夏休みスタートです。今回は、「ダイバーシティな夏休みのために」という感じで、映画、小説なんかを紹介しておきたいと思います。テーマは「オタクとスクールカースト」、去年の文化祭トークライブのテーマでもありますが、今年はそこにさらに考えを重ねてみたいと考えていて、そんなこともあって、「オタクとスクールカースト」な映画、小説をリストアップしてみました。では、一気に。
映画
*「ウォールフラワー the perks of being a wallflower」(米 2012)
カースト底辺をさまよう高校生活、自分でも原因が分からない幻覚症状もあって、ホントしんどい日々を送っていた少年は、軽々とカーストの壁を飛び越えているようなふっ切れた感じの先輩義兄妹におもしろがられて仲間に入れてもらうと、初めて居心地のいい時空を経験するんだけど、でも、誰だって簡単にふっ切れるわけはなく―ということで、いくつもの「しんどい」が描かれては希望もちりばめられるという作品。陽気に振る舞う兄パトリックはゲイで、スクールカーストものにゲイの少年というのもパターンだけど、80年代初という時代は彼とその仲間を厳しく追い込む。このパトリックを演じるエズラ・ミラー、カッコいい。直球なこの作品を支え切ります。
*「ぼくとアールと彼女のさよなら」(米 2015)
たくさんの物語を消費し尽くした世の中にあえて難病少女モノを投げてくるわけだから、まったくの恥知らずか、「これはちょっとちがうよ」系か、ということになると思うわけで、結論的に言うと、この作品は鮮やかに後者でした。空気を変えるサイドチェンジ、空気を止めるスルーパス、細かいフリックを交えながらつなぎまくるサッカーのようなイメージ。物語の中心は、まったくカッコよくない映画オタク高校生の目からみたスクールカースト、日常、難病少女と自分自身。監督は米TVドラマ『glee/グリー』の監督でもあるアルフォンソ・ゴメス=レホン。『glee/
グリー』のときよりもずっと好きなことやってる印象。おもしろい、日本劇場公開なしとか信じられない。
*「グッバイ・サマー」(仏2015)
女の子みたいな見た目の弱っちい男の子が主人公。その友だちでクラスで浮いてても全然気にしない機械いじりが得意な男の子とのコンビの物語。ジェンダー、スクールカースト、家庭トラブル。すごくいいシーンたくさん。あの友だちはいいね、すばらしい、ひとりでもぜんぜん大丈夫だ、がんばれ。夏休みにぴったり。
*「Dope ドープ」(米2015)
1990年代ヒップホップオタクのスラム街高校生マルコムと仲間たちの物語。製作総指揮は「HAPPY」のファレル・ウィリアムス。痛くてヤバいネタを思い切ってコメディで、という作品。アカデミー賞作品「ムーンライト」と、実は同じような構造。人種と貧困とセクシュアリティ、スクールカーストの痛みを描いてそこから目をそらすことを許さないのが「ムーンライト」なら、笑いとR15なネタで釣りながらこのテーマを見せ切ってしまおうとするのがこの「Dope」だ。家族団欒にはぜんぜん向いてないです笑。
*「シング・ストリート 未来へのうた」(アイルランド2016)
1980年代半ば、不況下アイルランド、ダブリン。コナーは、荒れてるのに校則だけは厳格で、男らしくあることを校訓とするというまったくのダメ高校に転校することになるのだが、いかにもお坊ちゃんふうの少年は、浮きまくっている。で、初日から、短い丸刈り頭(スキンヘッドではない!)の非常にヤバそうなやつ―いやあ、こいつは気になるわ―にさっそく目をつけられるのだが、でもそれがきっかけで、小さくて弱そうだけど頭が回りそうな友だちができる。あとは、何をやるかということで、それが音楽、バンドだ。その友だちと一緒にかき集めたメンバーはかなりいい。その一人ひとりでそれぞれエピソードができそうなわけあり感。それからこのシーン、いかしたバンドには黒人が不可欠、クール、というノリ。「黒いの」入れようぜ、なんかカッコいいじゃん。いいけど、その「黒いの」っていうのヤバいから。え、そうなの?みたいに、「あたりまえ」が書き変えられていく感じもおもしろい。ジョン・カーニー監督の半自伝的な物語とのこと。
*「ナポレオン・ダイナマイト」(米 2004)
ナポレオン・ダイナマイトは主人公の名前。見ての通りの高校生で、スクールカーストの最底辺。友人はやはり「変人」扱いのデビーというイケてない女の子と、メキシコ系移民の転校生ペドロ。アメリカになじめない—と、メインのキャラクターはみなどこか外れ者だけど、ペドロが生徒会会長に立候補したことからポジショニングが動揺しはじめる。映画はコメディまさに「オフビート」という言葉がぴったりなぼんやり感。でも風穴がなんとなく空いていく感じがナイス。
*「桐島、部活やめるってよ」(日 2012)
日本製スクールカーストものと言えばこれ。桐島は暗黙のうちにカースト秩序を支えた「神」、そんな桐島がいなくなる―宏樹は自身の「空っぽさ」に気づく、沙奈は浮き足立ち、リサは「桐島の彼女」である以外の何者でもなく、実果は自分を見つめ始め、かすみは誰とも違う確信犯、小泉は桐島がいないだけではダメだった、野球部のキャプテンはダサいけどカッコよかった、亜矢は?前田は?武文は?―自分自身は???「戦おう、それでも俺たちはこの世界で生きていかなければならないのだから」
本-いろいろ
*小説 白岩玄『ヒーロー!』(河出書房2016)
休み時間、教室で勉強してるだけで、なんとなく居心地が悪いような(ええ?こんなとこで勉強かよ—ってここ学校なんですけど…)、英語の本でも読んだもんなら、別世界のひとみたいになってしまうような、そんな息苦しさの見本のような高校という世界で、高校生が「正義」を実践する、「いじめをなくす」って、そんなことができるのか?主人公英雄は「大仏マン」になることによって、この絶対不可能に見えるハードルを越えにかかるんだけど、これ読むと、ホントよく分かるのは、おもしろいかもしれない、ヘンテコなことをはじめた誰かを、最初に支持する誰かの大切さだ。語り手の「私」(佐古)、巻き込まれた感MAXだけど、いいぞ、がんばれ!
*松田青子(おあこ)『スタッキング可能』(河出文庫2013)
*同『ロマンティックあげない』(新潮社2016)
この人、すごくおもしろい。斜めからダイバーシティっていう感じ。この小説はけっこう話題になった作品で、もちろんおもしろいけど、あと、エッセイもおすすめ。『ロマンティックあげない』(新潮社2016)。この本についてのインタビューでは、自分の本の宣伝してくれてるのに、男性インタビュアーにちょっとムカついてます。
例えば、ときどきトークイベントの依頼を頂くのですが、企画書に…「女性の視点でお話しください」といった一言が書かれていることがあります。それがものすごく不思議で。当たり前ですが、女性もそれぞれ個性がある違う人なので、「女性ならではの感性で」と言われても、何を話せと言われているのかまったくわからないです。私がどう思うかだったら話せますが。男性の編集者さんから「女子のあれこれについてお話しください」と言われたこともあるんですが、「男子のあれこれについてお話しください」と言われたときに、自分は困らないのかなと。
この人の文章をうっかり読んでイラついてる人が世界中にいるんだろうなあっていう想像もちょっと楽しい。確信犯だよね、ざまあみやがれって感じで書いてる。いずれにしても、松田青子さんは地味に挑発的にダイバーシティ、ということで。
どれもおもしろくて、刺さってきて、夏休みにピッタリな作品ばかりだと思うので、ぜひ!









