ゴーアラウンドをためらうな | PTD ~ Pilot To Dispatch ~

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ヒコーキオヤジのひとりごと
 空の話、ときどきタイのネタ…

 訓練生だった頃、教官からそれこそ
耳にタコができるぐらいに聞かされた。
「ゴーアラウンドさえできれば、燃料が
続く限りお前は死なない(=墜落しない)」
が、教官の持論だった。
 
 あれから22年。今では教官の私が口を
酸っぱくして訓練生たちに言い続けている。
 
  「ゴーアラウンドする勇気」
 
 確かに一度ゴーアラウンドしてしまうと、
VFRの場周経路を取れない場合は15分
以上余計な飛行をする羽目になることが
往々にしてあり、特にラインでは燃料の
消費や定時運航への支障など、マイナス
要因が一気に増えてくる。これが機長の
心理的負担になるとの考え方もある。
 
 私の場合は初等訓練機の教官なので、
燃料もそれほど気にしなくてもいいし、
たいていの場合は場周経路ですぐに
再着陸に挑戦できる。レーダー誘導に
入ってしまっても10分ぐらいで戻って
来られる。だからこうやって暢気なことを
書けるのかもしれない。
 
 でも、訓練の初期段階からメンタルの
深いところにこれを植えつけておくことの
大切さは日々実感している。ラインとは
違った種類ではあるものの、訓練生は
自腹を切って飛んでいるので、いったん
ゴーアラウンドして飛行時間を延ばすと
それだけ請求額が増えるので、それが
心理的な要因となって、着陸の技術が
未熟な者が「強行着陸」に出たりする
場合があるからだ。
 
 ゴーアラウンドする勇気…
 
 悪条件に挑んで賞賛を受けたいと
 思う見栄を恥じる気持ち…
 
 これが当たり前のように発揮できれば
着陸時の事故は半分以下に減るだろう。
 
 残念なことに、単独飛行前の訓練生から
ラインの機長まで、これを履き違え、
 
 「ゴーアラウンドを恥じる」
 
 「悪条件に挑む勇気」
 
と捉えるパイロットのなんと多いことか…
 
 「いつもと違う感覚を覚えたらためらわずに
ゴーアラウンドだ!」 私はいつも生徒に言う。
降下率、対地速度、横風成分、視程、操縦輪の
重さ、エンジンの音、計器の表示…
「何かが違う」と思ったら即ゴーアラウンドだ。
一旦上に戻って、そこでゆっくり確認すればよい。
 
 「ゴーアラウンドをためらうな」
 
 天候の急激な悪化も原因の一つとされている
先日の広島空港でのA320着陸失敗事故。
機長がゴーアラウンドをためらっていなかったら、
あるいは…