人物の境遇を伝える | 交心空間

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◇ 希有な脚本家の創作模様 ◇

 物語『冬の花火』の解説(7)です。

 花火を素材にしているので、当然その様子や魅力を掘り下げていきます。同
時に、冒頭の「ダメージに包まれた俺」(主人公)をさらに膨らませます。だ
からといって、まだ自分から話しかける心境ではありません。ですから、ここ
も女から切り出して、質問を切っ掛けに男の置かれた状況を明らかにします。
 男の境遇を受けて、女も境遇を明かします。これで二人の接点「失意の状態
である」が確立されました。


*---------------< 本文 >---------------*
 花火の中心から放たれた閃光が、周囲の黒を一瞬の宇宙に変え、そして哀し
げに消えていくのが見える。がっくりと肩を落とし、呆然と佇む俺のつれなさ
を察知したのだろうか、花火を揺らしながら女は聞いてきた。
「あなたは? どんな失敗をしたの?」
「……二億の商談、他の業者に横取りされちまった」
「そっか……じゃあ、私なんかまだいい方だ。いやな客にネチネチされたぐら
いで、こんなところで憂さ晴らしてたんじゃ、ホステス失格だよね」
               *-------------< ここまで >-------------*


 物語を展開させる基本は、『素材と人物に沿って描く』ところにあります。
これはショート作品なので最低限の表現(短文)で書いています。つまり、一
言一句で物語が進展しているのです。長編では、この骨格にいろいろな描写や
飾り付けの台詞を加えて膨らませるといいでしょう。