天然居士米山保三郎墓銘:其の四 | 古代文化研究所

古代文化研究所

古代文化には、多くの疑問や問題が存在する。そういうものを日向国から検証していきたい。

○東京の本駒込の養源寺と言う寺に、安井息軒先生のお墓がある。これまで4、5回お参りに出掛けている。安井息軒と言えば、森鷗外の「安井夫人」で知られる。もっとも、「安井夫人」の主人公はお佐代さんである。お佐代さんの夫が安井息軒になる。

○その安井息軒先生のお墓の前にあるのが、米山保三郎墓銘になる。安井息軒先生の碑銘は大きくて堂々としたものである。その字数も1519字もある。当古代文化研究所では、安井息軒先生碑銘もすでに読んでいる。

  ・テーマ「文学散歩」:『安井息軒先生碑銘:概説』

  https://ameblo.jp/sisiza1949/entry-12519980539.html?frm=theme

  ・テーマ「文学散歩」:『安井息軒先生碑銘を読む:其の一』

  https://ameblo.jp/sisiza1949/entry-12519982775.html?frm=theme

  ・テーマ「文学散歩」:『安井息軒先生碑銘を読む:其の二

  https://ameblo.jp/sisiza1949/entry-12519982782.html?frm=theme

  ・テーマ「文学散歩」:『安井息軒先生碑銘を読む:其の三』

  https://ameblo.jp/sisiza1949/entry-12519982790.html?frm=theme

○その安井息軒先生のお墓で、偶々見付けたのが米山保三郎墓銘であった。養源寺の案内標識には、

  小説「坊ちゃん」に登場するきよの墓(米山家)

とある。つまり、漱石は小説「吾輩は猫である」(1905年)にも「坊ちゃん」(1906年)にも米山保三郎墓銘を登場させていることになる。

○もちろん、当古代文化研究所では、米山保三郎墓銘も読んでいる。

  ・テーマ「文学散歩」:『米山保三郎墓銘』

  https://ameblo.jp/sisiza1949/entry-12519982813.html?frm=theme

米山保三郎墓銘の字数は525字となっている。墓碑銘としては、標準的な字数ではないか。ちなみに、当古代文化研究所が読んだ墓碑銘で考えると、

  ・文之和尚碑銘:字数741字      ・桂菴玄樹禪師墓碑銘:字数852字

  ・伊地知季安墓碑銘:字数478字      ・廣瀬淡窓墓碑銘:字数280字

などとなっている。

小説「吾輩は猫である」では、天然居士の碑銘を記したのは珍野苦沙弥となっていて、その碑銘は、

  天然居士は空間を研究し、論語を読み、焼芋を食い、鼻汁を垂らす人である

とあるけれども、実際、養源寺の米山保三郎墓銘をものしたのは、文科大學教授、文學博士重野安繹であって、実に堂々とした碑文となっている。その冒頭だけでも掲載しておく。

  文學士米山保三郎及其友人持状来請銘墓予徃為文科大學教授
  保三郎適在學誼不可辤乃按状序之曰保三郎加賀金澤人

○判るように、漱石の小説「吾輩は猫である」は、完全な虚構である。米山保三郎の友人たちの依頼によって、文學博士重野安繹が米山保三郎墓銘をものしたことになる。米山保三郎の友人たちがどういういきさつで米山保三郎墓銘を建てることになったかは、不明である。

○間違いないことは、米山保三郎と言う男が、その友人たちに、強烈な印象を残して去ったことである。そのことを漱石が各所に記録してくれていることで、私たちは、様々な想像を廻らす。米山保三郎も罪な男だが、漱石もまた迷惑千万のお節介、極まりない。