○前回、坂靖著「ヤマト王権の古代学」(新泉社)の書評について、書いた。もうこういう本について、あれこれ書くのは止めようと考えていた。しかし、前回の書評の中に、
ここ30年で弥生時代・古墳時代の考古学研究は大きく進展した。その成果を無視した作家・自称
歴史研究家の「新説」は学問的に無価値である。本書が広く読まれることで、珍説が一掃されること
を望む。
とあるのを読んで、愕然とさせられた。こういうところに考古学者先生の本心が垣間見える。考古学者先生には顕示欲のみが存在していて、自らの立ち位置を省みる余裕など、無いのだろうか。
○そういう書評が2020年3月25日にも、朝日新聞30面に出ていた。それが今回の話である。あまりにつまらない話なので、書かないでいた。そこに出たのが昨日、2020年4月11日付、朝日新聞20面に、坂靖著「ヤマト王権の古代学」(新泉社)の書評である。驚き、呆れた。
○今回の書評を書いたのは、朝日新聞の今井邦彦とある。記名記事だから、そんないい加減な記事ではない。記事は次のように始める。
弥生時代を通して先進的な社会を築いてきた北部九州は、同時代末の「国家」の形成では急速に
近畿に後れを取りつつあった。だからこそ、邪馬台国があったのは北部九州である……。こんな「逆
説的」邪馬台国九州説を、福岡県小郡市埋蔵文化財調査センターの片岡宏二所長が、著書「続・邪
馬台国論争の新視点 倭人伝が語る九州説」(雄山閣)で発表した。
片岡さんは邪馬台国など倭(日本)の国々が登場する歴史書「魏志倭人伝」を読み解き、(以下略)
○新聞は真実を伝える。そういうふうに多くの人々が勘違いしている。しかし、新聞が情報操作をしていることに、多くの人々は気付いていない。この今井邦彦の書評を読むと、痛切に、そのことを感じた。
○第一、
邪馬台国など倭(日本)の国々が登場する歴史書「魏志倭人伝」
なるものが世の中には存在しない。存在するのは、「三国志」であって、「魏志倭人伝」と日本でのみ通称されるのは、「三国志」(全65巻)の、「魏書」(全30巻)の、巻三十「烏丸鮮卑東夷伝」の「倭人」の条である。字数にして僅か1986字。とても『歴史書』と呼べる代物ではない。「魏志倭人伝」を歴史書とは呼ばない。
○ところが「魏志倭人伝」1986字は、極めて難解なのである。到底、考古学者先生が片手間に読める代物ではない。何しろ、かの本居宣長でも読めなかったほどなのだから。「魏志倭人伝」が書かれて1300年。それが読み解かれたのは、つい最近のことに過ぎない。
○「魏志倭人伝」を読み解いただけでも、凄いことなのである。その「魏志倭人伝」の主題は何か。それくらいは案内されているはずだろう。邪馬台国が何処に存在するかより、遥かに大問題なのが「魏志倭人伝」を読み解くことなのである。
○面白いことに、片岡宏二も今井邦彦も、そういうことに一切言及しない。そんなおかしな話は無い。「魏志倭人伝」を読み解けていない証拠である。ちなみに、「魏志倭人伝」の主題は倭国三十国の案内にある。それは次のように案内される。
【渡海三国】
・狗邪韓国・対馬国・壱岐国
【北九州四国】
・末廬国・伊都国・奴国・不弥国
【中九州二十国】
・斯馬国・巳百支国・伊邪国・都支国・邇奴国・好古都国・不呼国
・姐奴国・対蘇国・蘇奴国・呼邑国・華奴蘇奴国・鬼国・為吾国・
・鬼奴国・邪馬国・躬臣国・巴利国・支惟国・烏奴国・(奴国)
【南九州三国】
・投馬国・邪馬台国・狗奴国
○邪馬台国が何処に存在するか。そんなことは大したことではない。そんなことは「魏志倭人伝」を読み解いただけで、すぐに氷解することである。「魏志倭人伝」を読むとは、そういうことである。