エピソード22「最初の結婚」
エピソード22「最初の結婚」
パリのフランス語学校「アリアン・フランセ」で、ボクはサチ子という女性と知り合った。日本でのOL時代は商社に勤め、ある程度貯金ができてから渡仏した、画家の卵で、美術批評にも一見識をもち、日本のマスコミに、時々パリ通信みたいなものを送っているといっていた。
フランス語学校の帰りに、お茶を飲むようになったのは、ボクが失恋して、パリに住みついて初めての冬だった。毎日、雪が降っていて、厳しい寒さだったが、故郷のドガ雪に慣れているボクには、どうってことはなく、サチ子さんとカフェオレを飲みながら、とりとめのないおしゃべりをする日課に、久しぶりに心が弾んでいた。
ところが、彼女はその年も押し詰まってから、突然「寒いから、暖かいスペインに行くの」と言い残して、マドリードへ発ってしまった。
またしても、ボクは、好意をもった女性に逃げられたのだろうか?
そういえばサチ子さんはボクより3つ年上で、失恋した和子さんも1つ年上だった。どうもボクは、お姉さんタイプの女性をすきになり、交際し始めてからは、喫茶店段階でいつまでも、モタモタして、なかなか最後まで行き着けないうちに、お姉さんはプイッと、幼稚なボクを置き去りにして外国にトンズラというパターンのような気もしたのである。
例によって、パターン通り、ボクは、マドリードまで彼女を追いかけた。ミラノと同じように、また、スペイン男でも出てきたら、この世は絶望、女心はヤミだとひとり相撲の疑心暗鬼で、胸はドキドキしていた。
ありがたいことに、マドリードの彼女は一人だった。毎日、スペインの風景を写生して、たのしいと微笑んでいた。サチ子さんもゴーイオング・マイ・ウェイの自分勝手な、いや、自立した女性だったのである。
ボクはマドリードにしばらく滞在したが、“喫茶店段階”のままでパリに戻ってきた。ミラノのようにスペイン男が表れなかったのが、最大のお土産だった。
半年あまり、スペインで暮らしていた彼女が、やっとパリに帰ってきた。あちらでお金を使い果たしたというので、ボクのアパートに来てもいいよと言ったら、OKだった。彼女が荷物をもってきた晩、ようやく、待望の“最終段階”が実現し、ボクはサチ子さんと結婚した。
1992「ハネムーン」
