キャッチ・ミー!/ジョー・パス | スロウ・ボートのジャズ日誌

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ジャズを聴き始めて早30年以上。これまで集めてきた作品に改めて耳を傾け、レビューを書いていきたいと考えています。1人のファンとして、作品の歴史的な価値や話題性よりも、どれだけ「聴き応えがあるか」にこだわっていきます。

ジョー・パス



ギターの天才がサウンドの全体設計を気にすることなく、

気ままに名人芸を披露した快作。


ジョー・パス(g)は1929年生まれ。

早くからその才能は開花していたようですが、

1950年代はドラッグに溺れ、20代を台無しにしてしまいます。

その後、薬物依存症患者が集まる施設で更生し、

1963年のこのアルバムで本格的なデビューを果たしています。


デビューアルバムだから助っ人を、ということなのか、

このアルバムではピアノとオルガンで

クレア・フィッシャーが参加しています。

後のパスのアルバムと比べて

明らかにアレンジがしっかりしているので、

編曲家としても有名なフィッシャーがこの作品の全体設計に

関わっているのはまず間違いありません。

それが、この作品をパスの中でも独特なものにしている

原因だと思います。


後にパスはソロ・ギターでメロディーからリズムまで弾きこなす

「ヴァーチュオーゾ」シリーズで名を馳せるわけですが、

正直、ソロというのは役割が重い。

パスは見事な演奏をしていますが、

世界を一人で作り上げることに力を注いでいるため、

気分に任せて弾いている、という感じはしません。


それと比べて、今回の作品は、もっとリラックスした

「気楽な」パスを聴けるのです。

おそらく、フィッシャーによるアレンジなり選曲があり、

パスは「胸を借りる」つもりでレコーディングに

臨んだのではないでしょうか。

それが新人らしからぬ奔放なプレイにつながり、

いい結果につながったのでしょう。


①フォーリング・イン・ラブ・ウィズ・ラブ

のっけからパスの伸びのある音色が冴えわたります。

時に短いフレーズを次から次へと繰り出す驚きのプレイなのですが、

パスがやると全て軽々と、いとも簡単にやっているように

聞こえます。

そして、大切なのは「歌心」があること。

テクニックに溺れず、出てくる音が全て「歌」になっているのです。

その才能に驚きますが、パスがこれだけプレイに集中できるのも、

バックで控えめなオルガンをつけ、バンド全体のムードを作っている

フィッシャーのおかげでしょう。


他に「サマータイム」、パスのオリジナル「キャッチ・ミー」など

良い演奏が多いのですが、私個人がおススメの曲について

以下に記してみます。


⑥ウォーキン・アップ

ビル・エヴァンス(p)のオリジナル。

これもフィッシャーの選曲ではないでしょうか。

アルバムの中ではモーダルな雰囲気で異色の曲ですが、

パスがこうした曲でも自分なりの色を出そうと

音数の多いソロを取るのが何とも面白い。

「座り心地の悪さ」を感じつつも挑戦するパスの姿勢に

拍手を送りたくなります。

個人的にはこの「噛み合わなさ」が好きです。


⑦バット・ビューティフル

アルバムの中で唯一、アコースティック・ギターが使われています。

ギターの音に深みがあり、生々しく迫ってくるのが快感。

わずか2分30秒ほどの演奏で、ほとんどメロディーで終始しますが、

それでもいいじゃないかと納得してしまいます。


⑧ノー・カヴァー・ノー・ミニマム

もう一つのビル・エヴァンスによるオリジナル曲。

スローなブルースで、ここでのパスは曲にしっくりとはまった

ソロを弾いています。

他のトラックと比べ、空間をうまく作っていく演奏を

心がけているようです。

フィッシャーのソロもエヴァンスの知的な曲想に影響されたのか、

ブルージーながら重すぎず、なかなかいい。

プレイ全体が「エヴァンスの土俵に乗った」感じで、

「曲の支配力」というものを考えさせられます。


⑦、⑧にしても、フィッシャーが編曲やアレンジで

様々な仕掛けをしたのではと推測します。

才能を引き出す「枠づけ」の大切さを感じさせる作品です。