陌上桑(魏文帝曹丕詩) | 古代文化研究所

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○『陌上桑 (汉乐府诗)』から『陌上桑(曹操詩作)』と、『陌上桑』詩の案内を続けているが、今回は、『陌上桑(魏文帝曹丕詩)』を見てみたい。

  【原文】
      陌上桑(魏文帝曹丕詩)
    棄故鄉,離室宅,遠從軍旅萬里客。
    披荊棘,求阡陌,側足獨窘步,路局笮。
    虎豹嗥動,雞驚禽失,群鳴相索。
    登南山,奈何蹈盤石,樹木叢生郁差錯。
    寢蒿草,蔭松柏,涕泣雨面沾枕席。
    伴旅單,稍稍日零落,惆悵竊自憐,相痛惜。

  【書き下し文】
      陌上の桑(魏文帝曹丕詩)
    故鄉を棄て、室宅を離れ、遠く從軍の旅にして、萬里の客たり。
    荊棘を披き、阡陌を求め、足を側て獨り歩を窘しめば、路は局笮す。
    虎豹の嗥動し、雞は驚き禽は失し、群鳴は相索す。
    南山に登れば、盤石を蹈むを奈何せん、樹木は叢生し、郁んに差錯す。
    蒿草に寢し、松柏に蔭すれば、涕泣の雨面して枕席を沾す。
    旅單を伴へば,稍稍として日の零落し、惆悵して竊かに自ら憐れみ、相痛惜す。

  【我が儘勝手な私訳】
    故郷から遠く離れ、我が家を捨てて、従軍の旅に出て、異国の旅人となっている。
    棘や茨の中を突き進み、道を求めて、一人、彷徨い歩けば、道は次第に狭くなる。
    虎や豹は吠え騒ぎ、鶏は鳴き喚き捕獲した鳥は逃げ、多くの鳴き声が錯綜する。
    南山に登るには、大きな岩を乗り越えるしかないし、木々が繁茂し、行く手を阻む。
    草叢に寝て、松樹柏樹の下に憩えば、涙が顔面に流れ、枕や寝具を濡らす。
    従軍の旅を続けていると、何も無い大砂漠の中、少しずつ太陽が沈む行く中、
          密かに自らを嘆き悲しみ、心を痛め、哀惜する自分が居る。

○前回紹介した曹操の『陌上桑』詩と、上記の曹丕『陌上桑』詩とを見比べると、両者の詩作の違いが判って面白い。曹操『陌上桑』詩と曹丕『陌上桑』詩とでは、何から何まで、全てが違う。曹操が全てを無視して自分の世界を作り上げているのに対し、曹丕のそれは、完全な個人主義の表れに過ぎない。魏武帝曹操と魏文帝曹丕の作品が、これ程違うのには、何とも驚かされる。

○それでいて、両者が優れた文人であることは、間違いない。ともによく勉強し、詩作を存分に楽しんでいる。そういう意欲の部分では、妙に一致しているのが不思議である。