早番の勤務でスーパーバイザーにつくと、
出勤して最初の20分ぐらいで前日からの
引継ぎやNOTAM(航空安全情報)の確認、
自分宛のメールのチェック、今日の出発・
到着の大まかなスケジュールを頭に入れ、
すぐに飛行場の点検に出る。飛行場の
必要な施設が全て安全に使える状態に
なっていることを確認し、管理責任者として
「飛行場運用支障なし」を宣言するためだ。
今日は梅雨時らしい夜明け。地上にいても
雲の中にいるような状態で、滑走路の端に
来ると管制塔すら見えない。滑走路上に
損傷や障害物のないことを目視で確認し、
無線で管制塔に滑走路オープン支障無しを
告げる。ほどなく飛行場オープン。一番機の
降りてくる時間になっても完全にILS(計器
進入装置)頼りの運用開始となった。
平行誘導路の端で滑走路の横断を待機
させられていると、真っ白な霧の中から
かすかに聞こえてくる進入機の音… それが
轟音と共に姿を現すのは接地の数秒前だ。
目の前を通り過ぎた機体は逆噴射の轟音を
響かせながら再び霧の中へ消えて行く…
夜も明けきっているのに進入灯、滑走路灯とも
最大輝度だ… 昔、こんな霧の中でKLMと
パンナムの747同士が滑走路上で正面衝突すると
いう事故があった。離陸のために全力で加速に
入っていた機体が相手方に突っ込んだのだ。
大惨事だった。ふとこの事故が頭の中をよぎった。
自分も今日みたいな日に着陸したことがある。
何も見えない中、管制と無線誘導施設だけが
頼りだった。空と地上、お互いを信じるしかない。
信じてもらうしかない。
今日もまた無事故で私の勤務時間は終わった。
当たり前のことである。この「当たり前」を何百日も、
何千日も続けるために、我々の仕事がある。
お互いの信頼を糧にして。