嫌なことを思い出してしまった。今日は早く寝て、とっとと忘れてしまおう。

  そう思った矢先、新たな悲劇が―もとい、好機が生まれようとしていた。

  道の上でうずくまる、1匹の子猫。
  それに向かって、3tはありそうな輸送用トラックが、まっすぐ、物凄い速さで突っ込んできている。猫に気付く気配はない。
  気づかないのか動けないのか、子猫は動こうとしない。

  確実だと思った。

  これなら、死ねると。

  何のためらいもなく、俺はそのトラックの前に飛び出した。

  するとトラックは、それこそ目を覚ましたように、華麗なドリフトを決めて俺の前に停車した。

  ……いや、さすがにおかしいだろ。なんで3tトラックがドリフト決めれるんだよこんな雨の中で!

  文句をぶつけようと1歩踏み出したが、不思議な感覚に足を止めた。

「みゃー」

  足元を見ると、さっきの子猫が足に頬ずりをしていた。茶色っぽい目をした、黒猫。運転手が気付かなかったのは、黒猫だから、なのだろうか。

  しかし、不思議な感覚、というのはこれではない。足を上げてみると、粉々になった煮干しが地面に拡がっていた。

  コイツがあんなところにうずくまってたのは、これのせいだろう。

「食い意地張ったやつだな……。俺以外のやつは、余計に死ぬ必要なんてないっての」

  俺はそう呟くと、子猫を抱え、歩道脇まで運んだ。

「ふう…これからは、あんなところで飯食うなよ?」

 注意するようにそう言うと、俺はまた帰路についた。

  背中へ、「みゃー」と、なにか言いたげな声が投げかけられた気がした。