まぶたから  つづき | 日々是も~そうぼ~そう好日

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⚠️妄想ブログ⚠️
北海道今金町在住。
勤務先HOTELいまかね。
ヒキコモリ生活10年以上。2025年2月ニンゲン復帰リハビリ開始。
日本一清流の町で義父義弟のごはん係担当。
此処は空が何処までも広くて綺麗で天国。
下の義弟故栗城史多。アメブロや著書弱者の勇気が大好き。




彼の息子の名前。


望。

一文字で。

のぞむ。


亡くなった彼の妻がどうしてもと選んだ一字。

彼には記憶を呼び戻すことの出来ない時間。

とてもとても。

しあわせなふたりだったのだと。

彼にはひとかけらも取り戻せない日々を。

なんども。

まわりじゅうに聞かされた。


哀しみも。


どこにも。



存在しない。



虚無。


のぞむ、と。

呼ぶたびに、妻だったはずのひとを想う。

なにを、望んだのだろうか。

どれほどのこころのこりがあっただろうか。

どんなふうに、そばにいたのだろうか。



「とーさん。こいつおおみってゆーんだ。ともだち」


息子の連れてきた少年?

どう見ても・・・女子ではないひょろりと背ばかり伸びたような・・・・。

まだ、未分化の性別があやふやに感じられる輪郭。

真っ白な肌。

薄くそばかすのあるきめの細かい頬。

髭すら見当たらない。


まっすぐに。

自分を見つめる視線。

かすかに彼の頭の中が揺らいだ。

彼は奇妙な悪寒をおぼえ、眼を逸らすしかなかった。


「いらっしゃい。ゆっくりしていってね」


ありきたりな歓迎のことば。

黙って会釈を返し真っ赤になって、おおみがうつむく。

予感はきっとこのときから。


この日から。


ずっと彼の中で。

かたちを作り始める。