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・アスクル(2678)社長解任劇、「主謀者」は存在したのか(上)
アスクルは8月2日に定時株主総会を開き、創業社長の岩田彰一郎の再任案を否決した。アスクル株を46%保有する筆頭株主のヤフーと、2位株主で11%保有するプラスが反対した。
岩田氏の続投を取締役会に具申した独立役員会(独立社外取締役による任意の指名委員会)の3人の社外取締役も同時に解任された。
■少数株主を代弁する独立取締役を切り捨ててよいか
「過半数にも満たない支配株主が、100%保有している株主のように、経営トップの首をいとも簡単にすげ替えていいのか」
「気に入らないからといって、少数株主の利益の代弁者である独立取締役まで切り捨てていいのか」
日本取締役協会やコーポレート・ガバナンス・ネットワークなど、社外取締役の教育・研修を手掛ける機関はヤフーやプラスの動きを問題視している。
会社法には支配株主の権利は明記されているものの、少数株主に配慮する義務の規定がないという法制度の不備もあらわになっている。
今回の解任劇が少数株主の利益保護に向けた法改正の議論のきっかけになったのは間違いない。一方で、岩田氏解任の主謀者が誰なのかは依然闇の中だ。
アスクルがヤフーとの確執を明らかにした7月18日の記者会見後に岩田前社長は「宮内謙ソフトバンク社長の意思を感じた」と言い、総会が近づいてくると「孫さん(=ソフトバンクグループ〈SBG〉の孫正義・会長兼社長)が背後にいると感じた」とも語った。SBGはソフトバンクの親会社、ソフトバンクはヤフーの親会社、ヤフーはアスクルの親会社である。
1月にヤフーの川邊健太郎社長が岩田前社長を訪れた際、「軍隊と同じ。やらなかったら、やられる」とヤフー幹部が話したこと、1月の訪問で孫氏の名前が出たことが「宮内主謀説」や「孫主謀説」の論拠とされた。
ところが8月2日の総会後にSBGは次のようなコメントを発表した。
「孫個人は投資先との同志的な結合を何よりも重視するため、今回のような手段を講じる事について反対の意見を持っておりますが、このたびの件はヤフーの案件でありヤフー執行部が意思決定したものです。本件はヤフーの独立性を尊重して、ヤフー執行部の判断に任せております」
7日の決算説明会で孫社長は「私が後ろで糸を引いていたわけでもなく、忖度をさせたわけでもない」と自らの口で明確に否定した。
■宮内社長は「岩田前社長とは会ったこともない」
つまり、アスクルの解任劇は孫社長の意思ではないというのである。消去法で主謀者は宮内社長ということになる。
しかし、8月5日に開かれたソフトバンクの第1四半期決算説明会で、宮内社長は「ヤフーには私も役員として入っているし、川邊社長とは毎日のように情報交流をやっている。(アスクルの社長や独立役員を事実上解任するかどうかは)ヤフーの執行部が決めることで、アスクルの業績回復のために苦しい判断だったと思う」と語った。そのうえで「岩田前社長とは会ったこともない。ヤフーとアスクルとの業務・資本提携の詳しい契約内容も知らない」と明言した。
この宮内発言が事実ならば、川邊社長は1月に岩田前社長を訪問した際に、宮内社長や孫社長の存在をちらつかせることで、ヤフーとアスクルが2012年から共同で進めている個人向けネット通販事業「LOHACO」(以下、ロハコ)事業の譲渡や岩田社長の退任を迫ったということになる。
しかし、総会直前にアスクルが明らかにしたところによると、昨年12月に宮内社長とソフトバンクの榛葉淳副社長、ヤフーの川邊社長と小澤隆生常務(アスクルの社外取締役を兼任)が協議し、「ロハコをアスクルから分社化する方向でアスクルに申し入れる」ことにしたはずである。
この点について、5日の会見で宮内社長は「ヤフーとは毎週、『シナジーミーティング』を行っている。アスクルとヤフーとの協業を強化したらどうかという話はあったが、すでに45%持っているのに『わざわざアスクルからロハコを分離して…』という話が出たかといえば、確信をもって記憶にない」と語った。「ロハコをヤフーに吸収するとか、ロハコをアスクルから分離するという話はなかったのか」と念を押されると、「はい」と応じた。
そして、「ロハコは前期92億円の赤字でした。他社のことなので詳しく述べるわけにはいかないが、マスコミの皆さん、アスクルの実態をもっと調べられたらいかがですか。もっと(アスクルやロハコ事業の)業績をみてください。(アスクル解任劇には)事業を伸ばす大義があったのではないか。半年くらい経ったらそれが証明されてくると思いますよ」と語りかけた。
■2012年の第三者増資が法改正のきっかけに
岩田前社長のことを古くから知る関係者がみると、今回の騒動には既視感が漂う。2012年、発行済み株式数の74%に当たる新株をヤフーへ第三者で割り当て、株式は大きく希薄化した。
その結果、「当時、岩田社長は大株主から解任される見込みだったが、ヤフーへの巨額増資で大株主の持ち分を希薄化し、解任をのがれた」(関係者)という。
他社でも同様に大きく希薄化する事態が起き、「10%以上の議決権がある株主が増資に反対した時は株主総会で承認を得なければならない」という新ルールが会社法に盛り込まれるきっかけとなった。
総会2日前の7月31日にヤフーはアスクルの株主総会への意見を公表。その中で「上場企業のアスクルの経営の独立性を尊重することと、株主の議決権行使とは全く次元の異なる問題であり、岩田社長による主張は(中略)保身のために自身の社長続投を正当化しようとするものに他なりません」と指摘している。
前述の関係者も「『岩田社長の保身』というヤフーの指摘はその通り。第三者増資でヤフーから得た330億円はロハコの赤字拡大ですでに潰えているのだからその責任を問われて当然だ。後継者を育ててこなかったことにも『保身』は現れている」と手厳しい。
2012年の巨額増資と違い、今回は業務・資本提携時の契約に盛り込まれている「売り渡し請求権」を盾に、岩田前社長は抵抗しようとした。売り渡し請求権は、両社の提携関係が壊れたと判断したら、アスクルはヤフーから自社株を買い戻せるというもの。だが、「ヤフーから資本提携解消を否定しない意思表示があった」として、請求権発動を決議する8月1日の取締役会は前日になって延期された。この時点で岩田前社長の解任は決定的となった。
今回の騒動が岩田前社長の保身だったとしたら、社長解任の主謀者は岩田前社長の想像の産物にすぎず、そもそも存在しなかった可能性が出てくる。記者会見で岩田前社長が「ジャーナリストの正義感に感謝する」と繰り返すのを聞いて、違和感のようなものを感じた記者は少なくないだろう。「ジャーナリストの正義感」はロハコの赤字から目をそらす、岩田前社長の保身の隠れ蓑にされたのだろうか。
(百万円) 売上高 営業利益 経常利益 純利益 1株益¥ 1株配¥
連本2019.05 387,470 4,520 4,418 434 8.5 36
連本2020.05予 404,000 8,800 8,600 5,400 105.8 38
連本2021.05予 415,000 9,300 9,100 5,700 111.7 38
連中2018.11 191,437 1,029 958 315 6.2 18
連中2019.11予 200,000 2,000 1,900 1,300 25.5 18
アスクルは8月2日に定時株主総会を開き、創業社長の岩田彰一郎の再任案を否決した。アスクル株を46%保有する筆頭株主のヤフーと、2位株主で11%保有するプラスが反対した。
岩田氏の続投を取締役会に具申した独立役員会(独立社外取締役による任意の指名委員会)の3人の社外取締役も同時に解任された。
■少数株主を代弁する独立取締役を切り捨ててよいか
「過半数にも満たない支配株主が、100%保有している株主のように、経営トップの首をいとも簡単にすげ替えていいのか」
「気に入らないからといって、少数株主の利益の代弁者である独立取締役まで切り捨てていいのか」
日本取締役協会やコーポレート・ガバナンス・ネットワークなど、社外取締役の教育・研修を手掛ける機関はヤフーやプラスの動きを問題視している。
会社法には支配株主の権利は明記されているものの、少数株主に配慮する義務の規定がないという法制度の不備もあらわになっている。
今回の解任劇が少数株主の利益保護に向けた法改正の議論のきっかけになったのは間違いない。一方で、岩田氏解任の主謀者が誰なのかは依然闇の中だ。
アスクルがヤフーとの確執を明らかにした7月18日の記者会見後に岩田前社長は「宮内謙ソフトバンク社長の意思を感じた」と言い、総会が近づいてくると「孫さん(=ソフトバンクグループ〈SBG〉の孫正義・会長兼社長)が背後にいると感じた」とも語った。SBGはソフトバンクの親会社、ソフトバンクはヤフーの親会社、ヤフーはアスクルの親会社である。
1月にヤフーの川邊健太郎社長が岩田前社長を訪れた際、「軍隊と同じ。やらなかったら、やられる」とヤフー幹部が話したこと、1月の訪問で孫氏の名前が出たことが「宮内主謀説」や「孫主謀説」の論拠とされた。
ところが8月2日の総会後にSBGは次のようなコメントを発表した。
「孫個人は投資先との同志的な結合を何よりも重視するため、今回のような手段を講じる事について反対の意見を持っておりますが、このたびの件はヤフーの案件でありヤフー執行部が意思決定したものです。本件はヤフーの独立性を尊重して、ヤフー執行部の判断に任せております」
7日の決算説明会で孫社長は「私が後ろで糸を引いていたわけでもなく、忖度をさせたわけでもない」と自らの口で明確に否定した。
■宮内社長は「岩田前社長とは会ったこともない」
つまり、アスクルの解任劇は孫社長の意思ではないというのである。消去法で主謀者は宮内社長ということになる。
しかし、8月5日に開かれたソフトバンクの第1四半期決算説明会で、宮内社長は「ヤフーには私も役員として入っているし、川邊社長とは毎日のように情報交流をやっている。(アスクルの社長や独立役員を事実上解任するかどうかは)ヤフーの執行部が決めることで、アスクルの業績回復のために苦しい判断だったと思う」と語った。そのうえで「岩田前社長とは会ったこともない。ヤフーとアスクルとの業務・資本提携の詳しい契約内容も知らない」と明言した。
この宮内発言が事実ならば、川邊社長は1月に岩田前社長を訪問した際に、宮内社長や孫社長の存在をちらつかせることで、ヤフーとアスクルが2012年から共同で進めている個人向けネット通販事業「LOHACO」(以下、ロハコ)事業の譲渡や岩田社長の退任を迫ったということになる。
しかし、総会直前にアスクルが明らかにしたところによると、昨年12月に宮内社長とソフトバンクの榛葉淳副社長、ヤフーの川邊社長と小澤隆生常務(アスクルの社外取締役を兼任)が協議し、「ロハコをアスクルから分社化する方向でアスクルに申し入れる」ことにしたはずである。
この点について、5日の会見で宮内社長は「ヤフーとは毎週、『シナジーミーティング』を行っている。アスクルとヤフーとの協業を強化したらどうかという話はあったが、すでに45%持っているのに『わざわざアスクルからロハコを分離して…』という話が出たかといえば、確信をもって記憶にない」と語った。「ロハコをヤフーに吸収するとか、ロハコをアスクルから分離するという話はなかったのか」と念を押されると、「はい」と応じた。
そして、「ロハコは前期92億円の赤字でした。他社のことなので詳しく述べるわけにはいかないが、マスコミの皆さん、アスクルの実態をもっと調べられたらいかがですか。もっと(アスクルやロハコ事業の)業績をみてください。(アスクル解任劇には)事業を伸ばす大義があったのではないか。半年くらい経ったらそれが証明されてくると思いますよ」と語りかけた。
■2012年の第三者増資が法改正のきっかけに
岩田前社長のことを古くから知る関係者がみると、今回の騒動には既視感が漂う。2012年、発行済み株式数の74%に当たる新株をヤフーへ第三者で割り当て、株式は大きく希薄化した。
その結果、「当時、岩田社長は大株主から解任される見込みだったが、ヤフーへの巨額増資で大株主の持ち分を希薄化し、解任をのがれた」(関係者)という。
他社でも同様に大きく希薄化する事態が起き、「10%以上の議決権がある株主が増資に反対した時は株主総会で承認を得なければならない」という新ルールが会社法に盛り込まれるきっかけとなった。
総会2日前の7月31日にヤフーはアスクルの株主総会への意見を公表。その中で「上場企業のアスクルの経営の独立性を尊重することと、株主の議決権行使とは全く次元の異なる問題であり、岩田社長による主張は(中略)保身のために自身の社長続投を正当化しようとするものに他なりません」と指摘している。
前述の関係者も「『岩田社長の保身』というヤフーの指摘はその通り。第三者増資でヤフーから得た330億円はロハコの赤字拡大ですでに潰えているのだからその責任を問われて当然だ。後継者を育ててこなかったことにも『保身』は現れている」と手厳しい。
2012年の巨額増資と違い、今回は業務・資本提携時の契約に盛り込まれている「売り渡し請求権」を盾に、岩田前社長は抵抗しようとした。売り渡し請求権は、両社の提携関係が壊れたと判断したら、アスクルはヤフーから自社株を買い戻せるというもの。だが、「ヤフーから資本提携解消を否定しない意思表示があった」として、請求権発動を決議する8月1日の取締役会は前日になって延期された。この時点で岩田前社長の解任は決定的となった。
今回の騒動が岩田前社長の保身だったとしたら、社長解任の主謀者は岩田前社長の想像の産物にすぎず、そもそも存在しなかった可能性が出てくる。記者会見で岩田前社長が「ジャーナリストの正義感に感謝する」と繰り返すのを聞いて、違和感のようなものを感じた記者は少なくないだろう。「ジャーナリストの正義感」はロハコの赤字から目をそらす、岩田前社長の保身の隠れ蓑にされたのだろうか。
(百万円) 売上高 営業利益 経常利益 純利益 1株益¥ 1株配¥
連本2019.05 387,470 4,520 4,418 434 8.5 36
連本2020.05予 404,000 8,800 8,600 5,400 105.8 38
連本2021.05予 415,000 9,300 9,100 5,700 111.7 38
連中2018.11 191,437 1,029 958 315 6.2 18
連中2019.11予 200,000 2,000 1,900 1,300 25.5 18
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※投資の最終的な判断はご自身でお願い致します。
このブログに掲載の情報は、投資を保証するものでは一切御座いません。

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