世間ではいろいろ議論されているようだが、
私は殴る。のべつ幕なしではないが、言って
わからないやつは殴る。もちろん最初は上で
きちんと説明する。降りてからもきちんと
ブリーフィングをする。2回目に同じミスをしたら
ややきつく叱る。降りてからも多少脅かす。
3回同じミスをしたら怒鳴るか殴る。
理由は簡単。墜ちたら何の落ち度もない地上の
人々を巻き込むから。よしんば海上に墜ちても
捜索なんかで沢山の人に迷惑をかけるから。
だから殴らなくても言葉の暴力は容赦なく振るう。
「お前は死んでも構わないが
機体だけは持って帰って来い」
「お前の代わりなんかいくらでもいる。
空で一番安いのは人の命だ」
自分も殴られ、容赦ない罵声を浴びせられて
今の自分がある。だからこれらの行為がどれだけ
訓練生の心に刺さるかもよくわかっているつもりだ。
だからこそ言う。できないやつは飛んではいけない
ような重要な科目なら余計厳しく言う。でも私は
今までピンクスリップ(訓練中止通告)を出したこと
はない。ついてくるならとことん時間をかけてでも
教えている。(1回だけ出して訓練生を追放したことが
あったが、これは別の機会に書こう)
飛ぶことは楽しい。本当に楽しい。そして、この
楽しさを一人でも多くの人に味わって欲しいと
いつも思っている。でも、神様は人間に翼を
与えなかったわけだから、それなりの周到な準備を
してからでなければ飛んだら悲劇になることもまた真理。
人間は多少痛い思いをしなければ骨身に沁みて
わからない。この「骨身に沁みる」ことが飛行機の
訓練においてはとても大切なことなのだ。脳味噌が
恐怖でイカれるような事態でも、カラダが勝手に
反応して機体を安定させるようでなければパイロットに
なる資格はないと私は常々思っている。
人によっては話しただけでできるようになる人もいる。
中には怒鳴られ、頭をはたかれて初めて身につく人も
いる。殴られて伸びる訓練生、殴られていじけて逃げて
しまう訓練生、それぞれ個性。教官にも色々いる。
私でダメでも他の教官で大輪の花を咲かせる訓練生もいる。
それはそれでいい。私は殴ってでも体に沁みこませる
教え方しかできないから。
でも「何故殴られたか?」は皆わかってくれている… はず。
だから戦闘機からジャンボジェットまで、大きく羽ばたいた
訓練生達が今でも連絡をくれたり、会いに来てくれたり
するのだと勝手に思っている。
もしあなたが殴られたことがないなら殴らない方がいい。
殴るなら「何故殴ったのか」を相手に完璧に理解させるまで
語り合う勇気がないのなら殴るべきではないと思う。
殴られるのは嫌だが、実は殴る方ももっと嫌なのだ。
自分が過去に殴られた経験があるからね…