シダー!/シダー・ウォルトン | スロウ・ボートのジャズ日誌

スロウ・ボートのジャズ日誌

ジャズを聴き始めて早30年以上。これまで集めてきた作品に改めて耳を傾け、レビューを書いていきたいと考えています。1人のファンとして、作品の歴史的な価値や話題性よりも、どれだけ「聴き応えがあるか」にこだわっていきます。

Cedar!


ジャズを聴くときに求めるもの、いろいろあると思います。

安らぎ、気持ちよさ、激しさ、愁い、温かさ・・・・・

私の場合、これに「渋さ」が加わるときがあります。


いま、何かにつけ「言いたいことを明確にすること」が求められ、

あいまいさなどは敬遠されがちです。

でも、人間そのものがあらわれる音楽では、いろんな表情があっていい。

言葉にできないもの大歓迎!

というわけで、人間の中から滲みだしてくるものの一つ、

「渋み」を感じさせてくれる作品をご紹介しましょう。


ピアニスト、シダー・ウォルトン(p)が1967年に録音した作品。

彼は、1960年代から頭角を現したピアニストで、

アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズでの

活躍以降、有名になりました。

ハード・バップを踏まえつつ、新しいモーダルなプレイもできるということと、

その安定感で重宝されてきた人です。

強烈な自己主張をするタイプではないので、サイドマンとしての起用が多く、

この時期のリーダー作も多いとは言えません。


そんな彼が作ったリーダー作、まずメンバーが渋い!

プロデューサーのドン・シュリッテンが

自分の聞きたい通好みの音楽を作るために集めたのか、

はたまたシダーの趣味なのか・・・・。


Cedar Walton(p)

Kenny Dorham(tp)

Junior Cook(ts)

Leroy Vinnegar(b)

Billy Higgins(ds)


特に、ケニー・ドーハム(tp)の参加が

作品全体に影響を与えていると思います。

これについては後述します。


①TURQUOISE TWICE

シダーが作曲したオリジナル。

このトラックの不思議さは、斬新さと「渋さ」がミックスしていることです。

冒頭のピアノはモーダルな響きで、この時代に生まれた

新しい音楽が始まることを予感させます。

しかし、その後に切り込んでくるドーハムのトランペットが非常に枯れていて、

一瞬「あれ?合うのかな?」と思ってしまいます。

でも、心配無用。

ハードボイルドの小説で、現代社会に人間臭い探偵が登場するように、

なぜか曲全体の中でドーハムの音がぴたりとはまるのです。

おそらく、ドーハムは自分のやや古いスタイルは自覚しつつ、

他のメンバーの音楽を理解して、自分の居場所を作ったのでしょう。

ベテランらしい「渋い」配慮だと思います。

その後のシダーのプレイは、モード的な新しいタイプの組み立てですが、

どこか落ち着いた、これまた「渋い」プレイ。

やはりドーハムに影響されたんでしょうか。


②TWILIGHT WALTZ

これもシダー作曲のオリジナル。

まずメロディーでドーハムが強力なリズム陣を背景に、

哀愁漂うトランペットを響かせます。

これでこの曲の「渋いトーン」が決まってしまったようなもの。

続くシダーはモーダルで時に攻撃的なプレイをしますが、

どこかで抑制がきいていて、爆発しません。

その後、ドーハムによるメロディーに戻ります。

なんと・・・ドーハムの参加はメロディーだけ!

それでもこの曲に対する影響力、不思議なものです。


考えてみると、このアルバムのために集まったメンバー、

皆「いい耳を持っている」人ばかりです。

お互いの音をよく聴き、どんな音楽を全体として作るか、

考えられる人たちではないかと推察します。

この作品の「渋み」は、ドーハムの影響力もさることながら、

それぞれがお互いを立てる「謙譲」の精神にあるのではないでしょうか。

そこに、リーガーが持つ新しい時代へのセンスが加わって、

忘れ難い佳作となっています。