傷は抱えたままでいい 30 | あの空へ、いつかあなたと

あの空へ、いつかあなたと

主に百合小説を執筆していきます。
緩やかな時間の流れる、カフェのような雰囲気を目指します。

前話へ
「はい、どうぞ」
私とリコは近くにあった公園のベンチで腰かけることにした。
自販機で買ったジュースのペットボトルを1本リコに手渡す。

「……ありがとう。ごめん、私のために」
「いいの、助けてもらっちゃったから。こっちこそ、ありがとう」
それは正直な気持ちだった。
あのコンビニで動けずにいた私の手を引いて、一緒に逃げてくれた。
恐怖から、文字通り振り切ってくれた。

それ自体は本当に感謝したいと思うこと。
でも、もっと根本的なところで感じた疑問がそれとは別に芽生えていた。


なぜ彼女があの時間、あの場所にいたのか。
私の通学路というだけじゃない。今日私は放課後を図書館で過ごしてからあの道を歩いていた。
私が図書館に来たのは気まぐれで、有希と里穂ですら知らないことだ。

たまたま同じ時間に下校して、たまたま同じ道を歩いていて、たまたま私の危機を救った。
そしてそんな偶然の積み重ねみたいな場に現れたのが、他の誰でもないリコがだった……?

(ううん、違う。きっと――――)
一昨日リコが私に言った言葉がよみがえる。
『お願い…………気をつけて……帰って……どうか』
その意味を今改めて考えると、結論は一つしか思いつかなかった。


一度だけ深呼吸をして覚悟を決める。
大げさだとは思わなかった。私が今から聞こうとしていることは、今までの疑問を解消する”何か”に繋がること。

それは漠然とした予感でしかない。
もし正しかったとして、そのまま進めたら触れてはいけないものに触れてしまうことなのかもしれない。

それでも、聞くなら今だ。
リコ、と声をかけ、隣に座る彼女の方を見る。
そんな私の想いを感じ取ったのか、リコも私の方をゆっくりと見た。

その眼差しはどこかあきらめのようなものをまとっていて――――


「ねえ、リコは私が怖い目にあうって、もしかしたら知ってたんじゃないの?」
次話へ