(『新・人間革命』第4巻より編集)
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〈大光〉 5
「でも、医学でも、わからないことはたくさんあるわ。現に、あなたは、こんなに苦しんでいるじゃありませんか・・・」
良枝は、その日、彼のベッドの横で、真剣に唱題し始めた。
川崎は言った。
「頼むから、それだけはやめてくれ!」
副院長の自分が、自らの腹痛一つ治せず、妻に拝んでもらっている姿など、決して、人に見せたくはないと思ったのである。
しかし、良枝は必死になって、唱題を続けた。
すると、不思議なことに、川崎の痛みは治まり、よく眠ることができた。
翌日、彼は、自分から妻に頼んだ。
「今日も、ここで題目を唱えてくれないか」
「私が唱題しても、よく眠れたんですから、ご自分で唱題すれば、もっと、よく眠れると思うの。今日は、一緒に祈りましょう」
彼は、熟睡することができた。
そして、翌日になると、川崎の顔や目に、黄疸が出ていた。それによって、医師は、胆石症の疑いをいだき、レントゲンを撮ったところ、大きな石があることがわかった。
すぐに、手術をする必要があった。
しかし、そうなれば、さらに長い入院生活を送らなければならず、間近に迫ったロンドンでの甲状腺学会には、参加できなくなってしまう。
彼は医師に、手術以外の治療を施してくれるように頼んだ。だが、当時、手術のほかには、有効な治療方法はないことも、彼自身がよく知っていた。
川崎は、藁にもすがる心境になっていた。妻の説得もあり、この際、本気になって信心をしてみようと思った。
毎日、真剣な唱題に励んだ。最初、コーヒーのような色をした尿が出たが、それが、やがて、薄くなっていった。
ロンドンへ出発する直前に、レントゲンを撮ると、なんと、石はすっかり消えていた。
”これが信心の力なのか!”