いよいよ「昭和の終わり」か、と思えるようなことが相次ぎました。
ソフトバンクホークスの王監督の引退。
名優・緒形拳さんが亡くなったこと。
王監督と言えば、私が小学生だった1970年代後半、
国民的英雄でした。
もちろん、当時はジャイアンツの4番でホームランを量産中。
教室には「王貞治物語」という漫画があり、
子どもたちは休み時間に争ってこの本を手に取り、
むさぼるように読んでいました。
まだまだ「根性論」が盛んで、
「できないのは努力が足りないからだ!王さんを見ろ!」
などというセリフが平然と語られていた時代。
努力さえすれば成功できる、と無邪気に信じられていたというのは、
いま思うと幸せな気がします。
一方の緒形拳さん。
私は緒形さんの演技を主にテレビドラマで見ていましたが、
その存在感たるや、大変なものでした。
特に印象に残っているのが、極寒の網走刑務所などから何度も脱獄する
凶暴な男を演じた、NHKドラマ「破獄」(1985年放送)。
今となっては、なぜ緒形さん扮する主人公が、困難な状況の中
脱獄を繰り返したのか、その動機を思い出せません。
しかし、男の持つ暴力的な匂い、
内面にある深い情念を感じさせる演技は圧巻でした。
いまの時代なら、人間の暗部をえぐりだすようなドラマは全くうけないでしょうが、
この当時、まだ「戦後」が遠くなかったせいもあるのか、
負の部分を真摯に見つめ、受け入れようという雰囲気がありました。
人間の奥深さを滲みださせることができる役者・緒形さんは、
そうした時代にぴったり合っていたのです。
王さん、緒形さんのお二人ともつい最近まで現役だったわけですが、
いちばん輝いていたのは「昭和」でした。
国民全体が共有しているヒーローが各分野にいて、
「王さんのホームラン、すごかったよね」
「この間の緒形拳の演技がさ・・・・」
という会話が世代や立場を超えて普通にできた時代。
高度経済成長が終わり、彼らのような圧倒的なカリスマは消え、
シーンは拡散しました。
それはそれで時代の流れですが、ちょっと寂しくも感じます。
さて、ジャズで「昭和」を代表する国民的ヒーローと言えば、渡辺貞夫さん(as)。
今も元気で活躍する渡辺さんを「昭和」の枠に入れてしまうのは
失礼かもしれません。
しかし、アメリカで本場のジャズを学び、帰国後、音楽での活躍はもちろんのこと、
化粧品をはじめとする数々のCMに出演して、
「ナベサダ」の愛称で国民的に親しまれる
ーこんなヒーロー像はまさしく昭和的なものです。
その「ナベサダ」が1961年に吹き込んだデビュー作。
アメリカに渡る前に作られました。
いま聴くと、荒削りな部分もありますが、ジャズを演奏する喜びにあふれていて、
決して古びてはいません。
ドナルド・バード(tp)が名作「フュエゴ」を制作したのが1959年。
それからわずか2年後に、このアルバムに入っている「AMEN」を
「ナベサダ」は取り上げ、見事に料理しています。
おそらく、ジャズの最先端をむさぼるように吸収し、自分のものにしようと
していたのでしょう。
その熱気、さらに上を目指す姿勢、そして全体を覆う希望的な空気ー
これこそが「昭和」です。
①DEL SASSER
ベーシスト、サム・ジョーンズのオリジナル曲。
ここでは、ナベサダのよく伸びるソロが印象的です。
若さとみずみずしさがあり、聴いているだけで気持ち良くなってきます。
この一曲だけでも、彼の持っているポテンシャルが
相当のものであることが分ります。
②ROMANEDE
この作品に参加しているピアニスト・八城一夫のオリジナル曲。
夕暮れの街並みを思わせるような、哀愁を感じさせるメロディーで始まり、
ナベサダのソロへと続きます。
全体はバラッド調ながら、この演奏も若さいっぱい。
熱く吹き切るナベサダに対し、落ち着いて受け止める八城さんのピアノ・ソロ。
この二人の信頼関係も伺えるトラックです。
③NOW’S THE TIME
ご存じ、チャーリー・パーカー(as)の曲。
ベースとドラム、それにアルトサックスという異色編成のトリオでの演奏です。
プロデューサーがこの編成にゴーを出したのは、
それだけナベサダのソロに信頼を置いていたからでしょう。
実際、十分な空間を与えられたアルトがよく歌っています。
⑦AMEN
ここでは、ナベサダがフルートに持ち替えています。
仲野彰のミュート・トランペットとフルートで演奏する
メロディー部分がとても楽しげでいい。
フルート~トランペット~ピアノがブリッジを生かしながら
短いソロをつける展開で、
ファンキーに挑もうという意欲が感じられる好トラックです。
「昭和の終わり」というような書き出しで始めてしまいましたが、
渡辺貞夫さんのすごいところは、演奏を始めた当初の熱気を持続している
ところだと思います。
そういう意味ではまだまだ「終わっていない」のでしょうね。
そういえば、ノーベル賞をとった科学者の皆さんも熱気を持った方々でした。
この「熱さ」、次の世代にどう引き継がれていくのか・・・・・。
