょうか。


何かのはずみで、落ち込んだ夜に一人になったとき、

ぜひ「アイドル・モーメンツ」に浸ってみて下さい。

立ち直るきっかけが得られるはずです。