ギターの天才がサウンドの全体設計を気にすることなく、
気ままに名人芸を披露した快作。
ジョー・パス(g)は1929年生まれ。
早くからその才能は開花していたようですが、
1950年代はドラッグに溺れ、20代を台無しにしてしまいます。
その後、薬物依存症患者が集まる施設で更生し、
1963年のこのアルバムで本格的なデビューを果たしています。
デビューアルバムだから助っ人を、ということなのか、
このアルバムではピアノとオルガンで
クレア・フィッシャーが参加しています。
後のパスのアルバムと比べて
明らかにアレンジがしっかりしているので、
編曲家としても有名なフィッシャーがこの作品の全体設計に
関わっているのはまず間違いありません。
それが、この作品をパスの中でも独特なものにしている
原因だと思います。
後にパスはソロ・ギターでメロディーからリズムまで弾きこなす
「ヴァーチュオーゾ」シリーズで名を馳せるわけですが、
正直、ソロというのは役割が重い。
パスは見事な演奏をしていますが、
世界を一人で作り上げることに力を注いでいるため、
気分に任せて弾いている、という感じはしません。
それと比べて、今回の作品は、もっとリラックスした
「気楽な」パスを聴けるのです。
おそらく、フィッシャーによるアレンジなり選曲があり、
パスは「胸を借りる」つもりでレコーディングに
臨んだのではないでしょうか。
それが新人らしからぬ奔放なプレイにつながり、
いい結果につながったのでしょう。
①フォーリング・イン・ラブ・ウィズ・ラブ
のっけからパスの伸びのある音色が冴えわたります。
時に短いフレーズを次から次へと繰り出す驚きのプレイなのですが、
パスがやると全て軽々と、いとも簡単にやっているように
聞こえます。
そして、大切なのは「歌心」があること。
テクニックに溺れず、出てくる音が全て「歌」になっているのです。
その才能に驚きますが、パスがこれだけプレイに集中できるのも、
バックで控えめなオルガンをつけ、バンド全体のムードを作っている
フィッシャーのおかげでしょう。
他に「サマータイム」、パスのオリジナル「キャッチ・ミー」など
良い演奏が多いのですが、私個人がおススメの曲について
以下に記してみます。
⑥ウォーキン・アップ
ビル・エヴァンス(p)のオリジナル。
これもフィッシャーの選曲ではないでしょうか。
アルバムの中ではモーダルな雰囲気で異色の曲ですが、
パスがこうした曲でも自分なりの色を出そうと
音数の多いソロを取るのが何とも面白い。
「座り心地の悪さ」を感じつつも挑戦するパスの姿勢に
拍手を送りたくなります。
個人的にはこの「噛み合わなさ」が好きです。
⑦バット・ビューティフル
アルバムの中で唯一、アコースティック・ギターが使われています。
ギターの音に深みがあり、生々しく迫ってくるのが快感。
わずか2分30秒ほどの演奏で、ほとんどメロディーで終始しますが、
それでもいいじゃないかと納得してしまいます。
⑧ノー・カヴァー・ノー・ミニマム
もう一つのビル・エヴァンスによるオリジナル曲。
スローなブルースで、ここでのパスは曲にしっくりとはまった
ソロを弾いています。
他のトラックと比べ、空間をうまく作っていく演奏を
心がけているようです。
フィッシャーのソロもエヴァンスの知的な曲想に影響されたのか、
ブルージーながら重すぎず、なかなかいい。
プレイ全体が「エヴァンスの土俵に乗った」感じで、
「曲の支配力」というものを考えさせられます。
⑦、⑧にしても、フィッシャーが編曲やアレンジで
様々な仕掛けをしたのではと推測します。
才能を引き出す「枠づけ」の大切さを感じさせる作品です。
