パイロットが行方不明… | PTD ~ Pilot To Dispatch ~

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ヒコーキオヤジのひとりごと
 空の話、ときどきタイのネタ…

(今日はちょっと長いよ…)

 広島空港で事故を起こしたアシアナ航空の
機長が事故後所在不明になり、現在も
日本側と接触が取れていないという。
 
 ドサクサに紛れて上手く逃げおおせたな…
ちょうど1年前の船の転覆事故の時も船長が
真っ先に逃げ出していたしな…
 
 本来ならば厳しく糾弾するところだが、こと
航空事故の場合に関して「だけ」は、航空会社、
あるいは韓国政府の素早い対応に拍手を
送りたい。
 
 というのも、日本はICAO(国際民間航空
機構)の国際民間航空条約(通称シカゴ
条約)を批准している国でありながら、条約の
精神を踏みにじる行為が常態化している国
だからである。
 
 本条約第13附属書(ICAO Annex 13)に
より、事故調査報告書は、パイロットの法的
責任を問うために用いてはならないと規定
されているのにもかかわらず、日本警察は
事故報告書を持って「証拠」とし、パイロットを
起訴した前科がある。当該事故報告書の
扉には「国際民間航空条約第13附属書に
従い、航空・鉄道事故調査委員会により、
航空事故の原因を究明し、事故の防止に
寄与することを目的として行われたもので
あり、事故の責任を問うために行われた
ものではない」と明確に記された書類を
もってである。
 
 航空先進国(日本を除くシカゴ条約
加盟国)では、航空事故の際、乗員が
生存していた場合には、故意に事故を
引き起こした事例でない限り、法的な
責任を免除するかわりに、事故の詳細な
内容を証言してもらい、それを事故
報告書にまとめて発表している。
 
 航空事故というのは自動車事故と
違い、単なる人的ミスだけではなく、
多くの場合システム的な欠陥が発生
原因になることがあり、それを正し、
より安全なシステムを構築するため
には、事故を起こした当事者の詳細な
報告が不可欠だからだと考えている
からである。
 
 ところが日本では、そのような精神に
則り、詳細を述べ、事故報告書作成に
協力した乗員が警察により犯罪者として
扱われてしまうので、他国のように事故の
背景により踏み込んだ事故報告書が
作成されにくい傾向にある。
 
 この国では、航空事故を起こすと、
無罪とされるまでは犯罪者扱いである。
だから、少なくともシカゴ条約を遵守
する状況下で調査が行われる確証が
得られるまでは、パイロットは姿を隠す
べきなのだ。
 
 そういった意味では、今回の事故での
パイロットの雲隠れ、見事というほかに
はない。まぁ、飛行の詳細はDFDRと
DCVRの解析でわかってしまうから、
直接事情聴取しなくてもそれほど原因
解明に困ることはないだろうが。
 
 そんな、航空後進途上国ニッポン
なので、私も訓練生には日頃から厳しく
指導している。
 
 「不時着あるいは墜落して、君が警察に
拘束されたら、何も話すな。まず俺に
連絡しろ」 と…
 教官には生徒を護る義務もあるから。

 今回の件がただの逃亡なのか、シカゴ
条約違反国日本から自国民を護るための
韓国政府の介入なのかどうかは不明
だが、政治的な背景は抜きにして、同じ
飛行機乗りとして、この乗員が日本警察に
不当に扱われるような事態にならないことを
祈りたい。