間一髪のファースト・ソロ | PTD ~ Pilot To Dispatch ~

PTD ~ Pilot To Dispatch ~

ヒコーキオヤジのひとりごと
 空の話、ときどきタイのネタ…

 たまには仕事の話でも…(笑)
この前の日曜日、久しぶりに訓練生を
単独飛行に送り出した。

 天候は決していいとはいえなかった。
雲は低い。OVC026、しかも40~60度の
横風成分がある。が、視程は抜けている。
 
 横風成分が7ノットを超えたら今日は
やめようと思ってコックピットに座った。
 
 場周経路を3回、1回目は緊張したのか
機体を滑走路に叩きつけてしまい、大きく
バウンドした。横風が強い時はむしろ
それでもいいかな? と思っていたのだが、
彼はすかさずパワーを入れてゴーアラウンド。
一連の判断、技術、仕草から垣間見る
落ち着き… (行ける…) 確信した。
 
 3回目、ダウンウインドの途中で
パワーを抜き、エンジン故障を想定した
緊急事態を課すも、無事に機体を滑走路に
持ってきた。最初のバウンド以外は
きちんと接地できている。風も問題ない。
 
 しかし、一つだけ気がかりなことがあった。
彼は気づいていなかったかもしれないが、
雨域が東側から迫ってきていた。通常
雨雲が東から来ることのない飛行場
なのだが、この日は台風から吹き込む
北東気流が雨を運んできていた。
 
 ソロに出すには問題ない環境。しかし雨が
きたら視程が落ちる。飛行場が計器気象
状態になるかもしれない。そうしたら彼は
降りる場所を失う(訓練生は単独飛行時に
他の飛行場へ降りることは許されていない)
 
 場周経路を回りながら、雨域の移動速度を
計算し、あと30分ぐらいは大丈夫だろうと
判断した。感情ではなく、風向きと遠方の
物標、雲の質などから判断した結論。
 
 最後の着陸の後、管制塔の前まで来て
私は機を降りた。いつもするように、ヘッド
セットをジャックから抜き、シートベルトで
教官席にくくりつけた。「いつも一緒にいる
から!」と声をかけて送り出した。
 
 結果、彼は見事に初単独飛行に成功。
伝統に則り、3回の離陸と着陸。管制塔で
機体とレーダー画面と睨めっこしながら
ドキドキしながらフライトを見守った。
 
 一生に一度きりの初単独飛行。
 
 無事にやり遂げた訓練生は、笑顔で
私を拾い上げに誘導路を戻ってきた。
私が今までソロに送り出してきた多くの
訓練生たちと同じような最高の笑顔で。
 
 彼のソロが終わるのを待っていたかの
ように、格納庫へ向かう走行中に風防に
水滴が落ち始めた。機体を格納庫にしまい、
オフィスでブリーフィングを終え、彼を
送り出した外は雨に煙り、計器飛行状態を
示す飛行場灯台が灯っていた。
 
 間一髪、読みがピタリと当たったこの
日のフライト。訓練生も嬉しかった
だろうが、私も彼の思いと天気の狭間の
一瞬の機会を掴むことができてホッと
している。
 
 次の訓練生はもう少し天気のいい
ときにソロに出そう…(笑)