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SIS日記

NPO法人SIS(シス)スタッフによるリレー形式の日記です。
「こころが動いたこと」や「共有したいささやかな出来事」など
スタッフの「想い」を定期的に更新していきます。
どうぞお楽しみに!

昨日の足にあらざるか 〔文学のさんぽみち〕

「老いる」とはどういうことだろうか。身体能力が減退して、それまでできていたことができなくなる。すぐに、そういうことが浮かんでくる。しかし、精神はどうだろうか。古今東西、〈老い〉をめぐってさまざまな短歌が詠われてきた。そこで、〈老い〉を扱った歌を紐解きながら考えてみたい。

 
今朝の足は昨日の足にあらざるか立ちて一二歩すなわち転ぶ
                       (土屋文明)

言わずと知れた土屋文明が晩年にこんな歌を詠っている。今朝の足は昨日までの自分の足と違っているのだろうか。いつもと同じように立って歩こうとするのに、すぐに転んでしまった。感情らしきものを表す言葉はないようだが、ある。冒頭の、「今朝の足は昨日の足にあらざるか」のところだ。いまいましい。自分の気持ちはこれまでと同じように、思うように外出しようとするのに、うまく運ばず転んでしまうのだ。今までにない「事件」が起きたのだ、身のうちから。

  いつの間に時のすぎたる手も足も我をはなれし如き日続きて
                       (土屋文明)

土屋文明は、こんな歌も詠っている。手も足も自分を離れたようになってしまった。そんな風に時が過ぎた覚えはないのだ。

  停りたる車の前をゆく足の急がんとするいまいましさや
                       (竹山 広)

竹山広が詠っている情景は、少し違っている。おそらく横断歩道だろうが、車が停まる。その前を渡ろうとする。しかし、自分の歩行速度は以前と比べて遅くなっていることがわかっている。わかっているから、自ずと急ぎ足になる。そのことが、いまいましく腹立たしい。

 階段にも風呂にも手洗ひにも手摺をつけ用がふえたり右手左手
                       (吉野昌夫)

吉野昌夫の歌では、〈老い〉による身体能力衰退を補助する用具を備えたことによって、「用が増えたり右手左手」と詠っている。状況を受け入れながら、突き放して見ている。ユーモラスに。

 

子どもの「爪かみ」、大人はどう考えるか

子どもの「爪かみ」について、ある相談があった。どう捉え、どう考えるか。ここでは一般的な考え方を書いてみたい。

●薬処方の情報
「バイターストップ」という塗布薬があるとのこと。強い苦みがある、子どもが口に入れても害はない、抑止作用がある、ネットなどで販売している、とのこと。

◎考え方(参考)
1.癖?か ストレス?か について
 ①単なる「癖」? ……単純に癖だという場合もけっこうあると思います。活動的であるが、することが無い時に噛んでしまう、反対に慎重派でつい噛んでしまう、など。
    指先の爪が手近にあるので、そこにいってしまう、など。大きくなれば、自然にやめていくことが多い。

 ②ストレスから? ……親や大人との関係から来るストレス、子ども同士の関係から来るストレス、兄弟関係から来るストレスなどから爪かみすることが考えられる。
  ストレスの中身は、大人の過干渉、あるいは逆の愛情不足、兄弟の対応に冠する不満など。子ども同士の場合、集団の関係において自分の充足感が得られない、など。
    ストレス解消に伴い、やめていくことが考えられる。

 ③最初はストレスからだったが、癖になった……これは文字通り左のようなこと。

2.大人が気になるのは何か?
 ①爪かみの頻度、程度が気になる……頻繁に見かけて気になる、爪が割れたり変形して いて気になる
  ②衛生的に良くないと気になる……爪の奥の菌などを口に入れてしまうから気になる
 ③爪かみ自体が気になる……爪かみ行為そのものが気になる、そういう癖をやめて欲し  い、など。あるいは、ハッキリと把握できていないが、何かストレスを抱えているのではないかと、正体がつかめないので気になる

 

 要は、大人自身がよく自問して方向を定めること。感情的に対処しないこと。
映画「I am sam」より
3.大人の側の構え
 ①上記の「気になるのは何か」について、大人がよく把握しておくこと
 ②ストレスが考えられる場合、よく子どもを観察する。また、触れ合う時間を多くする。
    ●ストレスが考えられる場合、他にも何か特徴的なことが子どもの行動や表情に表れていないか、よく観察する。
    ●触れ合う時間をできるだけ多くする。これは、どこかの時点で爪かみのことを子どもに話したりする時に、話しやすくなる。
 ③爪かみことをどう話すか……子どもへの伝え方
    ●爪に薬を塗る場合、理由をよくわかるように伝えたい
    ●爪かみをやめて欲しい願いや理由をよくわかるように伝えたい
    ●ストレスが介在していた場合、爪かみのことを話すことで互いに良い場が持てたということを目指したい。また、一回だけの「通達」的な処理に終わらせない。


※〔参考〕……「癖」の語義
「くせ」は、「癖」と書くが「曲(くせ)」にも通じる。「癖」は「かたよった習慣」である。「曲」となると、「異常」や「妙」という意味合いが強くなる。反面、「癖」には単純に「いつもそうであること」という意味合いもある。つまり、当事者の主観と周囲の見方とがズレることがある。

6.ハンス・アスペルガーの二面性、その考察

      〔歴史のさんぽみち〕
 

ハンス・アスペルガーは、ナチ党員ではなかったと言われる。しかし、ナチがオーストリアを1938年に併合した後、「医学界のナチス」と称された「国家社会主義ドイツ医師連盟」で講演し、「国家が個より優先されるべきである。そのためには優生学を浸透させることが必要だ」と述べている。

つい近年、「相模原事件」が起きて、「優生学」が根強く存在していることに私たちは注意を向けなければならない。

自閉症の社会的認知にかかわる歴史の中で、確かにハンス・アスペルガーとローナ・ウィングの果たした役割は大きいだろう。ただ、ウィングが1980年代に苦労してアスペルガーの文献を発掘した時には、次の2つのことがある。1つは、アスペルガーはもう戦後は自閉症に関わることをやめていた。「優生学」に関与したことに口をつぐんでいたと考えられる。もう1つは、だからウィングはアスペルガーの二面性について認識していなかったと考えられる。

現在、「アスペルガー症候群」(AS)という診断名に「アスペルガー」の名を冠することはやめるべきだという主張がある。それは、今後、検討され議論されていくだろう。ただ、現在、「アスペルガー症候群」という診断名は「自閉症スペクトラム」という概念の中に包摂されている現状があり、やがて自然消滅していくのではないかと思われる。

そこで、ハンス・アスペルガーの二面性の問題点に戻るが、両方共に真実なのではないだろうか。アスペルガーは、「役に立つ」「見込みがある」限りにおいては情熱を傾け、「役に立たない」「見込みがない」となればいともたやすく「安楽死」の対象にしたのだと思える。

私たちが自閉症者に対するとき、どういうことを基盤にしていくのか問われることである。(了)