創作◆V.D. Novelette① with 折原夏輝★芸恋二次創作短編44 | 二次元のカレに逃避中♪

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主に、SNSアプリの乙女ゲームについてのレポ、および携帯恋愛ゲーム《ダーリンは芸能人》(LoveDuetを除く)をベースとした妄想2次小説を書いてます。※PC推奨です
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当《ダーリンは芸能人》二次創作を初めて読まれる方は、必ず先にこちら をごらんください。


《Last★Scandal》の芸友さん、かなんちゃんからのリクエスト。

バレンタインがテーマです。

前後編の2本立てとなります♪






Valentine Day Novelette with 折原夏輝①








「―――出来た…!

 あ。」


思わず声が漏れた口を手のひらで覆う。

今はもう「草木も眠る丑三つ時」という時刻で、家の中で電気がついているのはキッチンだけ。

両親やまーくんは既に夢の中だ。


「喜んでくれるといいなぁ…」


そんな独り言をつぶやきながら、いま出来あがったばかりのチョコをひとり分ずつラッピングしていく。

―――今日は年に一度の『女の子から告白する日』、バレンタイン・デー。

本来は「バレンタイン司祭の殉職を追悼する日」らしいのだけど、日本ではいつの間にか「チョコを渡して愛を告白する日」になっている。

お菓子メーカーの計略だという人もいるけれど、片思い中の私たちにはそんなことはどうでもいいことで。

そしていまラッピングしているのはいわゆる感謝チョコで、普段から懇意にして下さってる方々に配るものだ。

皆さんへの感謝の気持ちを込めて…なのだけど、総数100個近いラッピングは終わりのない作業のように思え、さすがに疲れてきて、座ったままで軽くストレッチをする。

ふと、その他大勢のチョコの山とは少しだけ離して置いてあるものを見た。

渡すときに間違えないように目印を付けたのは、中身は他のものとは全く違うから。

それは、渡す相手を思い描きながら他のもの以上に気持ちを込めて作った本命チョコだ。


「夏輝さん…もらってくれるかな…」


私が思いを寄せている相手は、JADEのギタリストである夏輝さん。

一昨年にJADEの神堂さんに見出された私は、それ以来《JADEの歌姫》として彼らとともに音楽活動することが多い。

その活動の中で、憧れと敬愛であった夏輝さんへの感情は少しずつ恋い慕う想いへと変わり…。

この想いを告げることは出来るのだろうか?

この想いを告げたことで一緒にいることが出来なくなるのではないか?

そんなことをもう何度となく考えたことだろう。

それでも、今の関係のままでいることは苦しくて、今日私はありったけの勇気を持って夏輝さんに告白することにしたのだ。



2時間ほどの仮眠の後、身だしなみを整えて仕事に出かける。

玄関の前には山田さんがもう迎えに来ていて、私の持つバッグの大きさに目を見開いているのが見えた。

100個近くの義理チョコ友チョコ感謝チョコ(+本命チョコ)を入れたバッグは相当な大きさと重さであったため、車で迎えに来てくれた山田さんには大大感謝だ。


「すごい量だな」

「これでもセーブしたつもりです。

 あ、これは山田さんに。 いつもありがとうございます」


一つだけ握っていたチョコを山田さんに手渡す。

もちろん同じ手作りではあるけれど、いつもお世話になって感謝してもしきれないから、やっぱり他の人よりもぐっとグレードを上げてある。

山田さんはいつものように平静を装って、短く「ありがとう」と言いながら受け取ってくれた。

……平静を装って、というのは私の思い違いかもしれないけれど。

そうしていつもの安全運転で到着したのはB局。

今日はここで生放送のお仕事が1つ入っていた。

衣装とメイクを済ませた後、今日の共演者の皆さんへチョコを渡すべく、山田さんに手伝ってもらいながら挨拶も兼ねてそれぞれの控え室を訪れる。


「今日もよろしくお願いします」

「お、かなんちゃんの手作り? 嬉しいなぁ」


そんな軽いやりとりをしながら全員の分を配り終えた頃にスタジオ入りを促された。

そして、テンポ良く進められた番組は事故もなく無事に終わり、控え室に戻るとすぐに次の仕事に向かった。




次に向かったのは、JADEの所属事務所が持つJMAスタジオ。

ここで来月リリースする予定の新曲をレコーディングするのだ。

今回は私一人のソロなのだけど、JADEのみなさんがバックバンドとして入ってくださる。

とても贅沢な話で初めはお断りしたのだけど、神堂さんの作詞作曲なので結局はお願いすることになっていた。

練習とリハを重ねて、ようやく神堂さんからのゴーサインが出てすぐ、私たちはレコーディングに入った。

何度も変更点を加えられたけれどその甲斐あってか、はたまた、積み重ねた練習の成果なのか、レコーディングは予想をはるかに下回る短時間で終了する。

時計の針が午前0時になる直前のバレンタイン・デー当日にチョコをお渡しできることが嬉しくて、ほんの少しだけテンションが上がった。

そうして、皆さんのいる控え室の前で何度も深呼吸し、気合を入れてドアをノックする。


「かなんです」


名前を告げると、中からドタバタと音がして、すぐに扉が開いた。


「今日はありがとうございました。 お疲れさまでした」

「姫~~! 待ってましたよ、どーぞどーぞ」


ぺこりと頭を下げる私に、そう言って招いてくれたのは冬馬さん。

いつも以上にニコニコとしていて、部屋の中へと導いてくれる。


「あ…、ありがとうございます…」

「まぁ、座って座って♪」


背中を押されるようにして部屋の真ん中に置かれたソファに座らされると、買ったばかりだと思われる清涼飲料水のペットボトルを渡された。

頂く理由が見当たらなくて面食らっていると、冬馬さんが期待のこもった眼をして尋ねてきた。


「で? で?? そのバッグの中は何かなぁ?」

「冬馬、意地汚すぎるぞ」

「まぁまぁ、なっちゃんもホントのトコ、期待してんだろ? 姫からのチョ・コ・レー・ト♪♪」

「冬馬っ!!」


冬馬さんのからかいに夏輝さんは顔を赤くして抗議している。

ホントに賑やかだなぁと可笑しくなりながら、期待を込めて私を見る冬馬さんに先に渡すことにした。


「いつもありがとうございます、冬馬さん。 感謝のシルシです」


バッグから一つを取り出し、感謝の言葉を強調して言いながら両手で差し出す。

途端に「やったーっ」と大喜びする冬馬さん。

いつもならそのあとすぐに私に抱きつこうとするのでサッと身を引いておいた。

と、ソファの背もたれの向こうから冬馬さんの襟首を捕まえて引き止めてくれている秋羅さんの姿が目に入る。

これもいつものパターンだ。


「行動パターン読まれてるぞ、冬馬」

「へっ?」

「姫、避けてる」

「えーっ、うっそーん!」


ふたりのやりとりにまたもや吹き出してしまう。

本当に仲がいいなと思いながら、次は秋羅さんに渡すためにバッグからもう一つを手にした。


「秋羅さんもいつもありがとうございます。 お口に合えばいいのですけど」


同じように両手で差し出すと、片手で冬馬さんの襟首を捕まえながら「さんきゅ」と笑みを浮かべて受け取ってくれた。

不在の神堂さん…には後で渡すことにして、今度は夏輝さん用にと確認したものを持って彼の前に立つ。


「夏輝さん…、あの……いつもありがとうございます…」


本当はたくさんの言葉を用意していたのだけど口から零れた言葉はいつもと変わりがなくて。

どうしてもそれ以上が言えなくて、しどろもどろになりながら俯いたまま差し出す。

だけど、しばらく経っても手を伸ばしてくれる様子がなく、私は不安になりながら俯かせていた顔を上げた。

すると…。


「―――っ」


そこには複雑な表情をして沈黙したままの夏輝さんが居た。

もしかして迷惑だったの?なんて言葉が頭の中をぐるぐると回り出す。


「あっ、あのっ、堅苦しく考えないで下さい…! み、みなさんと同じなので…っ」


沈黙に耐えかねて、私は用意していたものとは違う言葉を口にする。

その瞬間、夏輝さんはとても切なく哀しい表情を浮かべた…。


「……ごめん、それなら…やっぱり受け取れない…」

「ちょっ、なっちゃん!」


冬馬さんが焦りと怒りを含んだ声で夏輝さんを咎めるように呼ぶ。

けれど、彼はやはり哀しい表情を浮かべ、私から視線を逸らしたたまま沈黙している。

神聖である日に周りと同じように盛り上がってしまって、挙句に夏輝さんを哀しませてしまったことに私の心は鉛を飲み込んだように重くなっていった。


「そう、ですか……。

 す、すみません、ひとりで盛り上がっちゃって!

 あの、秋羅さん、申し訳ないんですけど、これ、神堂さんに渡しててもらえますか?」


頭を殴られたようなショックに何とか笑顔を作りながら、夏輝さんに渡すことのできないチョコをバッグにしまい、代わりに神堂さんへのチョコを取り出して秋羅さんへ渡す。

本当なら自分で渡すべきなのだけど、これ以上、ここにいることは出来なかった。


「お忙しいところ、お邪魔しました! またよろしくお願いします!」


一息にそう言って頭を下げ、私はバッグを掴んで逃げるように彼らの控え室を飛び出した。

精一杯押し込めた悲しみが、涙となってこぼれそうになったから―――。



~ to be continued ~