(『新・人間革命』第1巻より編集)
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〈慈光〉 3
この時、伸一の体は、いたく憔悴していた。
同行の幹部たちも、それに気づいていた。しかし、彼は上着を脱ぐと、静かだが力強い語調で語り出した。
「皆さんは本当にご苦労され、じっと耐えてこられた。すべてがいやになりもしたんでしょう。死んでしまいたいような気持にもなったんでしょう。
その辛く、悲しい胸の内は、私にはよくわかります。
しかし、その苦しみを幸福へと転じ、流し続けてきた涙を福運の輝きへと転じてゆけるのが仏法です。
一番、不幸に泣いた人こそ、最も幸福になる権利があります。私は、それを皆さんに実現してもらうために、このアメリカにやって来たのです」
人びとの苦悩の闇に、仏法の慈光を注がんと、伸一の闘志は燃え盛った。烈々たる気迫が全身からほとばしり、その言葉は友の生命を激しく揺さぶらずにはおかなかった。
場内の空気は一変していた。
「皆さんは、信心によって、本当に自分も幸せになれるのか、と思っているのでしょう」
会場の婦人たちは、一斉に頷いた。
「大丈夫。信心を貫くならば、一人も漏れなく、幸福になれます。現に、日本では、百万人を超える同志が幸せになっています。それが最大の証明ではないですか。
仏典には、こんな話が説かれています。
昔、ある男が、親友の家で酒を振る舞われ、酔って眠ってしまった。親友は、この男が決して生活に困り、嘆くことのないように、寝てる間に、最高の高価な宝石を衣服の裏に縫いつけてあげた」