東京の端の方に田無という街がある。
そこには田無タワーという名の塔があって、正式名称はスカイタワー西東京というらしいけどおそらく誰もそのように呼んでないはず。外から見る事は出来るけど中には入る事が出来ないというなかなか排他的なタワーがこいつ。
そんな田無という街で奇妙な経験をする事になったのは大学の先輩の誘いがきっかけだった。
「ケンゴ、短期間で手っ取り早く金稼げるバイトあるけど一緒にやらない?」
光GENJIの佐藤アツヒロ似のベビーフェイスなその先輩が無邪気な笑顔で誘ってきたのは治験のバイトだった。正確にはアルバイトではなく、新しい薬を開発する際に人体への効果や副作用を確かめるために被験者となって協力金を受け取る事が出来る有償のボランティアらしい。
2泊3日で10万程の協力金がもらえると聞いて興味津々になった俺は先輩と一緒に説明を受け、了承した上で参加する事に。その時に宿泊した施設が田無にあった。
参加中は食事の時間から就寝の時間まで管理されて外出も一切出来ないため、持ってきたCDウォークマンで音楽を聴いたり置いてある週刊誌や漫画を読み耽ったりただただ睡眠を貪ったり。
その施設に集まった人々は様子のおかしな連中ばっかりで(俺もだけど)、競馬の実況を観ながらブツブツ独り言を言ってる人がいるかと思えば、駄目と言われているのに外出しようとして注意されている人もいた。
なんとなく社会に馴染めなさそうな人達が集まって無言で食事をして認可前の薬を飲み、決められた時間に採血され、消灯時間に強制的に寝かされるその生活はなかなか奇妙で、自分の事を棚に上げて人間観察に勤しむ俺がいたのでした。
自分が持ってきた何枚かのCDの中にスペシャルズがあって、なんだか現実離れしたその空間とスペシャルズの能天気で痛快な2トーンのビートがやけにマッチして繰り返し聴いていた。今でもスペシャルズの1stを聴くとあの奇天烈な時間を思い出す。
この前西武線に乗っていた時、車窓の遠く向こうに田無タワーが見えてふとこの3日間の事を思い出した。
これから何者になるかもわからずただただ時間を浪費していたダメ人間よりの俺と先輩だったけど、随分経ってから再会した先輩は理学療法士として活躍しつつ将来はアスリートの身体をケアする仕事をしたいという展望を描いていた。最近は連絡取ってないけど実現してるだろうか。俺はあれからいろいろありつつまだバンドをやってるし、無駄に敵を作ったりしてしまうけど少しはあの頃より成長出来ているのかね、田無タワーさん。
写真は西東京の夕焼け。
