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Staticeの花言葉とともに with 中西京介⑳
翌朝―――。
ここ最近のいつもと変わらない朝が来て、隣に京介くんが居ない寂しさの中で目覚めた。
酷い頭痛に顔をしかめながら体を起こし、何度となく吐いたため息は更に気分を落ち込ませた。
昨日一磨さんから聞いた事実は思っていた以上に私にショックを与えていたのかもしれない。
(どうして…)
先にwaveのみんなを思い出した理由を考えても仕方がないのに、昨夜からそんな悲しさというか寂しさというか、複雑で醜い感情が心の中で渦を巻いている。
彼らとはデビューする前からずっと一緒にいて、何年もの間、苦楽を共にしたのだから先に思い出したことは当然だとも思う。
それでも気持ちがモヤモヤするのはきっと、京介くんの中で「私が一番」というおこがましい考えがどこかにあったのだろう。
「…時間……」
ふと時計を見ると山田さんが迎えに来てくれる時間になっていて、モヤモヤとした気持ちを払拭するように頭をブンブンと振り、仕事に行くための準備を始めた。
洗面所で顔を洗い、鏡の中の自分を見るととんでもなく酷い顔になっている。
考えても仕方のないことをずっと考えていて、眠りが浅かったせいなのか。
仕事に遅れることは当然出来ないため、芸能人としては失格だなと自嘲しながら簡単なメイクをし、身だしなみを出来るだけ整えて私は山田さんが待つ地下エントランスへと向かった。
「…おはようございます…」
「ああ、おは…―――!!」
「…?」
地下エントランスから少し離れた場所に車を停め、車外に出てタブレットを操作していた山田さんに声を掛けると、彼は息をのみこむようにして言葉を途中で止めた。
その反応に首を傾げ、自分の服装を見下ろす。
が、パジャマのままだとか裸足だとか、特別変な格好ではない…と思う。
にもかかわらず山田さんは私を凝視したあと、目と目の間を揉むようにしてため息をついた。
「あの…」
「時間がない、とにかく乗ってくれ」
「あ…、はい…」
後部座席のドアを開けて私に乗車を促す。
それから山田さんは手短にどこかへ連絡をしたあと、運転席に着いた。
これから向かう仕事は、前から決まっていたCMの撮影だ。
テーマソングとしてもリリースする予定の新曲のレコーディングは昨日で終わっていた。
その曲を流しての撮影となるのだ。
スタッフさんたちへの挨拶に向かう山田さんとは別れ、スタジオ内に用意された控え室に向かう。
そこには担当予定だったメイクさんではなくモモちゃんが居て、私は目を瞬かせた。
「おはよう、海尋ちゃん」
「あれ、モモちゃん? 今日は別の人が来るって聞いてたけど…」
「うん、ここには別件で来てたんだけどね? 海尋ちゃんが今日撮るって聞いたから変わってもらっちゃったのよ。
ほら、座って?」
「う、うん……」
売れっ子ヘアメイクさんのモモちゃんとはデビューしてからずっと仲良くしてもらっていた。
その彼に担当してもらえることで少しだけ肩の力が抜けたような気がする。
鏡の前の椅子に座ってケープを掛けられたあと、顔と肩に簡単なマッサージが始まった。
「……海尋ちゃん、大丈夫?」
「え…なに、が…?」
「ちゃんとご飯食べれてる?」
「…モモちゃん…、京介くんのコト、聞いてる?」
「…ええ、この前SAYAちゃんから聞いたの。 かなりショック受けてたけど…」
あの日、無理に笑っていたSAYAさんの顔を思い出す。
私だけでなく、SAYAさんにとっても相当衝撃的だったに違いない。
その中で、京介くんがwaveのみんなのコトは思い出したという事実は喜ばしいことではないのか。
担当のお医者さんも、思い出す速度はひとそれぞれで千差万別であると言っていた。
それを思い出し、私は少しだけ気を取り直して、モモちゃんに笑みを向けた。
「…あのね、京介くん、waveのみんなコト思い出したんだ。
残念なことに、私やご家族のコトはまだなんだけど、きっとこれから少しずつ思い出してくれると思う。
だから…笑っていなくちゃね」
私がそう言うとモモちゃんは少し泣き笑いのような顔になって、でもうんうんと大きく頷いてくれた。
それからCMのイメージに手早く且つ的確なメイクを施してくれ、私は撮影スペースへと向かう。
これから撮影するのは音楽プレイヤーのCMで、幸せいっぱいの笑顔を浮かべる必要はなかったから少しありがたかった。
私は京介くんのことをこの一瞬だけ忘れて、精一杯撮影に臨んだのだった。
~ to be continued ~