「じゃあ私、みっくんって呼んでいい?」
シズカが言った。
その時頬が赤くなっていたのは、自分で「みっくん」とか言ってて恥ずかしくなったせいか、はたまた図書委員の粋な計らいで3月だというのに未だ暖房を効かせている無駄に暖かい室内環境のせいかは知らないけど。
中高一貫教育の女子校で、彼氏作りは絶望的だなぁとちょっとやさぐれていた中等部3年生の終わりの頃、私はシズカと出会った。
図書室で課題の調べ物をダラダラとしていたら、「ミイやん!」と声をかけられた。同じ中等部にいる幼なじみのキョウだった。キョウは何だか影の薄いヤツを後ろに携えている。キョウのクラスメイトで、仲よしの友達だという。そうやって紹介されたのがアイツだった。大人しそうなヤツで明るくてノリのいいキョウとは正反対の、「独りが好きなんです」オーラが出てたっけ。
キョウたちもまた、何か本を借りるようだった。キョウはさっさと閲覧席にいた私の前に座り、シズカもその隣に座ろうとしていた。
「じゃ、私ちょっと探してくる」
そう言うキョウにシズカはこくりと頷き、自分はのろのろと鞄から本を出していた。
(…キョウ!連れていきなよコイツも!いきなり2人きりにしないでよ…)
シズカの持つ妙な「独り好き」オーラを斜め前の席で感じながら、私はノートに調べた内容をまとめる作業を心なしかスピードアップさせていた。早く立ち去りたかったのかも。
すると、シズカが急にこちらを向いて話しかけてきた。
「キョンちゃん(キョウのあだ名)と幼なじみなんだよね?なんて呼ばれていたの?」
…うゎ喋った。
「え?大体ミイやんとかミー太とかかな。今もだけど。」
ちょっと焦って会話を繋げる私。
ショートカットに長身の私は、どうもボーイッシュなイメージを抱かれがちだった。「ちゃん」付けで呼ばれないのにも慣れている。別に中身はほぼそのイメージ通りだからいいんだけど。
「そうなんだ…」
返事はまぬけているが、視線は私から外れない。私のどこを見てるんだか、一点見つめて、危ないヤツ…
そして突然、アイツはこう切り出してきた。
「…じゃあ私、みっくんって呼んでいい?」
「ほぇ?」
何だコイツ…
赤ら顔とぽかん顔で世にも奇妙な空気出してた私たち。キョウが戻ってくるまでの数分間の出来事だった。
これがシズカとの1stコンタクト。