異世界こぼれ話 その十九 「フレデリック・マイヤース前編:亡くなって間もない頃」 | Siyohです

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音楽とスピリチュアルに生きる、冨山詩曜という人間のブログです

1901年1月17日、マイヤースが亡くなると、早速各地の霊媒たちが、マイヤースからと思われる通信を受け始めました。彼がよく研究し、信頼していた霊媒にトンプソン夫人(Rosina Thompson)がいます。

彼女には、幼くして亡くなった娘ネリーが支配霊としてついていました。マイヤースが亡くなって約一ヶ月たった2月19日、早速彼らしい通信がトンプソン夫人に現れます。最初はネリーの声で始まりました。 

 

「みなさんはマイヤースさんが亡くなられたとおっしゃるけれど、私には信じられなかったの。 お姿を見たことは見たけど、まぼろしみたいで、誕生日に遊びに来られたとしか思われなかったわ」 

 

ネリーは霊界で見かけるマイヤースの姿があまりにはっきりしないので、睡眠中に生きている人間が訪れただけだと思っていたようです。実際、良質の睡眠を取れているものは、その間に霊界を訪れていることが多いのです。 

 

「でも今ははっきり分かるわ。ほんとに亡くなられたのね。間違いないわ! (興奮気味)お話ができるかどうか試してみるわ。もう少し意識がはっきりされたら来られると思います。九時前頃ね。だから八時三五分頃には準備していてください。それまでには意識がはっきりされると思うの。だからあれこれお教えするよりも、しばらくご自分が考えて、ご自分で語られる方がいいと思います」 

 

約束の時間に、SPRのオリバー・ロッジはトンプソン夫人との交霊会を始めました。するとマイヤースがなにやら伝えようとしているようですがうまくいきません。それでも少しして話し始めましたが、見るからに苦しそうです。

 

「ロッジ、思ったほど楽じゃないよ。ガーニーは上々の出来だと言ってくれるが、息切れがするんだ。ああロッジ。まるで霧のかかった絵画でも見ているようだ。書き写しておかなきゃという気ばかりして、実際に自分が話しているという感じがしないんだ。記録する方がよほど楽だ。いろんな霊媒を調査研究したけど、調査した僕の方が遥かにダメだった。その人たちに伝えて欲しい。ああ、いかん。この人(トンプソン夫人のこと)はいつもいいところで止めてしまう。ローザ・トンプソンののどを借りて自分が話しているのが聞こえる。それにしても、口を動かしているのは自分でないのに、自分の話し声が聞こえるとは奇妙だ」

 

亡くなったマイヤースからと思われる初めての公式通信は、こんな感じで始まりました。この後ロッジは彼に、生前に準備しておいた実験をしようと提案しますが、なかなかうまくいきません。マイヤースは死ぬ前に、ロッジに一通の封書を渡し、自分が死んだら霊媒を通じてその内容を伝えるのでそれまで開封しないように、と頼んでありました。当然のことながらロッジはその封書に会話を持っていきたかったのですが…… 

 

「協会に関連したことで何か伝えたいことがありますか」 

 

ロッジは直接封書のことに触れるのは避けて、慎重にこう言いました。ところがマイヤース霊は頭がぼやけているようで「何の協会かな」と聞いてきたのです! 

 

「SPRをお忘れですか」とロッジ。

 

「忘れたなんてとんでもない。今はど忘れしていただけだ。思い出すのに少し時間をくれよ。少しずつ話していくから。地上で私がやったときも、霊には好きなように話させた方が結果が良かったよ。二人(先に亡くなったガーニーとシジウィック)はSPRが私の一番いい仕事だったって言っている。これからも二人が何かと援助してくれるだろう。こちらに来て自分が死んだことを自覚するまでは頭の中が混乱してね。てっきり道に迷ったくらいに思って必死で道を探したんだが、途中で死んだはずの人に出会っても、まぼろしくらいにしか考えなかった。四月にはまた出ることになってるよ」 

 

「ではそのときに例の封書を読んでいただけますか」 

 

「例の封書? 何のことかな」 

 

ここでネリーが割って入り、マイヤースは今はまだダメだけれど、いずれもっと地上生活のことを思い出すだろうと結びました。

 

なんか全くダメダメですね。SPRの名前までど忘れしているようでは、軽い健忘症状態と言っても良いでしょう。マイヤースはずっとあとの通信で、記憶と魂は別のもので、その記憶と糸のようなもので結ばれているから、それが自分の記憶だと認識すると説明しています。また、生前の記憶との結びつきと、死後のそれとの結びつきは違うとも述べています。このときのマイヤースは、死後の、新方式の記憶との接続がまだうまくできない状態だったのだと思われます。

 

この封書を開けるのは、死後三年経ってからになります。ニューナム大学で古典を教えるヴェロール夫人(Margaret Verrall)は、マイヤースのメッセージを受けることを期待しながら自動筆記を始めてみました。

 

最初はとりとめのない断片的なメッセージしか受けられませんでしたが、だんだんとメッセージはまともなものになり、そして1904年7月の13日、18日、11月24日の三回に分けて送られてきたメッセージをまとめると、

 

「マイヤースは封印した封筒をロッジに渡した……。その中には、深淵に橋をかける愛についての『饗宴』の一節が書かれている(Myers’s sealed envelope left with Lodge … It has in it the words from the Symposium about love bridging the chasm)」

 

となったのです!

 

ところが、、、

 

封書を開けたロッジが見た文章はこれでした。

 

「地球上のいかなる場所をも訪れることができるならば、私はカンバーランド州ホルステッズの地所にある谷を選ぶだろう」

 

これは明らかに「饗宴」の一節ではないし、「深淵に橋をかける愛」というのにも関係ありません。しかし後の調査によって、これらの文章はかなりリンクしていることが判明しました。

 

マイヤースが最愛の女性アニー・マーシャルの思い出として書いた「Fragments of Inner Life(私生活の断片)」という小冊子があります。その出版バージョンでは、マイヤースの奥さんによってあちこちが削除されているためわからないのですが、オリジナルバージョンをマイヤースから贈られた人が何人かいました。それを読むと、カンバーランド州ホルステッズの地所にある谷というのは、アニーと歩き、心が通じ合った、深い思い出の場所だったのです。そして「chasm」という単語は本来、大きな裂け目を表します。地形で言えば、谷はchasmです。そして、いとこの奥さんであるアニーとの間にある、どうしようもない裂け目もchasmなのです。

 

また、プラトンの饗宴は、マイヤースにとって真実の愛の象徴です。つまり、マイヤースが送ってきた言葉は、封筒の文章にとても深くリンクしていると言えるのです。

 

とは言ってみたものの、ぶっちゃけ、普通に見ればこの実験は失敗ですよね。ホルステッズにある谷が何を意味するのか、「饗宴」がマイヤースにとって何を意味するのか、それは彼をよく知り、「Fragments of Inner Life」を読んだことのある人でなければわかりません。マイヤース自身も失敗したと考えていて、あるときホランド夫人の仮名で知られるアリス・フレミングを通してこう述べています。 

「まもなく死後三年になることは分かっているのですが、まだ発達段階の初期の状態にあるような感じがします。私の場合は死後の意識のもうろうとした状態が異常に長引きました。最初の一年間の大部分は全くと言ってよいほど記憶がありません。いわばトランス状態にあったようなものです。約束が果たせなかったのもそんなところに原因があったとみてください。ご想像になるよりはるかに難しいんです」

 

また、霊媒を用いた通信の難しさを、マイヤースはこんな風に例えています。 

 

「通信を送るときの難しさをたとえ話で言うならば、見通しが悪く声も通らない霜のついたガラス窓の外側に立ち、いやいや仕事をしている血の巡りの悪い秘書に指示を与えているようなもので、ひどい無力感に悩まされます」

 

このような困難に遭いながらも、マイヤースは次にブックテストという方法をし始めました。ある日彼は、現存のSPR会員、ダブリン王立大学物理学教授のウィリアム・バレットにレナード夫人(Gladys Osborne Leonard)を通じてこう伝えてきました。 

「右手の方に数冊の本がある、デヴォンシャー州にある君の家の二階の部屋だ。その二番目の棚、下から約四フィート、左から数えて四番目の本の七八ページ最初にある言葉を、私が死んでから君がやっている研究に関する答えとして受け取ってくれ」 

 

霊媒のレナード夫人は、バレットの家を訪れたことがないはずです。彼が家に戻り本棚の指定された位置を見ると、そこには現代でも読み継がれているジョージ・エリオットの『ミドルマーチ』 がありました。その七八ページの最初の文章は

 

「Ay, ay, I remember — you'll see I've remembered 'em all.(そうそう、覚えている、私が全部覚えているのを分かってもらえるだろう)」 

 

とありました。実は、バレットはマイヤースが亡くなってから、人の記憶は死んだあとも残るのかどうかを調べていたのです。つまりこれは、マイヤースが死んだあともすべて覚えていることを示す、バレットだけに通じる特別の言葉でした。

 

その後、明晰さを取り戻したマイヤースは、ガーニーとシジウィックと共に、これまで出てきた霊媒たちとパイパー夫人、さらに他の霊媒も巻き込んで、交差通信という手法を始めます。その詳細はまた次回で。