激しく高鳴るブレーキの音。
雨の中、飛沫を上げながら、そのトラックは―。
どうやら俺の行動を素早く感じ取ったようで、案の定、俺の数cm手前でその動きを止めてしまった。
ため息すら出ない。できるだけ開けていないところから飛び出したつもりなのに。なんだってこう、最近の運転手は注意が行き届いてるんだ。
「 …なんで轢いてくれなかったのさ。……もういいよ。」
運転手がなにかと叫んでいたが、聞こえない。僕は一言呟いて、その場をあとにした。
自分で死ぬことすら許されないなんて、俺は神にも仏からも嫌われたのだろうか。
俺は、死ぬほど運がいいらしい。実際には、死んだことはないのだけど。
何年前だろうか。小さい頃、両親とドライブに出かけていたときだ。今日のように、急に降り出した雨のせいか、突然、観光バスが突っ込んできた。流れ出たガソリンにも引火。最悪の事態となった。
家族、観光客共に全滅。
俺を除いて。
ぶつかった衝撃で、たまたま近くを流れていた川に投げ出され、軽い怪我はしたものの、一命を取り留めたのだ。
そのときに見た、鉄くずの間に挟まれ、燃え盛る炎に包まれる人たち。あの地獄絵図は、未だに忘れられない。
その日から、不思議なことに……誠に不快なことに。
俺はかなりの強運の持ち主となった。
道路に飛び足せば来た車両は必ず止まる。焼身しようものなら水をかけられるか急などしゃ降り。身投げした時なんて、何人もの人が救出に来てしまう。
死ぬほど運がいいがために死ねないなんて。皮肉なことだ。
―あの時に、死ねたなら。
胸のうちに湧いてきたもどかしい感情を抑え、俺は帰路に着いた。