この物語は
フィクションであり、登場人物等他
実在するものと一切関係ありません。
身勝手な選択【50】
孝太郎の言葉に気分を害した倫子も、直ぐに機嫌を直し話を続けた。
『太地駅に近づくと彼女は立ち上がって、わたしの横を通り抜け降車
口に向ったわ。わたしは迷った、一緒に降りるべきかと。でも、彼女が
観光に行くのだったら、駅前に客待ちタクシーは無いし国道を流してい
るタクシーも無いだろうから。路線バスに乗るだろうと読んだわ』
「倫子さんは、どうしてそんなに太地のことに詳しいのです?」
『わたし?大学時代に何度か行ったことがあるのよ、太地には』
「そうなんですか、くじら館にね」
『いいえ。勿論そこにも行ったけど。落合博満よ』
「おちあいひろみつ?」
『そう、今プロ野球中日の監督。あなた知らないの?大学時代の友人
に秋田出身の人がいてね』
『誘われて何度か行ったの、太地の高台に記念館があるのよ。あなたの彼
女が殺された近くにね』
いちいち、あなたの彼女彼女ってうるさいな、結婚してからもずっと言わ
れ続くのだろうか、憂鬱な思いで孝太郎は倫子を見た。
『くじら館の近くに、白鯨(はくげい)という国民宿舎があってね。そこへ泊って
行ったわ』
泊って?男とそこに泊ったというのか?
『そうそうあそこは、はくげいっていうのよ。一緒に行った相手は、しろくじらって
いうものだから可笑しくって。まあー、そう読めるんだけどね。あっ、勘違いしない
で一緒に行ったのは女の子なんだから』
倫子は肩をすくめて笑ったあと、話を続けた。
『どこまで、話したっけ。そうそう、わたしは乗車券通りに勝浦まで乗り、降りると
直ぐに駅横でレンタカーを借り、太地駅まで戻ったわ。駅に着くと彼女を乗せたバ
スが駅をでるところだったの。わたしは駅前で車をUターンさせ、後を追ったわ。』
孝太郎は身を乗り出し話に耳を傾けた。
『バスがくじら館の前に停まったけど、彼女は降りなかった。ここで降りるんじゃ
ないのだと思いながら、動き出したバスの後に続いたわ。でも、そのとき後ろから
わたしの車を追い抜き前に割り込む車があったの。つまり、わたしの車とバスの間
に入ってきたのよ。追い抜かれるとき、その車を運転している人の顔を見て驚いた』
「どうしてです?」
『わたしの、知っている人だったから』
