望雲亭 | 古代文化研究所:第2室

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ブログ「古代文化研究所」で、書き切れなかったものを書き継いでいます。

◯前回、大沢池畔を彩るものとして、『津崎村岡碑』を案内した。そのすぐ近くに存在するのが『望雲亭』である。なかなか洒落た茶室と言った観がある。もっとも、ここは大覚寺境内になるから、坊の一つと言った風情もある。

◯『望雲亭』前には、次の案内板が設置してあった。

      『望雲亭』の由来

   嵯峨天皇が帰山される弘法大師空海を見送られるに当たり、

  詠まれた漢詩の中より名付けられた。

      与海公飲茶送帰山一首

          嵯峨天皇御製

    道俗相分かれ数年を経たり

    今秋晤語するも亦良縁なり

    香茶酌み罷みて日云に暮れる

    稽首して離れを傷み雲烟を望む

  望雲亭は元洛東岡崎にあった澤村道範の遺室を昭和十年

  『開山恒寂入道親王一千五十年御遠忌』に際し、この地に

  移建し、裏千家十四代淡々斎家元の好みにて、八畳の広

  座敷を増築する。昭和四十八年に火災により焼失するが、

  昭和五十年『大覚寺寺号勅許一千百年記念事業』として

  鵬雲斎家元監修により再建された。秩父宮家より下賜さ

  れた家具が使用されている。

 

◯この案内にあるように、『望雲亭』は茶室らしい。ただ、漢詩は、やはり、原文で示して欲しい。それこそ、風情が無い。

【原文】

      与海公飲茶送帰山一首

          嵯峨天皇御製

    道俗相分経数年

    今秋晤語亦良縁

    香茶酌罷日伝暮

    稽首傷離望雲烟

【書き下し文】

      海公と茶を飲み帰山するを送る一首

          嵯峨天皇御製

    道俗相分かれて数年を経、

    今秋晤語するも亦た良縁なり。

    香茶酌み罷めば日伝に暮る、

    稽首して離れを傷みて雲烟を望む。

【我が儘勝手な私訳】

    あなた空海とわたくし嵯峨天皇とが最後に会ってから、もう数年が経つ、

    ここに、二人が向き合って話が出来たのも、また仏様のお導きではないか。

    美味しいお茶を飲んで親しく話しているうちに、もう日暮れとなってしまった、

    別れの時を惜しんで、わたくしはあなたが去った、遥かに雲と霞を呆然と望む。

 

◯流石、三筆と呼ばれた二人である。実に味のある佳詩である。風格が違う。もうこういう詩は誰も作れない。この詩がここにあることが誠に相応しい。それが大覚寺の大沢池の風情である。