○項楚著「寒山詩註」は、寒山詩に続けて、拾得詩57首と佚詩6首を載せている。どうせなら、全部を訳し終えたい。それで、拾得詩の訳となる。今回が第53回で、『雲林最幽棲(拾53)』詩になる。
【原文】
雲林最幽棲(拾53)
雲林最幽棲 傍澗枕月谿 松拂盤陁石 甘泉湧淒淒
静坐偏佳麗 虚巖曚霧迷 怡然居憩地 日斜樹影低
【書き下し文】
雲林は最も幽棲にして、
澗の傍らに月の谿に枕す。
松は盤陁石を拂ひ、
甘泉は淒淒と湧く。
静かに坐せば、偏へに佳麗にして、
虚巖に曚く霧の迷ふ。
怡然として、憩ふ地に居れば、
日は斜めに、樹の影は低し。
【我が儘勝手な私訳】
天台山は幽隠するのに最も相応しいところで、
谷川の傍らに、明るい月が水面に浮かんで出る。
松の木の下に座禅石があって、
近くには甘い水が豊かに流れている。
静かに座禅を組んでいると、周りは美しい景色だったのに、
大きな巖に霧が湧き出て、その巖を隠して行く。
この天台山に居て、喜び楽しんで安らいでいると、
太陽は落ちて行き、木々の影がどんどん長くなって行くのを見る。
○今回の『雲林最幽棲(拾53)』詩は、拾得が天台山を詠じた作品となっている。これまで、拾得詩を53作品見て来ているが、それらの中で、私が最も好きな作品である。何とも清涼感のある、清々しい作品である。
○拾得と寒山は天台山で生活していたと言う。だから、雲林は、ここでは当然、天台山だろう。そういう天台山賛歌が、『雲林最幽棲(拾53)』詩のテーマとなっている。まさに、天台山はそういう山である。