駅前のおにぎり屋さんに立ち寄って,今日のお昼ごはんを調達しようとする自分。
ここのおにぎりはふんわかしていて人気だ。
ご飯時にはまだ間があり,そんなに混んでいない。
おにぎりの種類と値段が書いてあるボードを見上げながら,素早く品を選ぶ。
「いらっしゃいませ」
「え~っと,すいません」
「はい,何にいたしましょう」
「梅ふたつと,こんぶふたつと・・・」
注文しているうちに,なんか具合がヘンなことに気付く。
この売り子のオバサン,どっかで見たことがあるようなないような・・・・・
この声,以前に聞いたことがあるようなないような・・・・・
う~ん,思い出せん。
・・・そう言えば!
この売り子さん,チビさんと言って,以前にカラオケスナックで会ったヒトだ。
と言っても,それは17~8年前のこと。
当時はまだバブリーな時代。
親の脛かじって,アホ学生をしていた自分。
なんやかんやと理由を作っては,繁華街にあるカラオケスナックに通っていた。
たった7~8席ほどのカウンター席しかない小さなスナック。
酸いも甘いもかみ分けた老獪・毒舌ママ(推定60歳)が一人で切り盛りしている。
週末にはそこそこ客は入るが,平日はガラガラ。
今日は客足がいまいち・・・という時には,ママから電話がかかってくる。
特に何があるわけでもない自分。
まぁちょっと飲みに行くかと,言われるがまま出かける。
水割りを数杯飲みながら,遅くまでママと話をしていると,夜中の12時をまわる頃にふらっと訪れる女性が一人。
それが,チビさんだった。
チビさんは仕事帰りらしく,けっこう派手めな服と化粧をしている。
たぶん水商売関係のヒトらしいことは分かる。
店にやってきたチビさんは,カウンター内に入ってママの手伝いを始める。
どうやらチビさんは,このカラオケスナックにアルバイト感覚でやってきているようだ。
その日の売り上げのいくらかをママからもらっていた・・・そんなところだと思う。
時には客然としてカウンターに座り,いろんな愚痴めいたことをママにこぼすこともあった。
そんなチビさんに対するママは,まるで母のよう。
チビさんに対するあれやこれやのアドバイスや指示には,母性愛のようなやさしさを感じる。
そんなママがよくこぼしていた。
チビは水商売には向いてへん。
早よ足洗い!って,言ってるんやけど。
なにしろ,若いだけで不器用。
しゃべりがヘタ。
歌もヘタ。
それにそんなに可愛くもないし。
あれじゃ,客がつかへんわ。
自分の店を持ちたいって言ってるけど,まぁムリムリ。
そのうち風俗に行ったりしないかと心配で心配でね。
だから,どうしても捨てられずに面倒見ちゃってるワケ。
そう思うでしょ?,シノちゃんも。
そう言われても,そう思っていても,そうだと言えぬ若かりし自分。
確かに会話はヘタだ。
歌も音痴で聞いてられへん。
でも,ヒトの向き不向きなんてそう簡単には分かれへんし。
がんばったらがんばったで,何か道が開けるかもしれんし。
そんな優等生的な感想を持ったのを覚えている。
大学卒業と同時に,フラフラと飲み歩くこともなくなり,パタリと止んだスナック通い。
あれから十数年。
年余を経て再会した,化粧っ気のないオバサン顔のチビさん。
売り子さんにしてみれば,ちょっと年取りすぎな気がせんでもない。
注文品を奥の調理場へ伝えて,次の客の注文を取る。
出来た品を袋詰めして,レジで勘定する。
混雑時には,接客人員がもう一人二人いないと仕事が廻らないかもしれん。
奥の調理場でおむすびを作る数人の人達からも,いろいろと質問やらが飛んでくる。
「○○はやってあんの?」
「いえ,まだです,すいません」
「すんません,次の注文いい?」
「はい,少々お待ち下さい」
当時は不器用ながらも精一杯だったチビさん。
あれから十数年の時が流れても,チビさんは相変わらず。
ぶきっちょで精一杯なのを感じる。
確かに正解だったのかもしれん。
「チビは水商売,向いてへん」というママの冷静な指摘は。
確かに不正解だったかもしれん。
がんばればなんとかなるんちゃう?って思ってた自分は。
「お待たせしてすいません,○○円です」
「どうも,ありがとう」
最後の営業スマイルが,もう若いとは言えないチビさんの顔の皺を強調させる。
時の流れは冷徹だと思うけれど,しかしそこにはいつもニコニコしていたあのチビさんの面影があった。
がんばりや! チビさん。