マージャリー・クランドン その七:幽霊の指紋(中編) | Siyohです

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音楽とスピリチュアルに生きる、冨山詩曜という人間のブログです

さて、ソログッドのプロシーディングの前に、ウィリアム・H・バトンが関わった、「指紋が採取されたことが明らかにならない限り開かない鍵がついている」箱の実験について、その詳細がわかったのでそれを紹介します。これはASPRジャーナルの1932年3月号に載っています。

 

まず「指紋が採取されたことが明らかにならない限り開かない」というのは、ウォルターがそう宣言しない限り開けない予定の、という意味で書いていたようです。「鍵」というのは私が意訳してつけた言葉です。このボックスはソログッドが別の実験のために作ったものでした。周囲の音を遮断して、中にマイクロフォンを置く設定なので、何重かの防音箱になっています。

これが開いた状態。

この箱を作った目的である実験の話はまた後にして、今はこの箱を用いた1932年2月16日の実験について述べます。その日は鍵のかかるこの箱にものをいくつか入れて、それをウォルターに当ててもらおうという実験でした。ところがこの実験の日、ボストンのミナの家で実験に同席する予定だったバトンに、ケンブリッジに済むリゼルマン夫人が、ウォルターからの通信を電話で伝えてきました。彼女は鏡文字で自動筆記するタイプの霊媒で、しばしばウォルターからという言葉を伝えてきています。その日の自動筆記はこんな感じでした。

コントラストをあげて反転させてみます。

筆記体なので読みにくいのですが、「off the box and let you put one of your own on it just for experiment tonight. This is confidential, tell him」と書いてあるようです。実はこの前にももう1ページあって、それらを合わせるとこんなことを言っています。

 

「今夜の実験のために、ソログッドに自分の箱の鍵を外して、君の鍵をかけさせてもらえないか頼んでほしい。これは極秘事項だ。」

 

この条件はソログッドにかかる疑いを減らすように、ウォルターが考えたのでしょう。また、ボストンから非常に遠いケンブリッジに住む霊媒を絡ませることで、実験の信憑性を上げていると言えます。バトンはライムストリートのミナの自宅に向かう前に、途中で錠を買いました。バトンが事情を話すとソログッドは鍵を開け、中にはいっていたものを、木彫りのアヒルを除いて全て取り出しました。バトンはそこに、中国製の取っ手付きティーカップ。2つの刻み目を入れたカー(デンタルワックス)、日めくりカレンダーの1ページ、粘土を入れ、自分の持ってきた錠をつけて鍵をかけました。カーは、もしかしたらウォルターが折ってくれるかもしれないと思って入れたもの、粘土は指紋を採集するためです。日めくりカレンダーは、自分でもどの日付かわからないようにして入れました。

バトンは自宅で日めくりカレンダーを自分の背後に持ち、ランダムに10枚を切り取って、それぞれの裏に1から10の番号を振って封筒に入れました。交霊会の部屋で一人になり、出入り口に鍵をかけた彼は、封筒のカレンダーをランダムに一枚選び、それを見ないようにして箱に入れました。粘土はゆで卵を半分に切ったような形に整形して、表面をナイフの刃で滑らかにし、粘土のどこにも指紋がないことを確認して箱に入れました。この準備のあと、彼は鍵をポケットに入れ、夜9時に交霊会が始まるのを待ちました。日めくりカレンダーがどの日付のものかは、バトンも含めて、誰も知らないはずです。

 

この状況で交霊会を行ったところ、ウォルターは中に入っているものを、カレンダーの数字も含めて当てて、さらに指紋を残してくれました。ただ、カーを折ってもらうのは「ここまでやったのにまだ要求? 一晩にしてはもう十分やったよ」という言葉で断られました。次の写真がその時の指紋です。

 

こんな感じで、かなり厳密な状況で超常的な指紋が得られているのですが、ダドリーはそれが生きている歯科医のものと同じだから、トリックによって作成されたはずだと言うのです。

 

これに反論するソログッドのプロシーディングはまず、如何にありえない状況で指紋が得られたかを、実例を出して説明しています。次に、彼は歯科医の全部の指紋を入手し、ウォルターにもそれを作ってくれるように頼みました。その結果、ウォルターの両手の型が得れたのですが、それは手のひらが浮き上がって見える、元の手そのものの型となりました。つまり、ワックスに手を押し当てた形ではなく、事前に型を作って、それをワックスに押し当てた形の型だったのです。ソログッドがそれらの親指の指紋を調べたところ、それはライムストリートの、ミナの自宅で昔採取されたものとほとんど同じでした。そして左手の指紋は、歯科医の指紋の特徴を全く持っていないと彼は判断しています。一方、右親指の指紋はかなり似ているが同一ではないことを、ソログッドはマイクロスコープによる拡大写真を示しながら主張しています。


左がウォルター、右が歯科医の指紋で、指紋の流れが三角に交わる「デルタ」もしくは「三角州」と呼ばれる部分の拡大写真です。見ての通り似通っているとは言えません。ちなみにデルタというのは誰の指紋にもあるという特徴ではありません。

 

ソログッドは次に、指紋とは関係ないのですが、ウォルターの声がいかに超常的かというのを示す、自身の実験を紹介しています。これが先に述べた箱を使った実験です。ソログッドは箱の中に高感度のマイクロフォンを入れ、そこから二本の導線を階下の交霊室まで伸ばし、それをスピーカーに接続しました。箱のある部屋にはソログッドとミナしかいなく、彼らが声を出してもマイクロフォンは反応しません。彼はこの状況で、ウォルターにマイクロフォンに向かって話してもらいました。すると、ソログッドに聞こえなかったその声は、別の部屋にあるスピーカーから現れたのです。だから彼は、ウォルターは超常的な存在だし、指紋はトリックではありえないと言いたいのです。しかしここから話が複雑になっていきます。
 

その内容はまた次回書くことにします。