拾得詩:可笑是林泉(拾54) | 古代文化研究所:第2室

古代文化研究所:第2室

ブログ「古代文化研究所」で、書き切れなかったものを書き継いでいます。

○項楚著「寒山詩註」は、寒山詩に続けて、拾得詩57首と佚詩6首を載せている。どうせなら、全部を訳し終えたい。それで、拾得詩の訳となる。今回が第54回で、『可笑是林泉(拾54)』詩になる。

  【原文】

      可笑是林泉(拾54)

    可笑是林泉   數里少人煙   雲從巖嶂起   瀑布水潺潺

    猨啼暢道曲   虎嘯出人間   松風清颯颯   鳥語聲關關

    獨歩繞石澗   孤陟上峯巒   時坐盤陀石   偃仰攀蘿沿

    遥望城隍處   惟聞閙喧喧

  【書き下し文】

    笑ふべし、是れ林泉、

    數里、人煙少なし。

    雲は巖嶂從り起こり、

    瀑布は水の潺潺たり。

    猨は暢道曲に啼き、

    虎は出人間を嘯く。

    松風は颯颯と清く、

    鳥の語る聲は關關たり。

    獨り、石澗を繞り歩き、

    孤り、峯巒の上を陟る。

    時に盤陀石に坐せば、

    仰ぎて蘿に沿ひて攀り偃む。

    遥かに城隍の處を望みて、

    惟だ喧喧たる閙を聞くのみ。

  【我が儘勝手な私訳】

    称賛すべきである、この天台山は、

    天台山の周囲、数里に、人家はほとんど無い。

    天台山では、雲は険しい峰から沸き起こり、

    天台山の滝からは、滔々と清水が流れ落ちている。

    猿は修行僧とともに啼き騒ぎ、

    虎は出世間せよと嘯く。

    松の木に風が蕭蕭と吹き渡り、

    鳥の声は遠くから常に聞こえて来る。

    私は一人、岩間の谷川を廻り歩き、

    私は一人、山々の頂を歩き廻る。

    折に触れて、座禅岩に坐して、

    或時は、蔦葛を頼りに、岩山を攀じ登り、憩う。

    天台山の上から、遥か遠くの町々を眺め望み、

    ただ、それらの町々の喧騒を遠く聞くのみである。

○今回の『可笑是林泉(拾54)』詩は、五言十四行詩と、何とも長い。あまつさえ、この『可笑是林泉(拾54)』詩は、寒山詩『可重是寒山(165)』詩と、ほぼ同じ内容である。そういう意味では、内容的にも、寒山詩である気がしてならない。

○それは前回の『雲林最幽棲(拾53)』詩が素直で実直なのに対して、今回の『可笑是林泉(拾54)』詩は、何とも、回りくどい。そういうところも、この作品が寒山詩だとする所以である。