(『新・人間革命』第1巻より)
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〈錦秋〉 8
山本伸一の体の不調は、翌朝になってもまだ続いていた。
しかし、彼は服を着て、出かける用意をした。
この日は、大客殿の建築資材として、カナダ杉を購入するため製材工場をに行くことになっていたからである。
その帰りに、一行はシアトルの名所のワシントン湖に立ち寄った。
湖には、浮橋が架けられていた。一行は、この浮き橋に立ってみた。
「本当にきれい!まるで絵のようね・・・でも、この美しい葉も、すぐに散ってしまうと思うと、無常を感じるわね」
しんみりした口調で、清原かつが言った。
伸一はそれに笑顔で応え、静かに言った。
「鮮やかな紅葉は、限りある命の時間のなかで、自分を精いっぱいに燃やして生きようとする姿かもしれないね・・・。
すべては無常だ。人間も生老病死を避けることはできない。だからこそ、常住の法の下に、一瞬一瞬を、色鮮やかに燃焼させながら、自らの使命に生き抜く以外にない。
人生は、限りある時間との戦いなんだ。
それゆえに、日蓮大聖人も『命限りあり、惜しむべからず、遂に願うべきは、仏国なり』と明確に仰せになっている。
今の私にほしいのは、その使命を果たすための時間なんだ・・・」
最後の言葉には、伸一の切実な思いが込められていた。