「天才」と「秀才」の間には大きな違いがあると思います。
その違いとは、普通の人から見て「理解できるか」ではないでしょうか。
私がまだ10代の頃、兄の友人に「天才」がいました。
理系の頭脳を持つ方で、中学時代には高校生が習うような数式を、
高校時代には大学クラスの証明を難なくこなしてしまうような人でした。
確か、大学から研究者の道を進まれたはず。
この方、私から見て全く「理解できない」人でした。
とにかく、頭の回転が常人とは全然違うし、
いつも何かブツブツ呟いている間に、すごい問題を解いてしまうのです。
ご本人は努力していたのかもしれませんが、
私から見る限りでは、あっさり困難を解決しているようにしか
見えませんでした。
そう、「秀才」には努力の跡が見えますが、
「天才」はもっと軽やかにすごいことをやってのけるのです。
では、ジャズ界での天才とは・・・・・
私が思いつくのがこの人、フィニアス・ニューボーン・ジュニアです。
フィニアス・ニューボーン・ジュニアは1932年メンフィスに生まれ、
23歳でデビュー作「ヒア・イズ・フィニアス」をレコーディングしました。
デビュー前からジョン・ハモンド、カウント・ベイシーといった大物が
注目していたようで、
超絶技巧から「アート・テイタム(p)の再来」とも騒がれたようです。
このデビュー作で彼の「天才性」が感じられるのは、
あっさりすごいフレーズを繰り出してくる、「何気なさ」です。
他の人なら努力して努力して、ようやくたどり着くような境地に、
フィニアスはささっと届いているようなのです。
彼はR&Bを演奏する音楽一家で育ってきたのですが、
それだけでは説明できない、ただならぬセンスを持っています。
デビュー作では大先輩とトリオを組みました。
Phineas Newborn Jr.(p)
Oscar Pettiford(b)
Kenny Clarke(ds)
このメンバーに囲まれて臆せず演奏するところが大物です。
①Barbados
イントロの緊張感があるピアノの数音を聴くだけで、「何かが始まる」
予感がします。
クラークのブラッシュ・ワークに乗りながらのフィニアスのソロが見事。
はっきりと粒が整った音色を保ちながら、
時にうねる波のように音をつなげてみたり、
右手と左手を同時に使って、複雑なフレーズを作ってみたり。
装いは通常の4ビートジャズですが、実は難しいことを軽々と
やってのけています。
②All The Things You Are
冒頭、おなじみのメロディを、ピアノ・ソロで弾いていくフィニアス。
澄んだ音色とピンと張り詰めたような独特の緊張感がある演奏で、
「普通とは何か違う」と思わせます。
当初のスローから、徐々に素早いフレーズを交え、
ドラマチックに盛り上げていく展開が見事!
これを聴くだけでも、このアルバムを買う価値があります。
ドラム・ベースが加わってからのピアノ・ソロはなかなか攻撃的。
高音をフルに使った、流れるようなフレーズと、強力なスイング感。
その一方で左手による低音で絶妙のアクセントをつける。
ある意味、「息が詰まる」ようなスリルのある展開です。
ラストのメロディーでのピアノ・ソロは、勢いがあり圧倒されます。
天才が本気を出すと恐い。
⑧Afternoon In Paris
ジョン・ルイス(p)が作った優雅な曲。
ここでのフィニアスは曲の雰囲気もあって、少しホッとする演奏。
ただ、鋭さは相変わらずです。
ピアノソロでは音数を絞りつつ、
「勝負するところはする」といった感じで、
時に両手を使った急速フレーズを出してきます。
あきらかに通常とは異質のソロ構成はどこから来たのか?
天才の勘でしょうか?
正直、通して聴いてみて、フィニアスのプレイを「理解できたか」
分かりません。
それに、彼のプレイは凄すぎて、日常的に聴くにはちょっと
疲れる気がします。
でも、天才ってどこか気になるもの。
きっとこれからも年に数回取り出してみては
その天才性に圧倒されるという聴き方をするのだと思います。
たまにピカソの絵を見たくなる感じと似ているかもしれませんね。
