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スキル向上委員会のブログ

skill:スキル(熟練、技)をテーマに日常の出来事、ニュース、情報を主観的、客観的に考え話にしています。作家:愛崎好生・1億人のスキルー人生の参考書を執筆。人生のお役に立てば幸いです。

第9章
◆学校設立
◆活版印刷
◆ソロバンの普及
◆お札の発行と銀行設立
◆100G紙ショップ開店
◆株式会社設立
◆芸術の都
◆終わりの無い異世界
あとがき
 

第9章
◆学校設立
もみ殻紙製造装置が10台完成し、紙の量産体制に入った。

もみ殻は、農家から無料で調達できた。運送費と工賃のみだから低コストだった。

紙の値段は、1枚1G。飛ぶように売れた。

町中に安価な紙が流通する様になり、国民は読み書きできる人が必要になっていった。

そんな時、国王から国民に教育して良いと連絡があった。

まず学校設立に教師を募集した。行員の中からも読み書き計算が出きる人は教師となった。

そして学校の校舎を建て、運営することになった。


◆活版印刷
次は、文字を活字にした印刷技術を使い本を沢山作る。

まだこの異世界に活版印刷は無い技術だ。

今までは、印刷用に板や粘土板に掘り型板を造る。

型板にインクを塗り紙を印刷する。

しかし型板を掘るには時間が掛かるし、一品物だから汎用性が無い。

だから紙に文字を印刷するには、型板よりも活字を組む活版が適している。

この異世界に活版印刷を広め、本を大量に発行した。

やがて国民の識字率は向上していった。


◆ソロバンの普及
ヨシオは毎日、商人の仕事をしている。しだいにお金の桁数が膨大になってきた。

お金の計算が多くなり、収入と支出も複雑になってくる。

また国民はどの様にお金を計算しているのだろうか?

少額の買い物ならおつり程度だから間違いは少ない。

多額となれば全て紙の上で筆算をしている。

筆算では間違いも多く、時間がかかる。

あくどい商人ならごまかして稼ぐ。詐欺と同じだ。

この異世界にソロバンと言う計算道具はまだ無い。

ヨシオはソロバンを作ってみた。工員達に、学校の教師達に、ソロバン教育を開始した。

皆は驚きと関心を示し、計算は早くなり計算間違いもなくなった。

教師から生徒にソロバン教育を必須とした。

国内の業者にもソロバン計算が広がり高額取引も盛んになった。

国王は、そろばんと言う計算道具に興味をしめし、改めて学校を称賛した。


◆お札の発行と銀行設立
経済が発達し、物の流通量も増えていった。

労働者の賃金も増加していった。

ある日、国王から呼び出しを受けた。

国王が商人アイザキヨシオに言った。

国の物量が増え、人件費も上がり、物価が高騰している。

現在のお金は、金、銀、銅の貨幣だが国内の鉱山はほぼ採掘し終わっておる。

この金銀銅硬貨の増産をどうすれば良いか意見を聞きたい。

国王陛下。

金銀銅硬貨を増産する必要はありません。

お札と言う物を作ればよろしいかと。

お札とは何だ。

信用できる証文を紙で作るのです。

例えば、銅貨は100Gのお札。銀貨は1,000Gのお札、金貨は10,000Gのお札。

信用が第一ですので、お札は偽造出来ない様にして発行します。

お札は、手に乗るコインよりは大きめの紙にして大量に印刷します。

お札は紙ですから、軽く持ち運びも便利です。

これで金銀銅の採掘は必要ありません。

王様は少し考え、大臣に意見を求めた。

大臣達は、それは良い考えだと意見を述べた。

国王は、そのお札とやらを1か月で見本を作れと命じた。

国王陛下、要望がございます。

国王陛下と妃様と王女様の似顔絵を頂きたいのですが。

似顔絵をどうするのか?

お札にそれぞれ印刷しようと思いまして。

10,000G は王様、1000Gは妃様、100Gは王女様の似顔絵をお札に描きます。

それと偽造防止の為に、国印を1枚1枚に押します。

王様はその様にして良い、試作品を早く見たいものだ。


まず、ラベル職人ベルティーニに会いに行った。

香水のラベルは、以前の羊革から紙のラベルに変わっていた。

ベルティーニに話をすると、ビックリしていた。

ベルティーニは金銀銅貨をお札にするのか?

これぐらいの大きさの紙を用意するので、ラベルと同じ要領で型を掘って欲しい。

材質は、金の板、銀の板、そして銅の板、

それと、王国の印鑑を掘って欲しい。

それらは、この国に1枚しか無い貴重な物になることも説明した。

図柄と似顔絵を描いたものは後日持ってくると伝えた。


一ヶ月後、試作品のお札は予定通り完成した。

お札のインクは、黒は鉱物から取ったインク。赤は天然石から取ったインク。

2色刷りにした。そして最大の難点は透かしの技術。

紙をすく工程で、紙の厚さを部分的に変え、光の透過率の違いで絵柄を浮かび上がらせる高度な技術。

この時代には、透かしの技術は無いが、魔法がある。

透かしの技術は、魔法で補うことにした。

王様はお札を見るなり大喜びし、これで我が国の貨幣は安泰だと言われた。

王様。この国には銀行がありません。

銀行を設立することをお勧めします。

銀行とは、貴族や国民の財産を貯金と言う形で安全に預かり、その資金をお金を必要としている人に貸し出しする金融機関です。

それによりさらに国を発展させることができます。

国内の富がお金と言う財産に膨れ上がると、安全に保管し貸し出しする機関が必要なのです。

そしてお札は国内に流通し、「国立幸せ銀行」を設立することを王様は認めた。

しかし国外取引はまだ金銀銅貨の流通が主であった。


◆100G紙ショップ開店
紙は、薄い物、普通紙、厚い物を製作できた。

その用途によって紙は無限の可能性があった。

トイレットペーパー、ティッシュペーパー、キッチンペーパー
マスク、ペーパータオル、生理用ナプキン、紙おむつ
紙コップ、紙皿、紙ストロー、紙エプロン
包装紙、紙袋、ダンボール箱
壁紙、障子紙、フスマ紙
新聞紙、画用紙、製本用紙、ノートブック
鉛筆(棒状黒鉛を紙で包み固めた物)、色紙、カレンダー
その他色々

まだこの世界に無い紙の製品を100Gで売る。

王国をはじめ、地方の村々で店をオープンした。

それら紙の製品には使用説明書を添付した。

紙の製品は飛ぶように売れた。

国内の衛生状況は飛躍的に向上し、疫病の発生は減少した。

国民の生活も飛躍的に向上した。

さらに
識字率が向上したことで、国民は本を読む様になった。

新聞、料理書、衛生書、魔法書、剣槍弓の実用書、教科書、法律書、辞書、小説、雑誌など

色々な書物は100G~5000Gで少し高いが発行した。

知識は貴族の特権では無くなった。

「香水商人の伝記」と言う本がベストセラーとなった。


◆株式会社設立
この異世界には、株式会社という概念はなかった。

王族、貴族、商人、農民、工夫など個人で経営をするのが常だ。

そこで、商人ギルド、製紙ギルド、工房ギルドなどに株式会社を設立する相談をした。

彼らギルドは、初めまったく話を聞かなかった。

しかし、何回も話をするうちに資本家や国民から投資をしてもらい、利益分配を配当で払うことに興味をしめした。

各ギルドの承認を得て、国王に株式会社設立の許可を得た。

そして香水商会株式会社、リサイクル株式会社、万能製紙株式会社、ワイバーン航空運搬株式会社を設立した。

1株50G 配当は年1%から5%。貴族、国民だれでも投資できる株式会社。

初めは、国王様、王女様に投資してもらい信用を得た。

国王、皇后、王女を絵にした株券を発行した。

しだいに株式の信用が広まり、多くの株式会社が設立された。

そして、国立証券会社が誕生した。

王国の経済は発展し、国民も裕福な暮らしに満足していった。

◆芸術の都
この異世界の経済は発達していった。

しかし、芸術や娯楽といったものは殆ど無い。

歌って飲んで騒ぐ。

花を飾る。

絵を描くが、まだ白黒でカラーは無い。水墨画の様だ。

ラベル職人ベルティーニに会いに行った。
「ラベルに赤青黄色インクを使いたい」と希望したがカラーインクは無いと言われた。

私は、香水から分別した色素からインクが出来ないか思案した。

香水の抽出過程で副産物として色素を取り出す。

カラーインクの主な原料は、顔料と定着材。

顔料は色の微粒子で、バラやアサガオ、ラベンダーナ、マリーゴールドなどから抽出できる。

定着材は液体のり。

問題は、色あせや酸性アルカリ性の変色。

カビや腐敗の耐久性。

顔料化への沈殿と粉末にする技法を開発すること。

現在世界では、ミョウバンと重曹でレーキ顔料技法を用いるが、
 ミョウバン;硫酸アルミニウムカリウム。
 重曹;炭酸水素ナトリウム。
カビや腐敗の対策は乾燥防止剤や防腐剤や浸透剤が必要だ。

その代替えを魔法で処理することが出来ないか試行錯誤した

結果ついに3原色マゼンタ、シアン、イエロー(赤紫青緑黄色)の顔料が完成した。

そして顔料をベルティーニに預けインク作成を依頼した。

しかしベルティーニは、粉末顔料が沈んでしまうことに悩んでいた。

私はアラビアゴムを煮詰めて作った粘性液を加え、すり鉢で長時間練り続ける方法を提案した。

すると、顔料は液体の中で均一に散り、沈殿しなくなった。

ついにカラーインクが完成した。

カラーインクは、水彩画、油絵、家の装飾、壁紙色などに使われた。

お札の人物像もカラー印刷され、カラフルになった。
むろん偽造防止のために。

国内には、人物、自然、風景絵画を描く芸術家が増えた。

貴族は、絵師に肖像画を依頼し、館内に飾る事を好んだ。

国内の芸術作品は、技術が向上し、国内外の貿易収支で商人は繁盛した。

王国は芸術の都と呼ばれる様になった。

◆終わりの無い異世界
毎日忙しい日が続いた。夕日が王都の街並みを赤く染めていた。

宿に向かう途中、見覚えのある姿が目に入った。路地裏のベンチに座り込んだ老人。前にヨシオが魔石を買い取ったあの情報屋だった。


こちらに気づいて、

おう、兄ちゃん。景気良さそうな顔しとるのう。

町の様子はどうですか?

老人はにやりと、

街中えらい騒ぎじゃよ。ワシの耳に入ってくるだけでも三つ四つ。


老人は皺だらけの顔をくしゃりと歪めた。情報屋としての嗅覚が忙しく働いているらしい。


指を立てて、

一つ、東の国境で軍の動きがあった。小競り合い程度じゃがの。

二つ、南の商業都市ベルガで魔物の群れが出たらしい。

三つ……


老人の目つきが急に鋭くなった。


声を潜めて、

三つ目が厄介じゃ。北の山脈に「古き竜」が目覚めたらしい。鍛冶屋連中が怯えとるよ。

あの山の近くにはドワーフの集落があるからのう。

どれも無視できない情報だった。

東の軍事的緊張、南の魔物被害、そして北の伝説級の存在。

一つ一つが国家の行く末に関わる案件だ。

老人はヨシオを見上げ、情報料を請求するでもなく、ただ意味ありげに笑っていた。

私は100Gを老人に投げ、その場を去った。

老人は受け取って、

気をつけな、兄ちゃん。


背中にかけられた声は短かったが、妙な重みがあった。

宿への帰り道、ヨシオは三つの情報を頭の中で反芻していた。東の小競り合い、南の魔物、北の竜。

どれも今すぐ自分に降りかかってくる話ではないが、「古き竜」という響きは嫌でも記憶に残る。

あの巨大な魔石を思い出せば、竜種がどれほどの力を秘めているか想像に難くない。

宿の部屋に入り、ベッドに腰掛ける。窓の外では夕焼けが完全に消え、夜の帳が降りていた。

明日も紙の量産、紙製品開発、学校の運営、香水、ポーション開発。絵画の販売やるべきことは山積みだ。

だが同時に、冒険者としての血が疼くのも感じていた。未知の脅威、未踏の地、強大な存在。

商人だけでは味わえない世界がこの先に待っている。

夜風が窓から吹き込み、ランプの炎を揺らした。異世界の長い一日がまた終わろうとしていた。

 完


あとがき

異世界商人のお話はここで終わります。

異世界商人は今後もっと多くの品物を売買します。

冒険者としても活躍します。

そのエピソードは次回書くことにしましょう。

    異世界商人 愛崎好生

第8章
◆ランク昇格試験
◆試験当日
◆航空運搬
◆もみ殻から紙を作る装置
◆王宮謁見
◆製紙ギルド 

 

第8章
◆ランク昇格試験
封筒を空け、内容を確認した。

封書の中身は簡潔だった。ギルドマスターのバルドス直筆の手紙で、次のような内容が記されていた。

「ヨシオ殿。貴殿のランク昇格試験について、本日付で受験資格を付与する。

現在のEランクからCランクへの飛び級試験となる。内容は実技審査および面談。日程は追って通知するが、準備を整えておくこと。

なお、この推薦はギルド職員の全会一致によるものである」

同封されていた推薦状には、受付嬢のメリッサやレオンたち護衛パーティの署名もあった。

トマスに至っては「魔石再利用技術の功績」と長々とした推薦文を書いている。

Cランクといえば中堅冒険者の仲間入りを意味する。

受けられる依頼の幅が格段に広がり、指名依頼や国からの依頼も舞い込んでくる。身分証としても社会的信用が跳ね上がるランクだった。

この世界に来てからまださほど日が経っていないが、美容ポーションの安定供給、ワイバーンの従属、そして魔石再利用の発見。

一つ一つは地味な成果だったかもしれないが、積み重ねた実績が確かな形になって返ってきていた。

Eランクから日も浅いが、

ランク昇進試験を受ける事を了承する返事をした。

翌朝、ギルドに返事を届けると受付のメリッサが満面の笑みで対応した。彼女の手際は相変わらず素早い。


書類を処理しながら、

試験日は三日後です。実技はギルド裏の訓練場で行います。試験官はBランク冒険者のヴォルフさん。内容は模擬戦と状況判断です。

三日間の準備期間。その間に装備の点検や体調管理はもちろんだが、Cランクに相応しい実力を試される以上、単純な戦闘力だけでなく応用力も問われる。

模擬戦の形式は事前に知らされないのが慣例らしい。

ガルドスに報告すると、顧問の仕事は試験が終わるまで休んでいいと言われた。商売は順調だから気にするなと。

二日目の夕方、ふと王都の外れに足が向いた。転移してきた時に最初に立っていた丘の近くだった。

あの時は右も左も分からなかったが、今は違う。帰る場所があり、頼れる人々がいる。そしてこの先にはまだ見ぬ世界が広がっている。

夜風が頬を撫でた。明日が試験日だ。

私は、現在のレベルを確認した。

ステータスを念じると、目の前に半透明のウィンドウが浮かび上がった。

**【ステータス】**

**名前:ヨシオ**
**種族:人間**
**年齢:22歳**
**職業:商人レベル10、冒険者(Eランク)**
**レベル:28**

・基礎体力 20/100 ・基礎魔力 30/100

**スキル:**
・創造力 Lv.7
・香料調合 Lv.7
・調香師の嗅覚 Lv.7
・香水生成 Lv.6
・無限収納(大) Lv.5
・鑑定 Lv.5
・治癒力 Lv.3
・計算力 Lv.3
・記憶力 Lv.3

- 魔力操作 Lv.5(魔力の感知・操作)
- 従属魔法 Lv.5(魔獣・魔物を従属させる)
- 魔石付与 Lv.5(空魔石に魔力を付与する)
- 火魔法適性 Lv.1(基礎)
- 家電作成 Lv.1(家電製品を魔力で作成する)
- クラフト Lv.5(素材から物品を作成する)

**称号:**
- 王国商人
- 魔石技師
- ワイバーンの主

**HP:320/320**
**MP:580/580**

レベル28。この世界の基準では中堅冒険者に差し掛かる水準だった。

魔力操作と魔石付与のスキルが特に伸びており、実戦と生産の両面で能力が育っている。MPの高さは魔法系スキルを多く保有している恩恵だろう。

職業は、商人レベル10に、冒険者のレベル28が表示された。

ワイバーンを従属した成果が表れている様だ。

剣における戦闘力と防御力は無いようだ。

剣で試験となると落第するかもしれない。

魔力で試験に望むことになるだろう。

ステータスを見る限り、剣術に関するスキルは一つもない。

家電作成やクラフトで武器は作れても、それを振るう技術が伴わなければ試験では意味がない。

模擬戦で魔力主体の戦い方を選ぶなら、方針を固めておく必要があった。

魔力弾による射撃、身体強化による回避と接近、あるいは従属魔法で何かを召喚しての連携。どれを軸にするかで試験の展開が大きく変わる。

宿に戻り、机に向かって作戦を練った。試験官のヴォルフはBランクの戦士だとメリッサが言っていた。

正面からの近接戦は避けるべきだろう。かといって魔力に頼り切りでは応用力を問う試験に落ちかねない。

夜が更けていく中で一つの考えが浮かんだ。クラフトスキルで魔力を纏わせた防具や罠を即席で作れるなら、それも立派な戦術になる。

魔力操作の精度を磨いておけば、咄嗟の状況にも対応できるはずだった。

翌朝は早めに起きて、王都外の草原で魔力制御の訓練に充てた。試験まであと一日。

ステータスを見る限り、剣術に関するスキルは一つもない。

家電作成やクラフトで武器は作れても、それを振るう技術が伴わなければ試験では意味がない。

模擬戦で魔力主体の戦い方を選ぶなら、方針を固めておく必要があった。

魔力弾による射撃、身体強化による回避と接近、あるいは従属魔法で何かを召喚しての連携。どれを軸にするかで試験の展開が大きく変わる。

宿に戻り、机に向かって作戦を練った。試験官のヴォルフはBランクの戦士だとメリッサが言っていた。

正面からの近接戦は避けるべきだろう。かといって魔力に頼り切りでは応用力を問う試験に落ちかねない。

夜が更けていく中で一つの考えが浮かんだ。クラフトスキルで魔力を纏わせた防具や罠を即席で作れるなら、それも立派な戦術になる。

魔力操作の精度を磨いておけば、咄嗟の状況にも対応できるはずだった。

翌朝は早めに起きて、王都外の草原で魔力制御の訓練に充てた。試験まであと一日。

クラフトで作れる罠のバリエーションを増やす。

魔力の制御も同時に訓練する。

身体強化スキルのレベルを上げて素早い動きの練習も。

やることは山積みだ。

草原に立ち、まずクラフトで足元の土を素材にした。石の杭を地面から突き出させたり、魔力を込めて硬化させた土壁を瞬時に生成したり。

単純な罠だが、タイミングと配置次第では格上にも通用する。

次に身体強化。足に魔力を集中させて走ると、普段の三倍近い速度が出た。

ただし制御が甘く、急停止で足がもつれそうになった。何度も繰り返して感覚を体に叩き込む。

夕暮れまで訓練を続け、クラフトのバリエーションは十種以上に増えた。

落とし穴、魔力弾の射出装置、魔力網、足止めの粘着床。実戦で使えそうなものを厳選した結果だ。

夜は宿で魔力制御の精密訓練に充てた。指先から糸のように細い魔力を伸ばし、それを自在に操る練習。

これができるようになれば、離れた場所にも魔力を届かせられる。

そうして試験当日の朝を迎えた。


◆試験当日
ギルドの受付で、

メリッサはおはようございます。試験会場の準備は整っています。頑張ってくださいね。

わかりました。頑張りますと挨拶をし試験会場に入った。

ギルド裏の訓練場は普段の倍ほどの広さに整備されていた。

土の地面に木柵で囲まれた円形の試験区画があり、周囲には見物人がちらほら集まっている。昇格試験は娯楽としても人気があるらしい。

試験区画の中央に一人の男が立っていた。

大柄な体格に無精髭、背中に大剣を背負って、

お前がヨシオか。噂は聞いてるぞ、Eランクの割にやたら派手なことやってるらしいな。


ヴォルフは軽い口調だったが、その目は笑っていなかった。値踏みするような視線がヨシオの全身を一瞥する。


首を鳴らして、

ルールは簡単だ。俺と戦って生き残れ。降参か戦闘不能で終了。武器も魔法も好きなもん使え。ただし殺しはなしだ、治癒術師が控えてる。


区画の端に白いローブの治癒術師が待機していた。ヴォルフが大剣を抜き、肩に担ぐ。刃が陽光を反射して鈍く光った。

ヴォルフは構えて、

いつでも来い。

昨日覚えた、クラフトスキルから魔力弾を発射した。怪我をしない程度の魔力弾にした。

ヨシオが手をかざすと、空気中の魔力が圧縮されて弾丸の形を取った。白く光る魔力弾が三発、立て続けにヴォルフへ向かって飛ぶ。


大剣の腹で一発目を弾き、

おっと。

二発目は身のこなしだけで躱し、三発目を地面に踏み込んだ衝撃波で相殺した。

怪我をしない程度の威力とはいえ、Bランクの反応速度は桁違いだった。


口角を上げて、

威力を抑えてるな? 気遣いは結構だが、試験じゃ手加減は減点だぞ。


言い終わる前にヴォルフが距離を詰めてきた。一歩で間合いを半分潰す脚力。大剣が横薙ぎに振るわれ、風圧だけで地面の砂が舞い上がる。

咄嗟に地面から防壁を作製し、防御した。同時に落とし穴を作りヴォルフを落とした。

大剣が防壁にぶつかり、石が砕ける鈍い音と共にヨシオは横に飛んだ。

防壁は一撃で粉砕されたが、その一瞬の猶予でクラフトを発動する余裕が生まれた。足元から魔力が走り、ヴォルフの足下の地面が崩落する。


ヴォルフは体勢が崩れて、

なっ……!


ヴォルフは咄嗟に大剣を地面に突き立てて落下を堪えた。片腕で体を支え、もう片方の手で剣を引き抜く。

膝下まで土に埋まった状態で動きが制限されている。

だがヴォルフの目が変わった。遊びの色が消え、獰猛な笑みが浮かぶ。

力任せに地面を蹴り上がって、

面白えじゃねえか!


砂塵を巻き上げながらヴォルフが穴から飛び出した。身体強化を全開にしているのか、先ほどとは段違いの速度で迫ってくる。

大剣に魔力が乗り始めていた。

最後の切り札。魔法の網をヴォルフにかぶせ身動き出来ない様にした。

魔力の網が空中に展開され、突進してくるヴォルフを頭から包み込んだ。魔力を帯びた網は絡みつくように収縮し、大男の体を締め上げる。

大剣が振り下ろされる軌道が途中で止まり、網の中でヴォルフがもがいた。

ヴォルフはもがきながら、

くそっ……動けねえ!


数秒の攻防。網はヴォルフが力任せに引きちぎろうとする力に耐えきれず、びりびりと裂け始めた。あと数秒で破られる。

しかしその数秒があれば十分だった。ヨシオはヴォルフとの距離を保ったまま、次の手を打てる位置にいる。

網が完全に千切れ、自由になったヴォルフは荒い息をつきながら大剣を下ろした。そして肩をすくめて笑った。


ヴォルフは大剣を鞘に戻して、

そこまで。合格だ。

見物人からざわめきが起きた。治癒術師が出番なしで肩を落としている。


手を差し出して、

判断力、応用力、どっちもCランク以上だ。あの網は見たことねえ。


そして、私は試験に合格となりしゃがみ込んでしまった。

ヴォルフはしゃがみ込んだヨシオを見下ろして、

おい、大丈夫か?


緊張の糸が切れたのだろう。魔力制御とクラフトの連続使用は想像以上に体力と精神力を消耗していた。手が微かに震えている。

メリッサは駆け寄ってきて、

ヨシオさん! 大丈夫ですか?


メリッサに手を振って、

心配すんな、気力切れだ。しばらく休めば治る。


ヴォルフは大股で去っていき、見物人たちも三々五々散っていった。訓練場にはヨシオとメリッサだけが残された。

水筒を差し出して、

はい、どうぞ。あの、おめでとうございます。Cランク合格、本当にすごいです。このペースで昇格する方は滅多にいませんよ。


水を一口含むと少し楽になった。青空を見上げると、雲がゆっくりと流れている。異世界に放り出されてから、ここまで来た。
まだ道の途中だが、確実に前に進んでいる。

ありがとう、メリッサさんのお陰で色々と助かったよ。僕がこのペースで合格出来たのも、メリッサさんのサポートがあったからだ。

本当に感謝してもしきれない。水筒の水を飲み干し、立ち上がる。まだ少し足元がふらつくが、先程よりはだいぶマシだ

メリッサは頬を赤く染めて、

そんな……私は受付の仕事をしただけですから。でも、そう言っていただけると嬉しいです。


メリッサは照れ隠しのように書類の束を胸に抱え直した。その仕草がどこか初々しい。


咳払いをして、

え、えーと、それでですね。合格の正式な手続きがありますので、受付までお越しいただけますか? 

新しいギルドカードの発行と、Cランク向けの依頼リストの説明をさせてください。


二人はギルドの建物に戻った。受付でメリッサが手際よく処理を進め、程なくして新しいギルドカードが発行された。

銀色の縁取りが施されたCランクの証。Eランクの時とは質感からして違う。

カードを受け取ると、掲示板の前にレオンたちの姿が見えた。噂を聞きつけたらしい。リーナが小さく拍手し、トマスが興奮気味に駆け寄ってきた。

トマスは目を輝かせて、

網の魔法、あれは新規登録すべきですよ! 学術的に非常に興味深い!

ワイバーンの時に網で捕獲した成果を魔法で再現しました。


トマスはメモを取り出して、

やはりあの時の経験が基になっているんですね! 魔力の編み方に独自の癖がありましたが、あれは理論化できるかもしれません!


メリッサは静かに微笑んで、

おめでとうございます、ヨシオさん。これでCランクの仲間入りですね。

レオンは腕を組んで頷いて、

Cランクからは護衛依頼も受けられるようになる。俺たちのパーティーに合流する話、そろそろ本格的に考えないか?


レオンの提案は以前から持ちかけられていたものだった。Cランク以上が条件だったため保留していたが、今なら受ける資格がある。

レオンのパーティーはCランクが三人にDランクが一人。バランスの良い構成で、堅実に実績を積んでいる。


メリッサは横から、

パーティー登録もこちらで承れますよ。報酬の分配や貢献度の管理もギルドがサポートします。


新たな選択肢が目の前に開けていた。ソロで活動を続けるか、信頼できる仲間と共に歩むか。

まだ商人としての仕事が山ほど残っている。

冒険者としてパーティに入るのはもう少し後にする事にした。


◆航空運搬
翌朝。革細工師の工房を訪ねると、ドワーフの老職人が出迎えた。名はゴルグ。

鍛冶仕事で鍛え上げられた太い指が、見事な革の見本を次々と広げていく。

ゴルグは革を広げながら、

ワイバーンの鱗付き革か。乗り手の体格はどのくらいだ?

ワイバーンはこれから先、各町の航空運搬をさせるつもりだ。工員は女性が多いから男女兼用の造りにして欲しい。

顎髭をいじりながら、

航空運搬となると、長時間座っても尻と腰が痛くならねえ造りにせにゃならん。風よけも必要だな。


ゴルグは棚から設計図の束を引っ張り出した。過去に大型鳥獣用の鞍を手掛けた経験があるらしく、手慣れた様子で図面を指でなぞっていく。

見積もりを出して、

鞍本体、風よけ、手綱と安全帯込みで金貨25枚ってとこだ。素材はワイバーン革と鉄の骨組み。仕上がりは十日後。

悪くない金額だった。しかしヨシオにはもう一つ考えがあった。クラフトスキルで収納庫を部分的に作れないかという試みだ。

外装や革部分は職人の手仕事が必要でも、収納庫の骨格や魔力伝導用の仕組みをクラフトで用意できれば、保温運搬できる。

ヨシオはゴルグにその提案を持ちかけてみた。

クラの後ろや横に製品を入れる収納庫を取付ける。

内部の温度、圧力を一定にする為、魔力を付与するのは、私のクラフトスキルで作るのでそれに合うものにして欲しい。

目を見開いて、

魔力で内部環境を制御するだと? そんな収納庫聞いたこともねえぞ。


ゴルグの職人魂に火がついたようだった。椅子から立ち上がり、作業台の上の道具をがちゃがちゃと漁り始める。

興奮気味に、

つまり収納庫の内側に魔力回路を組み込むってことか。

外気温に左右されずに快適な空間を保てるなら、長距離飛行でも製品が悪くならねえ。画期的じゃねえか!

二人の議論は白熱した。ゴルグが構造的な要件を出し、ヨシオがクラフトで再現できる魔力機構のイメージを伝える。

何度かのやり取りを経て、骨格部分はクラフト製、外装と安全帯はゴルドス製という分業で合意が成立した。

握手を求めて、

面白え仕事だ。職人の腕が鳴るってもんだ。十日後に最高のもんを仕上げてやるよ。


◆もみ殻から紙を作る装置
大麦、小麦など穀物のもみ殻から紙を作る装置に付いて進行具合を聞きに行った。

工業区の試験工房に着くと、アランが作業場の入口で待っていた。相変わらず目の下に隈があるが、表情は充実している。


疲れた顔に笑みを浮かべて、

来てくれたか。ちょうどいい、見てくれ。


工房の奥に据えられた装置は、前回の設計から大幅に改良されていた。

穀物のもみ殻を投入する投入口、水分を抜く乾燥区画、繊維をほぐす粉砕部、そして圧搾して紙の原料を作る部分まで一連の流れが完成している。

試作品の第一号が作業台の上に置かれていた。

アランは紙を手に取って、

強度はまだ改善の余地があるが、ちゃんと紙としての体裁は保ててる。不純物の除去が課題でな、三回に一回は繊維が絡まって詰まる。


アランは装置の各部を指差しながら丁寧に説明した。魔力駆動の乾燥機構が思ったより上手く動いているらしく、声に自信が滲んでいる。

助手として雇った若い男が二人、黙々と装置の調整に当たっていた。

声を落として、

実はな、この話を商業ギルドの幹部に持ちかけたんだが……興味は示すものの、実用化までの投資を渋られてる。

「紙なら他国から買えばいい」ってな。


紙を量産すると、利権争いがはっせいするのか?


アランは苦い顔で、

その通りだ。製紙ギルドってのがあるんだが、あそこが目を光らせてやがる。

この世界でも紙は存在するが、高級品だった。羊皮紙や木簡が主流で、製紙ギルドがそれらの供給をほぼ独占している。

新興勢力がもみ殻紙の安価な代替品を市場に流せば、既得権益を脅かされることになる。


アランは声を潜めて、

連中、俺のところに直接来て「余計なことはするな」と釘を刺していきやがった。


製紙ギルドの影響力は王都の商業界に根深く及んでいた。貴族や役所に紙を納入している取引先が多く、敵に回すと面倒な相手だ。


アランは肩をすくめて、

だから今はあんまり大っぴらに動けねえんだ。装置はここでこそこそ試作してるが、量産となると話が変わってくる。


権力との衝突。金と信用だけでは解決できない壁が立ちはだかっていた。

驚いて、

王様には紙の量産を説明している。紙の既得権益はこの国の将来発展を阻害する。

このことを王様に報告しよう。

王様に直接か!? いや、確かにそれが一番効くが……お前、そんな伝手があるのか?

ワイバーン献上の件で王宮に出入りしているヨシオならではの発想だった。アランの驚きも無理はない。


アランは考え込んで、

しかし製紙ギルドも馬鹿じゃねえ。王宮に根回ししてる可能性は十分あるぞ。大臣クラスに賄賂を渡してるって噂もある。


それでも正攻法としては最善手だった。国王の勅命が下れば、製紙ギルドは手出しできなくなる。

問題は謁見の機会をどう作るかだが、レオナルド殿下経由で申し出れば話は通りやすいだろう。


真剣な目で、

もし本当にやるなら、装置の実物を持っていってくれ。百聞は一見にしかずだ。

アランは試作品の紙束を革袋にまとめ始めた。もみ殻紙がこの国の未来を変えるかどうか、その鍵はヨシオの次の一手にかかっている。

まず、紙製造装置を仕上げる。その上で、コストを計算し装置を10台製造すれば国内に紙が流通するので請願書でお願いする。

アランは頷いて、

筋は通ってる。まず装置を完成させて実績を作り、それから請願ってわけか。


請願書という形なら大臣を通じて国王に届けることができる。殿下に直接持参するより手順として自然だ。

そして何より、机上の空論ではなく具体的な数字と実物が添えられれば説得力が格段に上がる。

アランは拳を握って、

よし、装置は仕上げる。十台分の部品も見積もっておくから、資金の準備だけ頼むぞ。


方針が決まるとアランの動きは早かった。助手二人に指示を飛ばし、装置の最終調整に取り掛かる。

ヨシオは資金面の段取りに頭を巡らせながら工房を後にした。

帰り道、頭の中で計算する。装置一台の建造費、10台分の部品、人件費、輸送費。諸々込みで金貨500枚は必要だろうか。

魔石事業の売上とガルドスからの報酬を合わせれば不可能ではないが、かなり大きな出費になる。

夕暮れの街を歩きながら、ヨシオは商人としての覚悟を新たにしていた。これは投資だ。この世界の未来への。

紙製造装置が完成し、コスト計算、材料と紙の供給需要を請願書にまとめ王宮に提出した。



◆王宮謁見
請願書はガルドスの紹介で王宮の行政官に提出された。数日後、行政官からの返答が届く。内容は簡潔だった。

「国王陛下が直接話を聞きたいと仰せである。三日後の午前、王宮謁見の間に参上せよ」


三日後。ヨシオは正装に身を包み、王宮の大扉をくぐった。

謁見の間は以前の殿下への謁見とは規模が違った。玉座の両脇に文官や武官が並び、壁際には近衛兵が控えている。空気が重い。

玉座から、

そなたが請願者であったか。

以前にも謁見しました。

国王は白髪交じりの髭を蓄え、鋭い眼光でヨシオを見下ろしている。

威厳に満ちたその姿は、一国を統べる者の風格そのものだった。

以前申し上げました、もみ殻から紙を作る装置が完成しました。

この装置をまず10台作ることで、国内に紙が流通します。

それにより、国内産業、文化は発展します。

また、紙が普及すれば、国民の識字率も向上し、国の教育水準も上がりさらに国は発展します。

国王は興味深そうに、

もみ殻から紙、 製紙ギルドが聞いたら卒倒するな。


国王の口元にわずかな笑みが浮かんだ。周囲の文官たちがざわつく。

大臣が横から、

陛下、お待ちください。製紙ギルドからは既に「新規参入は市場を混乱させる」との陳情が届いております。安易に認めれば……


国王は手で制して、

黙れ。認可を求めに来た者の前で反対意見を並べるのは礼を失するぞ。


大臣が渋々口を閉じた。国王はヨシオに視線を戻す。

国王は身を乗り出して、

具体的に申せ。コストはどれほどかかる。装置の耐用年数は。原材料の供給は安定するのか。

そして識字率向上とやら、どの程度の期間で効果が出ると見込んでおる。


矢継ぎ早の質問。だがそれは無関心の裏返しだった。国王が本気で聞いている証拠だ。文官の一人がペンを走らせ、記録を取っている。

装置の製造は、当方で負担します。紙の販売を認めてください。利益から税金をお支払いします。

装置の対応年数は、メンテナンスすれば、10年程と思われます。

識字率は、貴族と商人を除くとほぼゼロに等しいかと思われます。

紙を使って教本をつくり、教育機関すなわち学校をつくります。生徒を集め読み書き、計算などを教えます。

しばらく沈黙した後、

学校、か。

その一言に謁見の間の空気が変わった。貴族出身の文官たちの間に動揺が走る。

「学校」という概念はこの世界では一般的ではなかった。家庭教師や私塾はあるが、国が運営する公的な教育機関は存在しない。


思わず、

平民に教育を施すと仰せですか? 貴族の特権を脅かすことになりかねませんぞ!


大臣を一瞥して、

黙れと言ったはずだ。

大臣は青い顔で口をつぐんだ。国王の目が再びヨシオを捉える。


国王は静かな声で、

利益から税を納めると言ったな。それは商人としての判断か、それともこの国を思ってのことか。どちらだ。

単なる利益追求か、国家への貢献か。その答え次第で国王の決断が分かれるだろう。謁見の間に緊張が満ちていた。


私どもは、充分利益が出ております。国民の暮らしが向上すれば国は豊かになります。国家への貢献でございます。


長い沈黙の後、深く頷いて、

国王はよかろう。認可する。

謁見の間がどよめいた。大臣が信じられないという顔で国王を見つめている。


続けて、

装置10台の製造と紙の販売を許可する。ただし条件がある。まず一つ、学校とやらの設立は余が直接認可するまで待て。

官僚どもが横槍を入れぬよう、こちらで段取りをつける。


先走るなという釘刺しだった。独断で学校を建てれば貴族派閥との軋轢は避けられない。国王が後ろ盾になるという宣言でもあった。

二つ目の条件を述べて、

二つ、製紙ギルドとの摩擦は最小限に抑えよ。あやつらも国民だ。潰すのではなく、共存の道を探れ。それができぬなら認可は取り消す。


寛容さと厳しさを併せ持つ裁定だった。甘いだけの王ではない。ヨシオには政治的な調整力も問われることになった。



◆製紙ギルド
謁見を後に、製紙ギルドを訪れた。

製紙ギルドは王都の中心部に居を構えていた。石造りの立派な建物で、「紙と知識の守護者」と刻まれた看板が掲げられている。

中に入ると、整然とした受付と奥へ続く廊下が広がっていた。

受付嬢は冷ややかな目で、

どちら様でしょうか。ギルド員以外の方は紹介状が必要ですが。


歓迎の気配は微塵もなかった。アポイントなしの訪問だ、当然と言えば当然である。しかし国王の認可を得た以上、引き下がる理由はない。

国王様の了承をえたので、紙の販売に付いて製紙ギルドの上層部の方に面談にきました。

一瞬顔色が変わり、

少々お待ちください……

受付嬢は慌てた様子で奥に消えた。しばらくして戻ってきた彼女は、ヨシオを二階の応接室に案内した。

部屋で待つこと数分。扉が開き、恰幅の良い中年の男が現れた。仕立ての良い上着に金のブローチ。

指にはいくつもの宝石の指輪が光っている。その後ろに痩せぎすの男が一人控えていた。


椅子に腰を下ろし、

ギルド長のマルクスだ。国王陛下の了承と聞いたが……詳しく聞かせてもらおうか。


マルクスの声は落ち着いていたが、目は笑っていなかった。

後ろの痩せた男の手が微かに震えている。既に情報を掴んでいるのか、あるいは最悪の事態を想定しているのか。

先ほど国王陛下の紙販売の許可を得ました。製紙ギルドの方にも当方の紙を扱ってもらい、利益を共に得たいので相談にきました。

マルクスは眉を上げて、

扱う、だと?

予想外の申し出だったらしい。マルクスは明らかに面食らっていた。敵対するつもりで来たと思っていたのだろう、後ろの男も怪訝な顔をしている。


マルクスは探るように、

潰しにきたのではないと?


声のトーンが少し柔らかくなった。警戒は解いていないが、聞く姿勢にはなったようだ。

敵対するつもりはありません。製紙の製造と販売は複数の商人が取り扱う事でさらに流通します。そちらにも製造装置をお貸しします。

マルクスは身じろぎして、

装置を貸す? 自社の商売道具をこちらに渡すというのか。正気かね。


疑いの色が濃い。裏があると考えるのが商人として当然の反応だった。マルクスは指輪だらけの手を組み、ヨシオを値踏みするように見つめた。

慎重に、

条件は何だ。まさか善意で言っているわけではあるまい。

交渉の入口に立った。ここからは言葉の一つ一つが重みを持つ。マルクスは商売人としての嗅覚を全開にしてヨシオの次の言葉を待っていた。

羊皮紙では、製造と数量の絶対数がたりません。紙は貴族の特権です。

この量では、国民が使用できる日は来ません。安価な紙が流通ことで、キルドにも莫大な利益が入ります。私ども共に利益が有るのです。


マルクスはしばらく黙り込んだ後、

……貴族の特権、か。痛いところを突く。

声を低くして、

だが安い紙が出回れば貴族はそちらを買う。我々の売上が落ちるのは目に見えている。


核心を突いてきた。ここが正念場だ。ヨシオがどう答えるかでマルクスが乗るか降りるかが決まる。

後ろの男は相変わらず震えていたが、ギルド長の判断を待つように口は開かなかった。

貴族の使用量と国民の使用量を比べてみて下さい。初めは変わらずともいずれ10倍、いや100倍も違います。

マルクスは、はっとした顔で、

100倍……

数字の意味を理解するのに時間はかからなかった。貴族が年間に使う紙の量などたかが知れている。書簡、契約書、帳簿。せいぜいその程度だ。

一方、国民全体に紙が行き渡れば消費量は桁が違う。教本、商取引、記録、日常の書き付け。需要は際限なく広がる。


マルクスは額の汗を拭って、

つまり我々は貴族を相手に細々と商う傍らで、巨大な市場を丸ごと取りこぼしていたということか。


自嘲とも驚嘆ともつかない呟きだった。四十年以上ギルドを率いてきた男が初めて気づいた盲点。マルクスはゆっくりと立ち上がった。

手を差し出して、

装置の件、前向きに検討しよう。具体的な話を詰めたい。

ありがとうございます。装置や材料、製造紙を置く場所、費用など詳細の打ち合わせを行いギルドを後にした。

交渉は二時間に及んだ。マルクスは意外なほど柔軟で、「莫大な利益」という言葉がよほど効いたらしい。

装置のリース料、材料の共同調達、販売価格の棲み分けなど、実務的な合意が次々と固まっていった。

第9章
◆学校設立
◆活版印刷
◆ソロバンの普及
◆お札の発行と銀行設立
◆100G紙ショップ開店
◆株式会社設立
◆芸術の都

◆終わりの無い異世界
あとがき

異世界商人

 

第7章
◆花々の廃棄処理
◆魔力式紙漉き装置
◆リサイクル
◆魔力量の調整
◆ワイバーン
◆ロックリザード
◆ミスリルの精錬
◆完成したポーション

 

第7章
◆花々の廃棄処理
香水の製作において、花々の廃棄処理が膨大になっていた。

その廃棄コストは運搬費、労働費、償却費などである。

そのコストを削減する方法は無いかと思案していた。

そして、この異世界は紙が非常に高価であること。

そこで花々の廃棄処理を応用出来るかもしれないと考えた。

工房の裏手には、香水の製造で出た花々の残骸が山と積まれていた。茎や葉、花弁の切れ端、色が抜けた花びら。

これまでは荷馬車で廃棄場まで運び、焼却か埋め立て処分していた。一回の搬出で馬車二台分、運賃と労賃を合わせれば百G以上が吹き飛ぶ。

ヨシオはその山を眺めながら思案した。廃花は大量にある。しかも水分を含んで繊維質が柔らかい。

現代の紙の原料は木材パルプだが、もしこの花の残骸を使えれば……。

さらにこの世界では紙が高価だ。羊皮紙や木簡が主流で、植物紙は貴族や一部の富裕層しか手が届かない代物だった。

もし花から安価な紙を作れれば、それも商機になる。

問題は製法だ。ヨシオには紙漉きの知識などない。だがこの世界には魔力がある。

花の繊維を魔法でほぐして叩き、薄く均一に伸ばす方法を模索できないだろうか。

翌日、ヨシオは再びガルドスを訪ねた。

ガルドスさん、廃棄する花々から紙を作りたいのですが何か良いほうほうは有りませんか?

眉をひそめて、

花から紙だと? 聞いたことがないな。

老魔術師はヨシオに詳しい説明を求めた。廃花の水分を含んだ繊維質、

それを魔力でほぐして均一に伸ばすという大まかな構想を聞き終えると、しばらく黙り込んだ。


……理論上は不可能ではない。風魔法で繊維を解きほぐし、水魔法で水分を均一に保ちながら圧縮する。

要は魔力による紙漉きだな。ただし問題がある。


ガルドスが指を一本立てた。

風と水の同時制御だ。二属性の魔力を繊細に調整しながら持続的に流し込まねばならん。儂にはできるが量産は無理だ。

そこで老魔術師の目が鋭く光った。

……待て。お前、あの香水に魔力を乗せておったな。あれと同じ要領で魔力付与した装置を作ればどうだ。

魔石を組み込んで自動化する。職人の腕が要らんから量産できる。

つまり魔力駆動の紙漉き装置。現代で言えば魔力式パルプ漂白機のようなものだ。

もし実現すれば、花の廃棄コストはゼロになり、安い紙の大量生産という新たな市場が開ける。

ヨシオはガルドスの提案に身を乗り出した

それです、それ!お願いします!一緒に開発してくれませんか!

ガルドスは鼻を鳴らして、

ふん、食いつきが早いな。まあ良いだろう。退屈しておったところだ。


◆魔力式紙漉き装置
こうして魔力式紙漉き装置の共同開発が始まった。ヨシオには魔力付与の経験があり、ガルドスには二属性魔法の制御理論がある。

役割分担としては悪くなかった。

一週間後、試作品第一号が工房の作業場に据えられた。高さ一メートルほどの木製の箱に魔石が二つ埋め込まれ、

上部に花の残骸を投入する口がある。動力源はヨシオが魔力を充填した魔石で、稼働時間は約三時間。

実験では、まず廃花を水に浸して繊維を柔らかくし、そこへ風と水の魔力を同時に流し込む。

箱の下部から薄い紙状のものが剥がれ落ちてくる。厚さは均一とは言い難かったが、確かに紙と呼べるものがそこにあった。


ガルドスは、ほう……動いたな。

しかし問題も見つかった。風の魔力が強すぎると繊維がちぎれ、逆に弱いとほぐれない。

水の量も多すぎれば紙がふやけ、少なければ繊維が絡まったまま残る。最適なバランスを見つけるには試行錯誤が必要だった。

ヨシオとガルドスは、試作品の改良を重ねながら、しばらく工房に泊まり込んだ。

そして二週間後、ようやく納得のいく紙漉き装置が完成した。

花弁を投入すると、一定のペースで薄く丈夫な和紙が剥がれ落ちてくる。自動で稼働する機構の動力は、常に一定の魔力を供給する魔道具だ。

この魔道具も二人が共同で開発した。

これはガルドスの発案で、魔力付与された金属板を魔力供給用の魔石に挟むことで、供給魔力を一定にする効果を持たせたのだ。


思ったより上手くいったな。

ですね!まさかこんなに上手くいくなんて……ガルドスさん、天才じゃないですか!

ヨシオは目を輝かせてガルドスを褒めたたえた。

咳払いをして顔を背けたが、口角が上がっているのは隠せていない。

天才は言い過ぎだ。だがまあ……悪くない出来だな。

完成した装置は想像以上の成果を上げていた。廃花を投入してから和紙が出てくるまで約三十分。一回の投入で約二十枚の紙が取れる。

品質は和紙に近く、羊皮紙より軽くて丈夫で、それでいて価格は十分の一以下で作れそうだった。

試しに出来上がった紙に文字を書いてみると、インクの乗りも良い。書類や帳簿、簡易なメモ用紙として充分に使える。

工房では早速見積書や納品書の作成に使い始めた。


さらにこの紙の存在を聞きつけた商人ギルドのグスタフが飛んできた。

紙を手に取って、

これは……羊皮紙より安くて軽い。しかも大量に作れると? ヨシオ殿、とんでもないものを作りましたな!


◆リサイクル
王宮や貴族殿に高価な紙を販売します。

大量生産の道筋も考案中ですので、ゆくゆくは市民にも紙を販売する予定です。

興奮を抑えきれず、

市民にまで紙が行き渡れば商取引は激変しますぞ! 契約書、請求書、在庫管理、あらゆる書類が紙になる。商人としてこれほどの朗報はない!


グスタフは既に頭の中で商売の絵図を描いているようだった。卸売価格や流通経路について矢継ぎ早に質問を飛ばしてくる。

一方、紙の噂は王宮にも届いた。マルティナが試作品を手に取ると、その薄さと丈夫さに目を輝かせ、即座に国王へ報告したという。

数日後、王宮から正式な書状が届いた。紙の品質と量産可能性について、国王自らが直接説明を聞きたいとのことだった。

今度はヨシオだけでなくガルドスも同行を求められていた。

謁見の間ではなく応接室での対面となった。国王は五十代半ばの壮年の男で、威圧感はあるが話の分かる人物だった。

傍らには財務大臣も控えている。

試し書きした紙を置いて、

これが花からできたと?

今考案中のことは、紙の量産です。紙の製造機械と魔法石から安定した魔力と抽出する方法。そして、紙の材料についてですが、大麦、小麦、米

などの穀物のもみ殻から紙をつくれないか思案しております。もみ殻は、大量に捨てられている様ですから、リサイクルできれば一石二鳥。

国王は身を乗り出して、

リサイクルだと?

国王の隣で財務大臣が眼鏡の奥の目を細めた。「リサイクル」という概念自体がこの世界にはない。

廃棄物は焼くか埋めるか捨てるかが常識だった。

それを資源として回収し再利用するという発想に、二人の為政者は明らかに衝撃を受けていた。

低い声で、

穀物のもみ殻は農村で大量に廃棄されております。あれが紙になるとなれば……原材料費は限りなくゼロに近い。


顎に手を当てて、

大麦の収穫量は国全体で年間数百万袋に上る。もみ殻だけでも相当な量だ。……それで、製造機械と魔法石の件だが。

国王がガルドスに視線を移した。老魔術師は一礼してから口を開く。

現在の装置を改良すれば、穀物のもみ殻にも対応可能です。

ただし花より繊維が硬い分、風の魔力を強める必要があります。試作に二週間ほどいただければ。


国王は満足げに頷いて、

良かろう。必要な資金と人材は用意する。進めよ。


◆魔力量の調整
王宮を後に、ガルドスに相談した。

魔法石から一定の魔力を抽出する装置を開発したい。

魔力を表示させ、調整ツマミで任意の量に取出し出来れば、ポーションの魔力抽入が容易になる。

私以外の工員に仕事をさせられると。そして紙製作にも役立つと。

額を掻いて、

お前の頭の中はどうなっとるんだ。次から次へと……。

呆れた口調だったが、目は笑っていた。ガルドスは椅子に深く腰掛け直し、指で机を叩きながら思考を巡らせている。

魔力の抽出と制御か。要は蛇口だな。魔石から流れ出る魔力に弁を設けて、回すツマミで量を調整する。理屈は単純だが精度が問題だ。

これまで魔石は「使う」か「使い切る」の二択だった。中間の出力を維持する装置など存在しない。

ガルドス自身、魔力付与の際には手作業で魔石に触れ、感覚で魔力量を決めていた。

だがお前が前に作った魔力付与装置があるだろう。あれの魔力供給部分を応用すれば……いけるかもしれん。

以前ヨシオが香水の魔力付与用に作った装置は、魔石から一定の魔力を引き出す機構を持っていた。

ただしあの時は魔力量の調整など考慮しておらず、ただ一定量を垂れ流すだけの構造だった。そこに流量調整の機構を追加すれば、一定魔力抽出装置の原型になる。

ただし、だ。調整機構に使う部品は魔力伝導率の高いミスリル銀が要る。手持ちがない。

ミスリル銀は何処に行けば手に入る?

腕を組んで、

北の鉱山街ノルディスだ。あそこでしか採れん。ミスリル鉱石を精錬できる職人も限られておる。


ノルディスは王都から馬車で五日ほどの距離にある山岳の街で、鍛冶と鉱業で栄えている。

ただし最近、街の周辺に魔物が出没するようになり、物流が滞りがちだという噂があった。商人ギルドの掲示板にも護衛依頼が増えていたはずだ。

ただ問題が一つある。ノルディスに行く道中、山道でワイバーンの目撃情報が出ておった。討伐依頼が冒険者ギルドに出されとるはずだ。

ワイバーン。翼竜の一種で、全長は馬車ほどもある大型の魔物だ。飛行しながら炎のブレスを吐き、街道を行く商隊を襲うことで知られている。

Bランク冒険者のパーティーでも苦戦する相手だった。護衛なしで向かうのは自殺行為に等しい。


◆ワイバーン
ワイバーンか、ハンターはいる?護衛として雇いたい

ガルドスの家のメイド、シルキーに向かって

銀髪の長身のメイドが静かに一礼して、

ハンターでしたら心当たりがございます。

以前この屋敷に滞在されていた冒険者の方が、ノルディス方面への護衛を探していると聞いたことが。

シルキーは淡々と続けた。

名前はレオン。Bランクの剣士で、パーティー名は「暁の牙」。

四人編成で前衛二、後衛二のバランス型です。この街を拠点にしておりますので、ギルド経由で依頼を出せば応じるかと。


立ち上がって、

レオンか。あいつなら腕は確かだぞ。


翌日、冒険者ギルドで護衛依頼を正式に発注した。

「ノルディスまでの往復護衛、報酬は一人一日五百G」の条件で掲示すると、昼過ぎには返答があった。「暁の牙」が依頼を受諾。翌朝の出発で話がまとまった。


そして翌朝。工房の前に四人の冒険者が集まっていた。

赤毛の青年が手を差し出して、

あんたが依頼主か。レオンだ、よろしく頼む。

頭の中で呼出。ワイバーンを手なずける方法はありますか?

ヨシオの意識の内側で、いつもの呼出が応じた。

天の声:淡々と、

ワイバーンは知能が高く、力の序列に敏感な生物です。圧倒的な力を示すか、上位者として認めさせれば従う可能性があります。

具体的には以下の方法が考えられます。

1. 直接対峙して魔力で威圧し、恐怖で服従させる。
2. 魔力を帯びた攻撃で翼や足を狙い、飛行能力を奪った上で力の差を見せつける。
3. 魔力を込めた餌やポーションで弱らせてから従属の術式を施す。
4. 群れの長と交渉して傘下に入る形を取る。

いずれの場合も、ワイバーンを単独で無力化できる戦闘力が前提となります。

つまり、護衛を雇う必要があるかどうかはヨシオ次第ということだ。正面から戦って屈服させれば馬車も護衛も要らない。

ただしその場合、四人には「依頼がなかった」ことになるのだが。

レオンに護衛部隊には弓と魔法の冒険者を加える様にお願いした。また弓矢の先に魔法石を取付る様に依頼した。

そして大きな網とロープを用意する事にした。

レオンは首を傾げて、

弓に魔法石? 変わった注文だな。まあいい、当たる確率が上がるなら文句はねえ。網とロープも用意しとく。

三日後、「暁の牙」に弓使いのエルフの女と魔術師の青年が加わった。エルフの名はリーナ、魔術師はトマス。

二人ともBランクで実力は申し分ない。矢の先端には小ぶりの魔石が括り付けられ、当たれば魔力が炸裂する仕掛けだ。

網とロープは荷馬車に積み込み、総勢六人の一行は王都を出発した。

北へ続く街道は次第に山がちになり、四日目には両側を切り立った崖に挟まれた峡谷に差しかかった。

馬車の御者が不意に手綱を引いた。


旦那方、あれを!


崖の上に巨大な影が旋回していた。翼を広げた全長は十メートルを優に超える。

赤黒い鱗に覆われた翼竜が、黄金色の瞳で一行を見下ろしていた。

レオンは剣を抜いて、

来やがったか! 全員配置につけ!

ここからは、慎重に空も注意していく。

ワイバーンが近づいたら、魔法石に魔法を注入して翼を狙う様に指示した。

一行は馬車を崖から離れた岩陰に寄せ、防御陣形を取った。

レオンともう一人の前衛が前方を固め、リーナとトマスが後方から空を監視する。

ワイバーンは旋回を続けていたが、獲物を品定めするように徐々に高度を下げてきた。

距離が詰まるにつれ、その咆哮が空気を震わせ、馬が怯えていなないた。

リーナは弦を引き絞りながら、

近づいてきてる……あと少し。


ワイバーンが急降下の体勢に入った瞬間、リーナが矢を放った。

括りつけられた魔石にトマスの魔力が乗り、矢は白い光を纏って翼の付け根を直撃した。

炸裂音。翼膜の一部が焼け焦げ、ワイバーンが体勢を崩して横に滑った。だが致命傷には程遠い。

怒りに満ちた咆哮が谷に反響し、口腔に炎が渦巻き始めた。


ブレスが来るぞ、散れ!

灼熱の炎が馬車めがけて吐き出された。岩陰にいたおかげで直撃は免れたが、熱波だけで馬が暴れ出す。

網を投げるなら今が好機だった。翼の動きが鈍っている。

網でワイバーンを捕らえ、ロープで口と翼、足を縛っておとなしくさせた。

レオンの号令で前衛二人が網を投げた。

焦げた翼のせいで機敏に動けないワイバーンに網が絡みつき、そこへヨシオがロープに魔力を流しながら駆け寄った。

ロープが触れた箇所からワイバーンの体が痙攣した。抵抗しようと尾を振り回すが、網とロープの二重の拘束で翼も足も封じられていく。

口を縛られたワイバーンはくぐもった唸り声を上げるだけだった。

レオンは息を切らしながら、

嘘だろ……捕まえちまった。


リーナは弓を下ろして、

信じられない。傷つけて弱らせてから網で捕獲するつもりだったのに。

ワイバーンが暴れ続けている。縄が軋む音が不穏に響いた。このままではロープが切れかねない。

呼出の知識が頭に浮かんだ。力の序列を示すなら今だ。この状態で魔力を直接ぶつければ、服従させられるかもしれない。

ワイバーンに従属させる魔法を発動した。

ヨシオの掌から放たれた魔力がワイバーンを包み込んだ。金色の光が巨体を這うように広がり、鱗の一枚一枚に染み渡っていく。

ワイバーンは目を見開いた。黄金の瞳に恐怖と困惑が交互に走る。尾の振りが止まり、翼が力なく垂れた。

そして数秒の沈黙の後、地響きのような低い咆哮を一つ上げて、頭を地面に伏せた。従属の意思表示だった。

光が収まると、あれほど暴れていたワイバーンは静かに目を閉じて身じろぎもしなくなった。

ワイバーンの額に従属の印が表れた。


レオンは剣を握ったまま固まって、

……は?

トマスは眼鏡を何度も直しながら、

今の、従属魔法ですよね? 一人でワイバーンに?


リーナは長い耳をぴくぴく動かして、

ありえない。普通は何人もの術者が儀式で行うものよ。


レオンは頭を振って、

いや待て、ちょっと待て。俺たち護衛だよな? 出番ほぼなかったよな?

冒険者皆さんの協力のおかげです。ありがとうございました。

ワイバーンが従属した様なので、網とロープをほどいてよいと思います。

苦笑いしながら網をほどいて、

協力って……まあ、依頼料分は働いたってことにしとくか。

ロープを解かれたワイバーンはゆっくりと首をもたげ、ヨシオを見つめた。

さっきまでの獰猛さは消え、どこか犬じみた従順さすら漂わせている。鼻先をヨシオに擦り寄せて、くぅと甘い声を出した。


リーナは後ずさりして、

かわいくない! あのワイバーンが!


震える手でメモを取りながら、

トマスは学術的に貴重な瞬間を目撃してます……。

網とロープはワイバーンの移動手段として使える。馬車に繋いでおけば、ノルディスまでの空路を使った移動も可能かもしれなかった。

徒歩で五日の道のりが、飛べば一日で済む。

一行は再び馬車に乗り込んだが、空を飛ぶ巨大な影を従えた旅路は道行く人々の度肝を抜いた。

街道ですれ違う商人が腰を抜かし、宿場町では宿の主人が窓から顔を出して口をぽかんと開けていた。

以前オオカミを従属させたいと思ったことはあったが、まさかワイバーンを従属させてしまうとは、夢の様だ。

ノルディスに着いたらミスリル銀を採掘しよう。


◆ロックリザード
翌日の夕刻、ノルディスの街が見えてきた。山肌に張り付くように石造りの建物が並び、煙突からは絶え間なく白煙が立ち昇っている。

街の入口には鍛冶師のハンマーを象った鉄の門が聳えていた。

だが街に近づくにつれ異変が目についた。城壁の一部が崩れ、補修の途中で放置されている。

門の前には武装した衛兵が倍の人数で配置され、空気が張り詰めていた。


馬車から降りて、

魔物の襲撃が続いてるって話は本当らしいな。

衛兵の一人がワイバーンを見て槍を構えたが、

従属の印を確認すると慌てて武器を収めた。街の中に入ると鉱夫たちが忙しなく行き交い、酒場の方からは怒号混じりの議論が聞こえてくる。

どうやら採掘場の奥に魔物の巣ができたらしく、採掘が滞っているらしい。

宿を確保した後、「銀の穴」という名の鍛冶工房を訪ねた。

店の奥から白髭のドワーフが顔を出し、ミスリルの精錬ができる唯一の職人だと名乗った。

太い指でヨシオを指して、

ミスリルが欲しいだと? 生半可な量じゃ足りんぞ。何に使う。

魔石から魔力を抽出する、調整装置に使用すると説明した。

目を細めて、

魔力抽出の調整装置だと? 聞いたこともない。


ドルグはヨシオの説明に首を捻りながらも、職人の好奇心が刺激されたらしく話に食いついてきた。


まあいい、面白そうな代物だ。で、量はどれくらい要る。

必要なミスリル銀の量はおよそ五キロ。ガルドスの見積もりではそれで十分足りるとのことだった。

ドルグに見積もりを頼むと、精錬費込みで一万Gという答えが返ってきた。


髭を撫でながら、

ただしな、今は採掘に問題がある。坑道の奥にロックリザードが住み着きやがってな。

鉱夫が何人も怪我した。あいつらを片付けてくれるなら精錬費はタダにしてやる。


ロックリザード。岩に擬態する大型のトカゲ型魔物で、硬い鱗は剣も通しにくい厄介な相手だ。

しかも群れで行動する習性があり、採掘現場の坑道は狭いため大勢で攻め込むのも難しい。

レオンが横から口を挟んだ。

追加依頼ってことでいいか?

肩をすくめて、

正直に言やぁ厄介だ。剣が通りにくい上に群れる。狭い坑道じゃブレスも使えんからな、地道に削るしかねえ。


指を立てて、

ただ、魔石矢が効く可能性はあるわ。魔力で鱗を貫通できれば一気にいける。

頷いて、

僕の火魔法も坑道内なら範囲を絞れます。一体ずつなら対処できるかと。


四人は手慣れた様子で作戦を練り始めた。前衛が一体を足止めし、後衛の魔法と魔石矢で仕留める。シンプルだが堅実な戦法だ。問題は数だった。

ドルグの話では少なくとも十体はいるらしい。

翌朝、装備を整えた一行は採掘坑道の入口に立った。松明の明かりに照らされた坑道は奥に進むほど暗くなり、湿った空気が肌にまとわりつく。

十数歩進んだところで、壁面の岩がわずかに動いた。

囁き声で、

レオンが止まれ。前方、岩が三つ動いてる。

魔石矢を装填した弓を構える。魔力が弓に伝わり、青白い光の矢が形成される。ロックリザードが完全に姿を表すまで待機した。

静寂の中、空気が張り詰めた。松明が揺れるたびに坑道の影が蠢く。

岩だと思われていた三つの塊が、ゆっくりと剥がれ落ちた。その下から現れたのは体長二メートルほどの灰色のトカゲ。

縦に裂けた黄色い目が一行を捉え、耳障りな擦過音を立てた。残りの二体も壁から離れ、じわりと距離を詰めてくる。

レオンが無言で右手を開いた。「まだ撃つな」の合図だ。三体が完全に岩から離れた瞬間を待っている。

ロックリザードの一体が首をもたげた。威嚇の姿勢だ。その喉元に僅かな柔らかい皮膚が覗いた。


小声で、

今だ。

リーナとヨシオが同時に矢と魔力の矢を放った。二条の光が坑道を切り裂き、先頭のロックリザードの首元と胴体に突き刺さる。

鱗が弾け飛び、体液が飛散した。断末魔の叫びを上げる間もなく一体目が沈んだ。

残り二体が怒号とともに突進してきた。

トマスの詠唱が聞こえる。その瞬間、横から飛び出したレオンが一体のロックリザードに飛びかかり、剣を突き立てた。

もう一体は魔法使いのトマスが放った火球に包まれた。そのまま坑道の奥へと駆けて行く。

レオンの剣はロックリザードの首の隙間に深々と突き立てられ、そのまま体重をかけて抉り抜いた。

血飛沫が坑道の壁を汚し、二体目が痙攣しながら崩れ落ちる。

三体を片付けたところで奥から地鳴りのような振動が伝わってきた。

仲間の悲鳴を聞いた残りが殺気立っているのだろう。


リーナは矢を番えながら、

奥からまだ気配がある。五、六体はいるわね。

汗を拭いて、

坑道が狭くなってる。この先は二人が並ぶのがやっとだ。


坑道は奥に進むほど天井が低くなり、足元は岩盤が露出していた。
レオンは剣に付いた血を振り払い、先頭に立って慎重に歩を進める。松明の光が届かない暗闇の奥で、何かが蠢く音がした。


レオンは足を止めて、

待ち伏せされてるな。曲がり角の先だ。

トマスが火魔法の詠唱準備に入り、リーナが矢に魔石を括り直す。ヨシオも次の矢に魔力を込めた。

次の攻撃で一気に数を減らさなければ、狭い坑道で乱戦になる。判断は一瞬だった。

詠唱が聞こえる。その瞬間、矢をつがえて弓を引き、全力でロックリザードに向かって矢を打つ。

その一撃は一体の頭部を貫き、痙攣しながら坑道の壁に崩れ落ちる。リーナさん、レオンさん、お願いします!

ヨシオの号令と同時にリーナの魔石矢が続けざまに放たれた。

一本がロックリザードの脇腹を穿ち、もう一本は外れて天井に突き刺さった。トマスの火球が頭部を失った個体の後ろにいた一体に直撃し、炎に包まれたロックリザードがのたうち回る。

混乱した残りの三体にレオンと前衛の戦士が斬りかかった。

狭い坑道ではロックリザードも満足に動けず、一体は剣で翼を切られ、最後の一体はレオンに首を踏みつけられて息絶えた。

坑道に静けさが戻った。焦げた肉の匂いと血の臭いが充満している。

レオンは息を整えて、

全滅確認。十体ぴったりだ。

トマスは壁にもたれて、

もう魔力すっからかんです……。


リーナは矢筒を覗いて、

私も残り二本。帰り道が怖いわね。


◆ミスリルの精錬
ドルグとの約束は果たした。あとはミスリル銀を精錬して王都に持ち帰るだけだ。

だがドルグの工房に戻ると、老ドワーフは首を横に振った。


ミスリルの精錬には炉に魔石を三つ焚かんといかん。最近の魔物騒ぎで魔石の備蓄が底をついておる。

使い終わった魔石はありますか?魔石に私が魔法を付与します。

目を丸くして、

魔石に魔法を付与だと? そんな話聞いたことがないぞ。


だがドルグは疑いながらも工房の奥を漁り、使い終わった空の魔石を五つほど持ってきた。

どれも内部の魔力が完全に抜けきった透明な石だった。普通なら廃棄するか、細かく砕いて肥料にするしかない代物だ。

魔石をカウンターに並べて、

こいつは本来もう使い物にならん。好きにしろ。


五つの空魔石が並んだ。呼出の知識によれば、魔力を注入する要領で属性を変換すれば属性魔石として再利用できるはずだった。

ただ問題が一つある。ドルグの精錬炉は火属性の魔力を必要とする。つまり火の属性魔石でなければ炉を動かせない。

ヨシオは火魔法の適性がない。だが火の精霊石なら持っている。

あれを触媒にすれば火属性の魔力を生み出せるかもしれなかった。


ドルグは腕を組んで、

できたら大したもんだがな。失敗しても文句は言わん、やってみろ。

火の精霊石を触媒にして火属性の魔法付与を試した。

工房の作業台に空魔石五つと火の精霊石を並べた。精霊石が淡い赤光を放っている。

呼出の知識に従い、まず火の精霊石から魔力を引き出した。

赤い光が指先に集まり、それを触媒にして空魔石へ魔力を注ぎ込んでいく。

火の精霊石の属性がフィルターの役割を果たし、注がれた魔力に火の性質が付与されていった。

一つ目が赤く輝き始める。二つ目、三つ目と順調に成功し、四つ目の途中で魔力が乱れた。

集中を高め直して再び注入すると、四つ目も赤い光を宿した。


ドルグは身を乗り出して、

おい……本当にできてるぞ。しかも純度が高い。


五つ全てに魔力が充填された。火属性の魔石として問題なく機能するはずだ。


ドルグは一つ手に取って光に透かし、

こりゃ大したもんだ。魔石職人でもここまでの純度は出せん。よし、約束通りミスリルを精錬してやろう。明日の朝には仕上がる。

レオンたちに報告すると、トマスは興奮で手が震えていた。魔石の再利用は学術的に革新的な発見だという。

ギルドへの報告書に追記したいと懇願されたが、それはヨシオが決めることだった。


◆完成したポーション
翌朝、ミスリル製錬銀を受け取ると冒険者達とワイバーンに乗っ取て帰路に着いた。

朝日がノルディスの鉱山を照らす中、ドルグが約束通りミスリル銀五キロを仕上げてきた。

銀白色に輝くその金属は、見た目以上の重量感があった。

ワイバーンに馬車と荷物を括りつける作業は半日がかりだったが、従属したワイバーンは大人しく指示に従った。

翼に網とロープを応用した簡易的な吊り具を取り付け、鞍代わりの板を背に載せる。

レオンたちは半信半疑だったものの、実際にワイバーンが安定して浮かび上がると歓声を上げた。


りーナは空から地上を見下ろして、

こんな景色初めて……。

ワイバーンは力強く翼を打ち、山脈を越えて王都へ向かった。眼下に広がる大森林、蛇行する大河、点在する村々。

徒歩五日の道程がわずか半日で消化されていく。風が冷たかったが快適だった。

夕刻前に王都の南門が見えた。着地点を探して城壁外の草原に降りると、門番たちが武器を構えて駆けつけてきたが、ワイバーンが従属状態にあることを確認して呆気に取られていた。


地面に足をつけて、

もう二度とこの依頼の護衛は受けたくねえな。心臓がもたん。

ギルドに報告し報酬を精算した後、ヨシオはガルドス商会へミスリル銀を届けた。残りは六日。

設計図と魔石が揃い、あとは調整装置の組み立てを残すのみだった。

魔石調整装置が完成した。完成まで試行錯誤したが思ったよりも良い装置ができた。装置を使って、工員に美容ポーションの魔法付与作業を指導した。

装置を使用することで誰でも高品質の美容ポーションを容易に出来る様になった。

ミスリル銀が魔力を通すたびに銀色に脈動し、魔石の魔力抽出と変換を滑らかに処理した。試作品の段階で何度か暴走しかけたが、その都度調整を重ねて安定した動作を実現した。

最終的な装置は高さ一メートルほどの円筒形で、上部に魔石を装填するスロット、側面に出力を調整するダイヤルが付いている。

指導を受けた工員たちは最初こそ戸惑っていたが、装置が魔力の流れを自動的に制御してくれるため、誰がやっても同じ品質のポーションが出来上がった。

完成したポーションを光にかざして、

素晴らしい。均一な魔力濃度、ムラがない。これなら高級品として売り出せる。

美容ポーションは予定通りの価格で販売が始まり、初日から注文が殺到した。

貴族の婦人や裕福な商家の娘たちがこぞって買い求め、ガルドスの店頭には入荷待ちの予約リストが壁一面に貼り出された。

ガルドスは約束通り売上の二割をヨシオに支払い続けた。さらにヨシオを商会の顧問として正式に迎えたいと申し出てきた。

九日目の夕方、借家に帰ると机の上にギルドからの封書が置かれていた。

中には短い文面と、ギルド長の署名入りの推薦状が同封されていた。

第8章
◆ランク昇格試験
◆試験当日
◆航空運搬
◆もみ殻から紙を作る装置
◆王宮謁見
◆製紙ギルド

 

次回に続く