少し前のブログで歌舞伎町のラーメン屋で働いていた時のエピソードを書いたけど、その後同じ系列の店が新橋にオープンする事になってそこで働いていた時のエピソードがあるので今日はその時の話を少し。もう20年くらい前の事。



新橋。店があったのはこの近く。




半分チンピラのようなオーナーは昼のピーク時だけ顔を出して少し店を手伝うくらいだったので殆どの時間は俺ひとりで店を回すことになる。なかなかバタついてはいたけれど、オフィス街なので昼と夜のピーク時以外はのんびりした時間が流れて嫌いじゃなかった。カウンター10席程のこじんまりとした店でした。



とある週末の金曜日。いつものように淡々と店を回していると、もうそろそろ閉店という時間に1人のお客さんが。



「6人だけどまだ大丈夫ですか!?」



これは長引きそうだな…と思ったけどもちろんそんな態度は少しも出さずに快く受け入れる。もともと閉店時間は決めずに人通りが少なくなってきたら閉店するようなやり方だったので多少の営業時間延長は問題無かった。店内には既にほろ酔いのサラリーマン2人組が仕事の話で白熱している。



最初の1人に続いてゾロゾロと入ってきた御一行のうちの1人を見て自分の目を疑った。藤原紀香だ…。(心の声のため敬称略)

どこかでロケでもしていたのだろうか。裏方さんと思しき人達と談笑しながらカウンターに横並びで席に着く。



目の前に藤原紀香がいる。缶チューハイのCMやグラビアでよく見るあの藤原紀香が。それに気付いたほろ酔いのサラリーマンは目を丸くして会話を止めた。俺はいつも自分が過ごしている空間に藤原紀香がいることが信じられず何度も目の前の女性を見直した。



裏方さん達と紀香さんは瓶ビールとちょっとしたつまみをいくつか注文して軽い打ち上げを開いていた。

おそらく、「藤原紀香」が入店しても騒ぎにならなそうなこじんまりとした飲めるラーメン屋って事でこの店が選ばれたのかもしれない。



咄嗟に俺は表の看板をしまい、これ以上お客さんが入って来ないようにした。もちろん御一行に、いや藤原紀香に落ち着いて飲んでもらうためだ。それに気付いた紀香さんが「お時間、もう厳しいですか?」と聞いてきたので



「いえいえ!気にせずごゆっくりしていってください!」



と答えた。夢のような時間だった。いつしかサラリーマン2人組は名残惜しそうにしながら帰っていき、店内は御一行と俺だけに。そして御一行は暫く盛り上がった後に全員がラーメンをしっかりと平らげ、やがてその宴もお開きの時間となった。



裏方さんの1人がまとめて会計をしている内に紀香さん達は口々に「御馳走様でしたー」などと言いながら店の外へ出て行き、会計を終えた最後の1人も領収書を握りしめてそれを追うように帰って行った。店内に1人残った俺は閉店作業をする事も忘れて目の前で起きた出来事を反芻する。その時である。既に店の先の方へ歩いて行った御一行さんのうちの1人が小走りで戻ってきて店内に入って来たのだ。え…藤原紀香だ…。今店内に2人だけだ…。



「なんか遅くまでごめんなさい!すっごく美味しかったです!」



満面の笑顔でこれだけ言い残して紀香さんはまた小走りで去って行った。わざわざこれを言うために1人で店に戻ってきたの…?嘘でしょ…?

暫く途方に暮れていた俺の視界に入ったもの。それは紀香さんの使ったグラスに残された口紅の跡。



俺はこの後、そのグラスにビールを注いで飲みました。引かれても構いません。寧ろやるべき仕事を成し遂げたと思ってます。

この出来事以降、テレビで藤原紀香さんを観る度にあの日の出来事に思いを馳せて遠くを見つめる自分がいるのでした。

Sleeperが1st album「Come Along」をリリースした頃の話。




当時出演していたCM。この笑顔ね!