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・トヨタ自動車(7203)トヨタ「電気自動車」でついに本気を出した理由(1)(2)(3)(4)-EV向けリチウム電池調達で中国企業とタッグ
トヨタ自動車が車両の電動化にいよいよアクセルを踏む――。
6月9日、同社は世界で販売する車の半分にあたる550万台をハイブリッド車(HV)などの電動車にする目標時期を2025年とし、従来の計画から5年前倒しすることを明らかにした。トヨタの2018年の電動車販売は163万台と、新車販売全体の約15%を占める。この台数を7年で3倍以上に引き上げる構えだ。
2030年をターゲットとした従来の販売計画は2017年12月に発表した。その内訳はHVとプラグインハイブリッド車(PHV)で450万台以上、EVと燃料電池車(FCV)で100万台以上としていた。「HVの台数が思った以上に伸びてきたことで、5年前倒しになるかなりの部分はHVになりそうだ」(寺師茂樹副社長)。実際、トヨタのHVは欧州や中国での販売が好調で2019年は前年を1割上回るペースで伸びている。
■計画を5年前倒しにする理由
ただ、トヨタが計画を5年前倒しするのは、単にHVの販売が伸びているだけではない。背景には世界中で強化される環境規制がある。特に厳しくなるのがCAFE(企業平均燃費)規制だ。
各国は自動車メーカーごとに販売された車両の平均重量に基づいて平均燃費値の目標を定めている。最も厳しい欧州は2021年、2025年、2030年と段階的に基準を引き上げる。2030年の水準は現在走っている車両の半分をEVに置き換えないと達成できないレベル。日本や中国も欧州の基準を追随する。トヨタとしては「HVでできるだけ企業平均燃費を下げ、足りない部分をPHVやEVで対応する」(寺師副社長)方針だ。
トヨタの場合、目下の課題はEVラインナップの充実だ。EVの最大市場である中国では、今年から自動車メーカーにEVなどの新エネルギー車両を一定比率生産することを義務づけるNEV規制がスタート。カリフォルニア州などアメリカの一部の州も同様の規制を持つ。トヨタのEV販売は、アメリカ・テスラやドイツ・フォルクスワーゲン(VW)、ダイムラーなどの後塵を排する。2018年に中国での合弁相手、広州汽車ブランドでEVを発売しているが、自社ブランドの商品はまだない。
トヨタは2020年に中国を皮切りに自社開発のEVを本格投入し、2020年代前半には世界10車種以上をラインナップする計画を掲げる。トヨタでEVやFCVの開発を担うZEVファクトリーの豊島浩二部長は「EVの世界で遅れているというのはしっかりと認識しているので、われわれはしっかりと皆さんについていく。その中からわれわれらしいEVを作っていきたい」と謙虚な姿勢を見せる。
■昨年のEV市場規模は新車販売全体の1%
トヨタはEVの商品展開ではいわば後発組だが、自動車市場全体で見ればEVの普及はこれからだ。2018年のEVの世界市場規模は121万台(トヨタ調べ)と新車販売全体の1%にすぎない。新車では世界販売首位のVWも2018年のEV販売台数は約4万台にとどまる。その中で、トヨタはどう巻き返しを図るのか。
トヨタは近距離移動を目的とした超小型EVを日本で発売する計画だ(撮影:今井康一)
こだわるのは効率的な開発だ。トヨタが世界展開するEVとして想定する大まかなバリエーションは6種類で、サイズの参考として説明会の会場に並んだ。コンパクト車はダイハツ工業やスズキ、ミディアムSUV(スポーツ多目的車)はスバルと共同開発する。ミディアムセダン、ミディアムクロスオーバー、ラージSUV、ミディアムミニバンについても、得意分野を持つパートナーとの共同開発を検討する。
トヨタと資本業務提携の関係にあるマツダは「CXシリーズ」でSUVを展開しており、パートナー入りする可能性が高い。豊島部長もマツダとは「緩く話をさせてもらっている」とする。
さらに今回、トヨタはEVの普及に向けて、開発・販売から廃棄まで一貫したビジネスモデルを打ち出した。販売に加えてリースも展開し、気軽にEVを使えるようにする。使われた電池の状態を査定する仕組みも作り、EVの中古車を販売したり、住宅用蓄電池などほかの用途で電池を再利用したりする新しいビジネスにも取り組む。現時点では40の企業や自治体と協力に向けて話をしているという。
EVの生産を増やすためには、中核部品であるリチウムイオン電池の安定確保が欠かせない。電池は航続距離など車の性能を左右するだけでなく、安くなってきたとはいえ依然、製造原価の3割程度を占めるとされ、価格競争力にも直結する。
トヨタは電動車の販売計画前倒しに伴い、2025年には現在の20倍の電池容量が必要になると想定。「すべてを自分たちで賄うことはできない」(寺師副社長)と判断し、地域ごとに電池メーカーと協業する方針だ。
トヨタの電池のパートナーは長らくパナソニックだった。1996年に合弁でプライムアースEVエナジー(PEVE)という車載電池生産会社を設立(現在の出資比率はトヨタが80.5%、パナが19.5%)し、HV向けの電池を調達してきた。需要増に対応するため、今年1月には2社で車載用電池の新しい合弁会社を2020年末までに設立し、EVやPHV向けの高容量電池を開発、生産することを発表。新会社にはパナが持つ国内3工場に加え、中国・大連の工場も移管される。
■加速する車載電池での協業
これまでパナと二人三脚で歩んできた車載電池事業に今後は東芝、GSユアサ、豊田自動織機、それに中国勢も加わる。CATL(寧徳時代新能源科技)とBYDの2社だ。CATLは2017年に車載用リチウム電池の出荷量でパナを抜き首位に立った。BYDは3位につけパナの背中を追う。世界市場ではパナと激しく争う中国メーカー2社とトヨタは組むことになる。
中国は国策として国内EV関連産業の発展を目指すべく、中国製バッテリーを搭載した新エネルギー車を対象に多額の販売助成金を支給してきた。ただし、すべての中国製バッテリーが補助金の対象だったわけではなく、中国政府から認定を受けたメーカーに限られていた。いわゆる「ホワイトリスト」と呼ばれるものでパナなど外資メーカーの多くは対象から外れていた。
補助金効果で数多くのEVメーカーやEV関連企業が生まれたが、中国政府は今後競争を促進させるため、2020年に補助金を打ち切り、ホワイトリストも撤廃する方針だ。そうなれば、電池調達の自由度は増し、外資電池メーカーも中国メーカーと同じ土俵で戦えるようになる。パナとしても願ったりかなったりであろう。トヨタが中国で2020年に発売を予定するEVの「C-HR」や「IZOA」にはパナソニックが中国で製造する電池が供給されるとみられている。
それではなぜ今トヨタはCATLやBYDと組むのか。中国の自動車産業に詳しいみずほ銀行法人推進部の湯進(タン・ジン)主任研究員は、「CATLやBYDのリチウム電池は品質面でパナソニックと遜色がなく、価格競争力もある。中国の2社と組むことで供給面の課題もクリアできる」と今回の提携を評価する。トヨタで中国事業を統括する上田達郎執行役員は「中国のローカルサプライヤーも力をつけてきている。品質に遜色がなければ、後は競争力ということになる」と話す。
■CATLは欧州での生産能力を増強
リチウム電池世界首位のCATLは今後の欧州でのEV販売拡大を見込み、現在ドイツにリチウム電池工場を建設中。2021年に生産開始予定で2022年には同工場で14ギガワット時の生産体制を目指す。
2017年のCATL全体の世界出荷実績(21.2GWh)の3分の2に匹敵する大規模な投資だ。大量受注したドイツのBMWのほかVWやダイムラー、イギリスのジャガー・ランドローバー(JLR)などに幅広くリチウム電池を供給する計画だ。
トヨタは現時点ではCATL製電池は中国で販売するEV向けに調達を受けるとするが、今後は欧州で販売されるEVに搭載される可能性もありそうだ。トヨタパワートレーンカンパニー電池事業領域の海田啓司領域長は、「CATL製電池をまず中国向けに導入することを考えているのは、EVが一番求められている地域だからだ。各社の電池をどのエリアに使うかは、今後の車両の性能や各地域の状況に応じて柔軟に最適な配分をお願いする」とする。
CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)と呼ばれる新技術領域が加速し、最近は自動車業界の内外を問わず「仲間づくり」に忙しいトヨタ。豊田章男社長は今年5月の決算説明会で、仲間づくりのキーワードとして「オープン&スピード」を掲げ、「トヨタが選ぶわけではなく、選ばれる立場になることが重要。自分たちの強みと弱みを理解したうえでパートナーから認めてもらう競争力と信頼度を身につけないといけない」と強調した。
「エコカーは普及してこそ初めて役に立つ」というのがトヨタの信条。ただ、最終的にEVが売れるかどうかはやはり消費者次第だ。トヨタのEVだからこそ、顧客に提供できる価値とは何か。EVの市場投入本格化を控える今こそ、本質的な問いにじっくり向き合うときかもしれない。
トヨタ自動車が車両の電動化にいよいよアクセルを踏む――。
6月9日、同社は世界で販売する車の半分にあたる550万台をハイブリッド車(HV)などの電動車にする目標時期を2025年とし、従来の計画から5年前倒しすることを明らかにした。トヨタの2018年の電動車販売は163万台と、新車販売全体の約15%を占める。この台数を7年で3倍以上に引き上げる構えだ。
2030年をターゲットとした従来の販売計画は2017年12月に発表した。その内訳はHVとプラグインハイブリッド車(PHV)で450万台以上、EVと燃料電池車(FCV)で100万台以上としていた。「HVの台数が思った以上に伸びてきたことで、5年前倒しになるかなりの部分はHVになりそうだ」(寺師茂樹副社長)。実際、トヨタのHVは欧州や中国での販売が好調で2019年は前年を1割上回るペースで伸びている。
■計画を5年前倒しにする理由
ただ、トヨタが計画を5年前倒しするのは、単にHVの販売が伸びているだけではない。背景には世界中で強化される環境規制がある。特に厳しくなるのがCAFE(企業平均燃費)規制だ。
各国は自動車メーカーごとに販売された車両の平均重量に基づいて平均燃費値の目標を定めている。最も厳しい欧州は2021年、2025年、2030年と段階的に基準を引き上げる。2030年の水準は現在走っている車両の半分をEVに置き換えないと達成できないレベル。日本や中国も欧州の基準を追随する。トヨタとしては「HVでできるだけ企業平均燃費を下げ、足りない部分をPHVやEVで対応する」(寺師副社長)方針だ。
トヨタの場合、目下の課題はEVラインナップの充実だ。EVの最大市場である中国では、今年から自動車メーカーにEVなどの新エネルギー車両を一定比率生産することを義務づけるNEV規制がスタート。カリフォルニア州などアメリカの一部の州も同様の規制を持つ。トヨタのEV販売は、アメリカ・テスラやドイツ・フォルクスワーゲン(VW)、ダイムラーなどの後塵を排する。2018年に中国での合弁相手、広州汽車ブランドでEVを発売しているが、自社ブランドの商品はまだない。
トヨタは2020年に中国を皮切りに自社開発のEVを本格投入し、2020年代前半には世界10車種以上をラインナップする計画を掲げる。トヨタでEVやFCVの開発を担うZEVファクトリーの豊島浩二部長は「EVの世界で遅れているというのはしっかりと認識しているので、われわれはしっかりと皆さんについていく。その中からわれわれらしいEVを作っていきたい」と謙虚な姿勢を見せる。
■昨年のEV市場規模は新車販売全体の1%
トヨタはEVの商品展開ではいわば後発組だが、自動車市場全体で見ればEVの普及はこれからだ。2018年のEVの世界市場規模は121万台(トヨタ調べ)と新車販売全体の1%にすぎない。新車では世界販売首位のVWも2018年のEV販売台数は約4万台にとどまる。その中で、トヨタはどう巻き返しを図るのか。
トヨタは近距離移動を目的とした超小型EVを日本で発売する計画だ(撮影:今井康一)
こだわるのは効率的な開発だ。トヨタが世界展開するEVとして想定する大まかなバリエーションは6種類で、サイズの参考として説明会の会場に並んだ。コンパクト車はダイハツ工業やスズキ、ミディアムSUV(スポーツ多目的車)はスバルと共同開発する。ミディアムセダン、ミディアムクロスオーバー、ラージSUV、ミディアムミニバンについても、得意分野を持つパートナーとの共同開発を検討する。
トヨタと資本業務提携の関係にあるマツダは「CXシリーズ」でSUVを展開しており、パートナー入りする可能性が高い。豊島部長もマツダとは「緩く話をさせてもらっている」とする。
さらに今回、トヨタはEVの普及に向けて、開発・販売から廃棄まで一貫したビジネスモデルを打ち出した。販売に加えてリースも展開し、気軽にEVを使えるようにする。使われた電池の状態を査定する仕組みも作り、EVの中古車を販売したり、住宅用蓄電池などほかの用途で電池を再利用したりする新しいビジネスにも取り組む。現時点では40の企業や自治体と協力に向けて話をしているという。
EVの生産を増やすためには、中核部品であるリチウムイオン電池の安定確保が欠かせない。電池は航続距離など車の性能を左右するだけでなく、安くなってきたとはいえ依然、製造原価の3割程度を占めるとされ、価格競争力にも直結する。
トヨタは電動車の販売計画前倒しに伴い、2025年には現在の20倍の電池容量が必要になると想定。「すべてを自分たちで賄うことはできない」(寺師副社長)と判断し、地域ごとに電池メーカーと協業する方針だ。
トヨタの電池のパートナーは長らくパナソニックだった。1996年に合弁でプライムアースEVエナジー(PEVE)という車載電池生産会社を設立(現在の出資比率はトヨタが80.5%、パナが19.5%)し、HV向けの電池を調達してきた。需要増に対応するため、今年1月には2社で車載用電池の新しい合弁会社を2020年末までに設立し、EVやPHV向けの高容量電池を開発、生産することを発表。新会社にはパナが持つ国内3工場に加え、中国・大連の工場も移管される。
■加速する車載電池での協業
これまでパナと二人三脚で歩んできた車載電池事業に今後は東芝、GSユアサ、豊田自動織機、それに中国勢も加わる。CATL(寧徳時代新能源科技)とBYDの2社だ。CATLは2017年に車載用リチウム電池の出荷量でパナを抜き首位に立った。BYDは3位につけパナの背中を追う。世界市場ではパナと激しく争う中国メーカー2社とトヨタは組むことになる。
中国は国策として国内EV関連産業の発展を目指すべく、中国製バッテリーを搭載した新エネルギー車を対象に多額の販売助成金を支給してきた。ただし、すべての中国製バッテリーが補助金の対象だったわけではなく、中国政府から認定を受けたメーカーに限られていた。いわゆる「ホワイトリスト」と呼ばれるものでパナなど外資メーカーの多くは対象から外れていた。
補助金効果で数多くのEVメーカーやEV関連企業が生まれたが、中国政府は今後競争を促進させるため、2020年に補助金を打ち切り、ホワイトリストも撤廃する方針だ。そうなれば、電池調達の自由度は増し、外資電池メーカーも中国メーカーと同じ土俵で戦えるようになる。パナとしても願ったりかなったりであろう。トヨタが中国で2020年に発売を予定するEVの「C-HR」や「IZOA」にはパナソニックが中国で製造する電池が供給されるとみられている。
それではなぜ今トヨタはCATLやBYDと組むのか。中国の自動車産業に詳しいみずほ銀行法人推進部の湯進(タン・ジン)主任研究員は、「CATLやBYDのリチウム電池は品質面でパナソニックと遜色がなく、価格競争力もある。中国の2社と組むことで供給面の課題もクリアできる」と今回の提携を評価する。トヨタで中国事業を統括する上田達郎執行役員は「中国のローカルサプライヤーも力をつけてきている。品質に遜色がなければ、後は競争力ということになる」と話す。
■CATLは欧州での生産能力を増強
リチウム電池世界首位のCATLは今後の欧州でのEV販売拡大を見込み、現在ドイツにリチウム電池工場を建設中。2021年に生産開始予定で2022年には同工場で14ギガワット時の生産体制を目指す。
2017年のCATL全体の世界出荷実績(21.2GWh)の3分の2に匹敵する大規模な投資だ。大量受注したドイツのBMWのほかVWやダイムラー、イギリスのジャガー・ランドローバー(JLR)などに幅広くリチウム電池を供給する計画だ。
トヨタは現時点ではCATL製電池は中国で販売するEV向けに調達を受けるとするが、今後は欧州で販売されるEVに搭載される可能性もありそうだ。トヨタパワートレーンカンパニー電池事業領域の海田啓司領域長は、「CATL製電池をまず中国向けに導入することを考えているのは、EVが一番求められている地域だからだ。各社の電池をどのエリアに使うかは、今後の車両の性能や各地域の状況に応じて柔軟に最適な配分をお願いする」とする。
CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)と呼ばれる新技術領域が加速し、最近は自動車業界の内外を問わず「仲間づくり」に忙しいトヨタ。豊田章男社長は今年5月の決算説明会で、仲間づくりのキーワードとして「オープン&スピード」を掲げ、「トヨタが選ぶわけではなく、選ばれる立場になることが重要。自分たちの強みと弱みを理解したうえでパートナーから認めてもらう競争力と信頼度を身につけないといけない」と強調した。
「エコカーは普及してこそ初めて役に立つ」というのがトヨタの信条。ただ、最終的にEVが売れるかどうかはやはり消費者次第だ。トヨタのEVだからこそ、顧客に提供できる価値とは何か。EVの市場投入本格化を控える今こそ、本質的な問いにじっくり向き合うときかもしれない。
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※投資の最終的な判断はご自身でお願い致します。
このブログに掲載の情報は、投資を保証するものでは一切御座いません。

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