ホライズンズ/フレッド・ハーシュ | スロウ・ボートのジャズ日誌

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ジャズを聴き始めて早30年以上。これまで集めてきた作品に改めて耳を傾け、レビューを書いていきたいと考えています。1人のファンとして、作品の歴史的な価値や話題性よりも、どれだけ「聴き応えがあるか」にこだわっていきます。

Horizons


ビル・エヴァンス(p)は罪な人だな、と思います。

ジャズの世界に「白人によるリリカルな世界」をしっかりと作り、

他の追随を許さないスタイルを確立してしまったのですから。

フランスの作曲家・ドビュッシーの影響も受けた品の良さ。

他のメンバーとの知的なインタープレイ。

エヴァンスはジャズの中に一つのジャンルを創造したと言っても

過言ではありません。


そのため、彼に近いスタイルのピアニストが後に出てきても、

「エヴァンス派」として括られてしまい、

なかなか個人名で覚えてもらえないという事態が発生しました。

今回ご紹介するフレッド・ハーシュ(p)もその一人です。


ハーシュは1977年からニューヨークで活動。

アート・ファーマー(tp)やジョー・ヘンダーソン(ts)、

ウディー・ハーマン(tp)といった大物とプレイしてきました。

リーダー作は正確に数えていませんが、既に20数枚にはなるでしょう。

立派なヴェテランですが、どんな人?と尋ねられると、ちょっと困る。

「エヴァンスの影響を色濃く受けた、現代のピアニスト」

と答えるのが一番無難な回答になってしまいます。


ハーシュ自身、エヴァンスがアイドルであることを認めていますし、

ブラームス、ストラヴィンスキー、バッハ、モーツアルトといった

クラシックも大好きなようです。

これではますますエヴァンスに近づいてしまうではありませんか。


なかなか「エヴァンス派」の型を破れない中で、

印象的なトラックをいくつか収めた作品があります。

それがこの「Horizons」です。

ハーシュがレパートリーとしていた曲ばかりを集め、

「フィーリング」で作ったというアルバム。

やや勢いに乗ってレコーディングしたことが、

彼の個性を引き出すことにつながったと思われます。


1984年の録音。メンバーは以下の通り。


Fred Hersch(p)

Marc Johnson(b)

Joey Baron(ds)


②Moon And Sand

ハーシュの独自性としては、「エヴァンスよりもスムーズな指使い」が

あると思います。

全然モタつかず、流れるような華麗さがあるのです。

この曲では、それが良い方向に働いています。

冒頭の月光のきらめきを思い起こさせるイントロ。

そこからメロディーを紡ぎだす手並みの鮮やかさ。

アルバムの中でも最大の聴きものです。

ソロでは、月光の淡さ・はかなさを表現するためか、

時に断続的なフレーズで攻めてきますが、

これが効果的です。

次第にソロは盛り上がり、手数も多くなりますが、

華麗さは相変わらず。

この辺りの滑らかさが、彼の真骨頂でしょう。


④One Finger Snap

ハービー・ハンコック(p)のオリジナル。

こうしたポップな曲でもハーシュは見事な適応力を見せます。

ソロではエヴァンスというよりはハービーに近い、

攻撃的でスピーディーなタッチを見せます。

こうしたスピード感がハーシュの魅力でもあり、

新しさでもあります。


⑥Miyako

ウェイン・ショーター(ts)のオリジナル曲。

彼の書く曲はどこか不思議な雰囲気を漂わせたものが多いのですが、

これもその一つです。

どこか「掴みきれない」メロディーを、ハーシュは美しく淡々と弾いていきます。

うまいなぁと思わせるのは、思い切った空間の広げ方です。

ソロの後半、右手で高音を重ねながら、

左手でちゃんと抑えのフレーズ(リズムではなく)を作り、

曲の可能性をも広げています。

この辺りの解釈は非常に現代的と言えるでしょう。


エヴァンスからウィントン・ケリー、トミー・フラナガン、

そしてハービー・ハンコックと、様々なスタイルを消化して、

うまくまとめあげている。

その「消化力」がハーシュの個性かもしれません。

若干、「八方美人」と取られるかもしれませんが、

そのまとまりの良さ、安定感はなかなかのものです。

安心して音楽を聴きたいとき、夜中に安らぎたいときなどに聴くと

いいでしょう。

ただ、やはり「エヴァンス派」であることは否定できないかな・・・・。

それだけ、エヴァンスのスタイルは破りにくいものなのでしょう。