子猫の皮膚外傷に対するハチミツドレッシング療法 | セントラル動物病院・院長ブログ

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 草むらで弱々しく泣き声をあげていた子猫を保護してAさんが診察に来られました。

カラスにでも攻撃されたのでしょうか?子猫の頭の皮膚はすっかりなくなり頭蓋骨が露出していました。傷口は茶色に変色し乾燥しており、受傷後数日が経過していると思われました。

皮膚の欠損部があまりにも大きすぎて皮膚を縫い合わせて傷口を閉じることは難しい状態でした。このような大きな皮膚欠損を修復する方法としてはすぐ近くの首の皮膚を切開して反転させて頭部の皮膚欠損部を被う方法(自家皮膚移植)も考えられましたが子猫にとってはかなりの手術ストレスになります。それに現在の傷の状態では皮膚を移植しても成功しないと思われました。 さまざまな治療法を検討し飼い主さんと相談の結果、「ハチミツドレッシング」法で治療することにしました。「ハチミツドレッシング」法とは傷口にハチミツを塗布し傷口の乾燥を防ぐとともに皮膚の再生に必要なコラーゲンや血管を誘導して傷口を閉鎖する方法です。つまり動物の自然治癒力を邪魔しないようにするとともに治癒力を助ける治療法です。

 ハチミツには殺菌作用と皮膚の炎症軽減作用と患部の組織に対する栄養補給による皮膚組織の再生促進作用があるといわれています。

 

治療は1週間に1回ハチミツ傷口に塗り、傷口が乾燥しないよう湿潤包帯で傷口を保護しました。ハチミツには殺菌作用があるとはいえハチミツ単独の治療では細菌感染を防ぐことができるかどうか不安だったので念のために抗生剤の内服治療を併用しました。

 

 

初診時の写真です。頭の皮膚は広い範囲で壊死をおこし茶色に乾燥していました。

 

治療2週間目です。周囲の皮膚からコラーゲンと血管が増殖しきれいな肉芽組織が増生してきました。子猫の自然治癒力の強さに驚嘆です!

 

治療1ヶ月後。皮膚欠損部は全体が肉芽組織でおおわれ傷口が少し小さくなりました。

治療2ヶ月後、傷口は50円玉の大きさにまで縮小しました。

 

治療2ヶ月半後、傷口は完全に閉鎖しました。治療終了です!

 

立派な男前になりました。

 

 今回は皮膚移植などの外科処置はさけ、子猫の自然治癒力を期待してハチミツによる湿潤包帯により傷口の乾燥を防ぎ、再生組織を傷害しないよう注意をしながらの治療でした。消毒薬は再生組織を障害する恐れがあるために一切使用しないで、温めた生理食塩液で軽く洗浄する程度にしました。外科処置に較べると地味で時間はかかりますが動物の負担も少なくうまく治療できました。この治療法は海外では広範囲の火傷の治療での使用例が報告されています。