(続き)
そのような背景を鑑みての
一つ目の推測原因は、「揚力の不足」
事故機は6人乗りの機体に5人搭乗し、
伊豆大島へ飛ぶ予定だった。おそらく
燃料も満載だっただろう。最大離陸重量に
近い重さでの離陸だったと思うが、通常
ならばそれでも十分に上がれる長さの
滑走路であったとしても、昨日の異常な
暑さでエンジンの出力は低下し、揚力も
生まれにくい状況であったとしたら…
あるいはインターセクション・テイクオフを
実施し、使える滑走路の長さが十分で
なかったとしたら…
十分に加速(=揚力が生まれた)された
状態になる前にどんどんと迫ってくる
滑走路の出発端、すでに滑走路内で
止まれるだけの残舗装はない…
安全な離陸速度に達する前に機長が
咄嗟に機体を引き揚げてしまったら…
十分な揚力のない機体は上昇することが
できず、低空を再び地面に向かって降下
してしまう。そこで、機長がなんとか
少しでも多くの揚力を得ようと機首を上げ、
結果的に失速… これが一つ目の推測。
二つ目は燃料系の問題。小型機は
灯油系のジェット燃料ではなく、揮発性の
高い航空ガソリンを使う。その結果、
高温下では、パーコレーションと呼ばれる、
燃料が配管内で気化して気泡を生じて
しまう現象が起きることが稀にある。
これが起きると、ブレーキの「ベーパー
ロック」現象と同じで、キャブレーターや
電子制御式の燃料噴射装置に燃料が
正常に供給されなくなり、エンジンに
不調をきたす可能性がある。さらに、
この高温下での運用だったため、密度の
下がった空気に、通常量の燃料が
噴射された場合に、空燃比が許容範囲を
逸脱し、燃料過多による燃焼異常が
起こる可能性もある。
あくまで個人的な推測であることを
改めて書いておくが、このいずれか、
あるいは2つが複合して起きたことにより、
事故機は正常な離陸上昇経路を取れずに
墜落した可能性がある。
では、このような条件下での事故を
防ぐためにはどうすればよいのか?
1、離陸前の必要滑走距離の計算
離陸に必要な距離、離陸を
中止してから安全に滑走路内で
停止できる距離を計算し、所要の
滑走距離で機体が浮揚しなかったら
直ちに離陸中止~緊急制動で
滑走路内にとどまることを強い
決意で行う。
2、離陸前のエンジンチェック
離陸前にエンジン出力を一定まで
上げ、回転数、排気ガス温度、
燃料流量などをチェックし、
なおかつ五感を研ぎ澄まして
異常な音、臭い、振動などが
ないかどうかをチェックする。
これだけでも、離陸時の事故は格段に
その危険性を減らすことができる。
私のセスナはキャブレーター式、事故機の
マリブは確か電子制御式燃料噴射装置を
搭載した高性能機(ターボチャージャーも
ついていたような気がする)だから、一概に
私のものさしで物を語ることはできないが、
レシプロ機の基本は同じ。
「壊れる」ことを前提に準備を行えば、
事故の可能性は格段に減らすことができる。
もうすぐ御巣鷹から30年。気が緩んだ時に
事故はその地獄の釜を開いてパイロットを誘う。
今回の事故からも、我々は多くを学ばなければ
ならないと思う。