19年目のギフト | studio lib blog

studio lib blog

Studio Lib momoのブログです。
作品や日々の素敵な出来事綴ります。





【19年目のギフト】

昨日、父に18年間彫金を教わった、という生徒さんが工房にいらっしゃった。

長年勤務していた会社を定年退職し、ご両親の介護が終わり、やっとご自身の時間が持てるようになり、余生は好きなことをやって生きたい、彫金をまた再開したい!、と。

まずは、下準備としてずっと仕舞ってあった工具をメンテナンスされたようだ。
バーナーに空気を送る鞴(ふいご)は、革の部分がボロボロで穴が空いてしまったらしい。
現在、バーナーは殆どが電気コンプレッサーが主流となっているので、鞴を修理する業者もなくなってしまった。根気強く探したら、鞴の部品を売っている所を見つけ出したらしい。
ガスも、都市ガスでないとダメなのですが、ガスの口が動かなくなっている。
これも、ガス屋さんに頼み、開通した。
本気度がひしひしと伝わった。

ご自宅での準備は万端だが、さて、なにから初めてよいか、桃子ちゃんに刺激を貰いたい、ヒントがあったら、と、まずはそんな話だった。

ちなみに我がアトリエにある鞴は父から譲り受けたものだが、現在も使い続けているため、奇跡的にまだ革の部分は健在で、回りの部品をたまに自分でメンテナンスして、使い繋いでいる。
道具は使わないと朽ちるというが、本当だと思った。

そして、昨日、彼女が来て色々と学びがあった。
彼女の思いは、こんなことだった。

「建守先生からは、技術はもちろんのこと、先生の信念がそのなかに散りばめられていて、時を経た今でも、体に残っていて、生きる上で役にたっています。
私ももう何年彫金できるかわかりません。
この先の限られた時間の中で、先生の教えを桃子ちゃんに伝えることができたら、という思いもあり、お声掛けさせていただきました。今後、このような機会を設け、桃子ちゃんが得た新しいことや、最近の彫金事情をお教えいただくことと、私の先生に教わったことを交換しあいませんか?」

そして、昨日、早速第一回目が。
寧ろ、私が伝授できることは、現在の彫金事情のみ。
建守の教室で習い始めたときに、一番始めにやる技術、銀の塊を削る勉強の、すり出しリングを沢山持ってきてくださり、図解付きで見せて頂いた。
これぞ、建守スタイル、私が18年間、父の作品から無言の教えで学びとったものの、謎解き時間だった。
私は感動の気持ちと恐れのような複雑な気持ちが入り交じり、震えてきた。
父の作りはじっくりとした重みがあるから、軽い気持ちで制作したりしたら、痛い目に合うのが分かっているから。。

父が亡くなり19年目に突入した。
始めた頃は、父の凄さと重みで重圧感がありプレッシャーを感じていた。
10年目くらいから、楽になり、自分らしく生きれるようになった。
しかし、ここ最近、また流れが変わってきた。そこかしこに父の気配を感じるようになった。
でも、始めたてのプレッシャーとは違うなにかなんだ。

彼女は、もしかしたら父が送り込んだ使者か?
これは、 続けたことに対しての父なりの贈り物なのかもしれない。
次のステージにステップアップするための、桃太郎の旅が始まります。
そして、彼女もまた19年目の新たな彫金ライフが始まった。