ドングリの背比べ | 交心空間

交心空間

◇ 希有な脚本家の創作模様 ◇

 平成26年度『NHK中四国ラジオドラマ脚本コンクール』の審査結果が発表になりまし
た。今年度は、受賞作品と各審査員の評論がNHK広島局のホームページ内に掲載されて
います。(掲載期間は不明です)


中四国ラジオドラマ脚本コンクールの審査結果 【NHK広島】


入選 『夏のほかげ』     潮 喜久知 【神奈川県】
佳作 『電車に降る星』    安渕聡美 【神奈川県】


そのほか最終選考作品(受付順)
   『Mt.Gold ~黄金山~』 増田健次 【広島県】
   『瀬戸の花婿』     竹内カノン【東京都】
   『ホームタウン』    水村節香 【大阪府】
   『炎の沈む島』     凪司工房 【京都府】
   『ひろしま抱擁クラブ』 柿沼伸良 【広島県】
   『いきますじょ』    時乃真帆 【東京都】
   『シンシア、海に来て』 北森みお 【広島県】
   『八月五日 広島』   武田康成 【愛媛県】
   『来客ですよ』     鷹羽   【茨城県】
   『瀬戸の花嫁たち』   前田タカコ【大阪府】



交心空間では、私の総評を掲載します。受賞作品の評論は後日掲載します。


*--------------------------------------*
【総評】
 今回最終選考に残った12作品は『不作がもたらしたドングリの背比べ』と言ってもいい
でしょう。それゆえ「イチオシ」が見つからず混沌としたまま最終選考会に臨みました。
各作品の評価を交わしたあと最初の投票(一人3作品を選出)で『炎の沈む島』『いきま
すじょ』『来客ですよ』『夏のほかげ』『電車に降る星』の5作品に絞り込みましたが、
案の定突出して票を集めた作品はありませんでした。私の本意は「入選なし、佳作2作品
程度」でしたが、ほかの審査員の「メリハリをもたせたい」的な意向により、様々な観点
からの議論と数回の投票を繰り返し入選佳作を決めることができました。

 総じていえるのが「ストーリーは展開してもドラマ性(葛藤)の物足りなさ」です。ス
トーリー展開も「過去の出来事に対するトラウマや贖罪もの」が多く、結果回想や昔話を
語るシーンが主流になり、現在抱える課題を描いたシーンが減少化します。つまり「ドラ
マ性の減少」です。過去に起こった出来事にドラマ性があるなら、その時代を現在として
描けばいいわけです。過去は、人物のキャラクター付けのひとつに過ぎず、ストーリーを
展開させる要因のひとつに過ぎません。
 過去がどれくらい前かにもよります。出来事の大きさにもよります。数年前、数十年前
と年数を増せば増すほど、その間のギャップを感じてしまいます。ドラマに描かれなかっ
た空白の数年数十年で、ほかには何もなかったのか、トラウマや贖罪をずっと引きずって
生きてきたのか、という疑問です。
 回顧型ドラマが「いけない」とは言いません。しかしながら過去にとらわれて現在がお
ろそかになると、単なる「お話レベル」で終わります。展開の構図として『過去に起因し
た出来事(問題)が現在で勃発する、それを解決するために問題の場所へ行く、問題が明
らかになっていく、知らなかった事実や気持ちに衝撃を受ける、改心し乗り越えた姿をみ
せる』が定番になっているようです。「とりあえずのドラマ性」につなげる法則とでも言
えばいいのか、12作品のうち最終的に残った5作品はいずれもこの構図に当てはまります。
裏を返せば、この構図が「一番考えやすい書きやすい」のでしょうか……?
 結果ドングリの背比べとなり、運良く票が転がりこんだ『夏のほかげ』が入選、『電車
に降る星』が佳作に決まりましたが、新鮮味はなく虚しさが充満した今年度でした。


*--------------------------------------**--------------------------------------*