(『新・人間革命』第7巻より編集)
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〈萌芽〉 32
伸一は、丁重に矢部を迎え入れ、礼を尽くして応対し、渡米を祝福した。
矢部は伸一よりも、十八歳も年長であったが、自分のことを心配し、励ましてくれる青年会長の誠実さに、心を打たれた。
また、人類の平和と幸福を念願し、そのために世界に仏法を流布しようとする、伸一の気概とスケールの大きさに魅了された。
矢部の胸に、再び学会についていこうとの思いが湧いてきた。
人間を触発するものは人間である。
矢部は今、ニューヨークで伸一に再会できたことに喜びを覚えながら、自分にできる限りのことはしようとの決意を固めていた。
伸一は言った。
「ところで、矢部さんには総支部の顧問に、奥様には、クイーンズの地区担当員兼任で、支部の婦人部の顧問になっていただきたいのですが、よろしいでしょうか」
矢部も、傍らにいた妻の幸恵も笑顔で頷いた。
ニューヨークの支部の結成大会となるアメリカ総支部の東部総会は、ワシントン、シカゴなどからもメンバーが参加し、二百人ほどが集い、日本クラブを借りて行われた。
山本伸一が会場に到着した時には、既に総会は始まっており、ちょうど十条潔が、ニューヨーク支部の結成を発表したところであった。
「やあ、こんばんは! いや、そのまま続けてください」
東部総会でも、山本伸一は、参加者の質問を受けることにした。
彼は、できることなら、一軒一軒、友の家を訪問して対話し、それぞれの悩みや疑問に答えながら、励まして歩きたかった。
しかし、メンバーも増えた今、短い滞在時間のなかで、そうすることは、到底、不可能であった。
そこで、質問会をもつことにしたのである。