ニッポンの切り札 | PTD ~ Pilot To Dispatch ~

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ヒコーキオヤジのひとりごと
 空の話、ときどきタイのネタ…

 まだ私がアメリカで訓練生だった頃の話。
 
 同じく飛行訓練を受けているベルギー人の
若者がいた。KLMオランダ航空の乗務員で、
半年の休暇を取って免許取得に来ていた。
(これだけでも凄い制度の会社だと思う)
 
 何かにつけ呑みに出かけ、遊びに出かけ、
一緒にワシントンD.C.まで飛んだこともある
位、仲の良い友であった。
 
 そんな彼がある夜、バーのカウンターで
真面目な顔つきでこう切り出した。
 
 「○○、俺はお前に一言礼を言いたい」
 
 最初は何のことだかピンとこなかったの
だが、彼はこう続けた。
 
 「我々の国王が亡くなり、先週国葬が
あった(ベルギーは王国です) その時、
多くの国は副大統領とか特使とかを
派遣してきただけだったが、日本は
わざわざエンペラー夫妻が参列して
くれた。 悲しみに沈む上に国を
軽く見られて打ちひしがれていた
俺たちに、日本はエンペラー自らが
来てくれた。わざわざ日本からだぞ!
俺たちがどれだけ元気づけられ、国の
誇りを取り戻すことができたかわかるか?
俺は、ベルギー国民を代表してお前に
礼を言う」

 1993年、ボードワンⅠ世が崩御された
時のことである。
 
 私も彼も別に外交官でもない。ただの
酒飲み話ではあったが、彼の言葉に改めて
外交における皇室の威力を感じた瞬間でも
あった。もちろん王室を持つ国だからこそ
余計にそう感じたのかもしれないし、普通の
共和国だったら日本もそれこそ首相で
済ませていたかもしれない。
 
 しかし、「ここ1番」というときの、天皇陛下の
威力は絶大だ。これはむしろ、日本以外の
国々のほうが強く感じているのではあるまいか? 
 
 先日、天皇皇后両陛下がタイに立ち寄られ、
親交の深かった故・プミポン前国王を弔問
された。即位したてのワチラロンコン新国王に
とっては、初の賓客が日本の元首であった。
 
 タイでは、両陛下の弔問はかなり好意的に
受け取られているようである。両陛下の
ご訪問がタイの人々を少しでも元気づけて
あげられたのならば、そして、手腕の未知数な
新国王にまずは無難な船出のお手伝いが
出来たのならば…
 
 それは我々日本人も喜ばしいことであるし、
ニッポンの切り札、皇室外交はまだまだ
健在であると感じられる瞬間でもある。

 ヴェトナム、タイ歴訪からお戻りに
なられた両陛下のニュースを拝見し、
ふと20年以上も前の出来事が脳裏に
甦った。