諸県の起源と住吉神 | 古代文化研究所

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古代文化には、多くの疑問や問題が存在する。そういうものを日向国から検証していきたい。

○ブログ『日向國式内社:江田神社』から『江田神社考』、『阿波岐原の住吉神社』、『住吉神考』、『諸県君:古代日向の王』と、住吉神を追い続けている。住吉神がどういう神であるか。誰も教えてくれない。第一、住吉神を斎き祀る住吉大社や住吉神社が住吉神について、ほとんど何も知らないのだから。

○当古代文化研究所は、日向国にあって、日向国のことを研究している。その日向国の中心は、もともと諸県地方にあった。その諸県がどういうところであるかも、実ははっきりしていないのである。前回、案内したブログ『諸県地域』、『諸県とは何か』、『諸県君の信仰』、『諸県のシンボル』、『諸県君と日向国造』、『諸県君と日向国』を読んでいただくと、おおよそ、諸県の概要が見えて来るのではないか。

○こういう認識は、肝心の地元でも、まるで認識されていないのである。諸県に住んでいながら、諸県が何を意味するかも知らない。何とも非文化的な生活をしていることになる。だいたい、諸県がどこから始まったかさえ、明らかにされていない。そんなおかしな話はない。

○旧日向国が八世紀に分国し、薩摩国・大隅国・日向国に分かれた。その際、日向国は臼杵郡、児湯郡、宮崎郡、那珂郡、諸県郡の五郡が存在した。日向国の国府は児湯郡に置かれたが、八世紀当時、日向国の中心であったのは、間違いなく諸県郡であった。

○それは薩摩国・大隅国・日向国の全てに共通する。大和朝廷の国府は、薩摩国・大隅国・日向国のいずれの国でも僻地に置かれている。後世の感覚で建国当時の様子を計ってはならない。

○諸県郡の大きさについても、十分考慮する必要がある。現在の宮崎県の諸県は、北諸県郡・西諸県郡・東諸県郡にほぼ相当し、極めて広い。しかし、本来の諸県はその倍あったことになる。それは南諸県郡であって、明治以降、南諸県郡は何故か、鹿児島県に編入されている。

○つまり、諸県の歴史を辿ると、諸県は最初に北諸県郡と南諸県郡とに分離した。その北諸県郡からさらに東諸県郡と西諸県郡とが分離している。北諸県郡・南諸県郡・東諸県郡・西諸県郡全体が諸県地方であることが判る。その大きさは、普通に一つの県くらいの広さである。

○したがって、諸県を考える場合、嘗ての北諸県郡と南諸県郡で考えなくてはならない。その北諸県郡と南諸県郡を区分するところが現在の曽於市末吉町になる。ここには諸県地名の名残りとなる地名が今でも残っている。それが末吉町二之方である。

○判るように、諸県地名は二之方の謂いである。二之方を『もろかた』と呼んだに過ぎない。それに諸県と当て字したのである。何が『もろかた』かと言うと、それは水分(みくまり)信仰に拠るものであることが判る。その山の名を住吉山と言う。標高はわずかに267mしかない。

○それでも、住吉山は立派な山である。何しろ、ここが全国約2300社余とされる住吉神社の、住吉神の故郷なのだから。そういうことを何も知らないで、住吉神は全国で斎き祀られている。何とも不幸と言うか、幸せと言うか、言葉も無い。

○諸県地名を追い続けると、そういうことが判る。誰もそういうことを言わないけれども。諸県氏は仁徳天皇の御代に、妃髪長媛を誕生させだくらい栄えた一族である。その起源がここにある。それが住吉神であることが判る。

○信仰とは、それを信奉する人々が居て、初めて成立する。そういう信仰を信奉する人々の存在を見逃してはなるまい。住吉神の場合、それは諸県氏であったことが判る。それが日本中に拡散したのである。

○住吉神とは何か。そう問われたら、多くの人は、それは底筒男命・中筒男命・表筒男命の三神だと答えるに違いない。では、実際、底筒男命・中筒男命・表筒男命とは何かと問われたら、答えることができない。それは住吉神が何であるかを認識できていない証拠である。

○もともと、住吉神は水神である以上、住吉神は、上水流男神・中水流男神・下水流男神であるとするしかない。何故なら、水神と言うのは、そういうふうに祀られるものだからである。それは日本でも中国でも同じである。

○もともとは最上流で斎き祀られていたのが上水流男神であって、中流部で斎き祀られていたのが中水流男神、河口付近で斎き祀られていたのが下水流男神だったことになる。それを総称して住吉神と言う。だから、住吉神は上水流男神・中水流男神・下水流男神であることが判る。

○それが何時の時代にか、意味を失って、底筒男命・中筒男命・表筒男命などと言うものに変容してしまった。そういうことは水神信仰を辿ると見えて来る。具体例が無いと信用していただけないので、源流の水神様として、高隅山御岳の水神、中流域の水神様として、武漢の水神、河口の水神様として、住吉大社を案内しておきたい。